第五話:回り始めた歯車
第五話
馬水雫さんと付き合い始めて二日が経った。
二日のうちに変わる事なんて早々無いと思っていたけれど、それは俺の思いすごし…ちゃんと、仲良くなれているはずだ。
「えっとね、今日は…お弁当を作ってきたんだ」
ショートカットの女の子が照れてそんなことを言ってくれる。
断言しよう、刺されて死んでも俺はいいよ。
「ど、どうかした?」
「うん、あまりの感動に涙が流れそう…必死にこらえているところ」
まさかこんなに嬉しい日がやってくるなんて誰にお礼を言えばいいんだろう。
雫さん?それとも、俺?先生?俺のことを生んでくれた母さん?
おそらく、神様にでも手を合わせておけばいいんだろう。
「何してるの?」
「ああ、ちょっとこの世に生まれた事と、雫さんに出会えた事をこの世の誰かに拝んでいるんだよ」
こんな感じで昼休みを過ごせるなんてまるで夢みたいだ。
さすがに『あーん』とか要求できず…とはいうものの、雫さんがあーんしようとしていたっぽいけどさ。
「いやー彼女が出来るとこの世が変わって見えるな」
「はぁ?」
放課後、友人に幸せのおすそわけをしてみた。只野友人、七色虹とは特に仲がいい。
「たかが彼女が出来たぐらいで何調子に乗ってるんだよ」
「そうだよぉ、冬治が遊んでくれないから僕は不満がある」
「へっへー、悪いな。この後も雫さんと一緒に遊びに行くんだよ」
これも彼女が出来たらやってみたかった事なんだよな…。
「どうせ最初だけだよ。後ですれ違ったりして一緒に居てちょっとうざいかなって言いだすよ」
「そっちの可能性におれは十円かけよう」
「雫さんの彼氏である俺は千円かけよう」
「ほぉ」
彼女で賭け事をするなんてどうかと思うけどな。
「冬治君」
「おっと、迎えが来たようだ」
「お前女子に迎えなんてやらせてるのかよー」
「気の利かないやつだー」
「いやいや、本当は下駄箱で待ち合わせをしていたんだ。きっと彼女が来たくて来ちまったんだよ」
友人達にどやされながら俺は廊下へと出る。
「冬治君」
「ごめん、待たせたね」
「ううん、大丈夫。あの、七色さんとはどういう関係?」
「七色?ただの友達だよ」
「ふーん、そっか。それなら、いいんだ…さ、行こう?」
「ああ」
一瞬だけ暗い表像が見えたような…気がした。