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白黒少女との出会い 2

 少女の家の中は、私にとってまた一つの未体験ゾーンであった。乱雑に置かれた本や、物。物のいたっては衣服に限らずどこから拾ってきたのかよく分からない、酔っ払いのおっちゃんが持ち帰ってきてしまった看板とかカラーコーンとか、そういう類の物が散らばっている。本の数もこの散らかり方さえなければ、ちょっとした図書館になるんじゃないかと思えるほど。

 机の上にはビーカーやら開かれっぱなしの本、ペンという一見するとちょっとした科学者みたいな様子になっている。さらにはキノコまで……キノコ?


 少女から水をコップに一杯頂き、立ったまま飲み干す。すっかり渇いていた身体にじんわりと沁みて心地良い。彼女はこの部屋に見えない道でも見えているのか、迷った素振りなど微塵も見せず行ったり来たりしていた。


「あぁ、適当な所に座ってくれていいぞ。楽にしてくれ」


 そんな言葉がどこから生まれてくるのか問い正したい。何冊と積まれた本の上に座ってやろうかと思ったが、ここはあえてベッドを占領することにした。彼女はそれに頓着する様子も無く、ベッドの隣にある椅子に腰掛けた。

 そのまま、彼女から様々な話を聞くことになる。


 この少女の名は、霧雨魔理沙と言うそうだ。魔法使いだと自称してきたのはもう想定内。むしろ他に驚くべき事は、彼女以外の人間にも先ほどのような空を飛んだり、弾幕と呼ばれる魔法みたいな能力を持っているということ。すっかり呼吸の落ち着いた私はそれを見てみたいと訪ねる。すると外に呼び出され、彼女が何かを取り出してそれを上空へと向ける。

 暗い夜空を照射する、一直線のレーザービームみたいなのが放たれた。明る過ぎて目が眩み、轟音と風圧が身体中に襲い掛かる。またしても信じられない出来事を目の前に腰が抜けてしまった私は、思わず自分の頬を強く抓ったものだ。


 所戻って家の中。私達は同じ場所にそれぞれ腰掛けている。

 魔理沙は、"八卦炉"と呼ぶ小さな媒体を介して魔法を放つんだと言う。魔法の源はキノコにあるらしい。キノコを調理して燃料を作っているとのこと。


「それにしたって、あんだけどでかいビームをぶっ放せれば十分凄いんじゃないの?」

「ふふん、私にとってはあれくらい朝飯前だぜ」


 机の上にあるキノコを手にとり、さも当然のように答える彼女である。会った時からそう思っていたが、どうも魔理沙は語尾に「ぜ」を付ける癖があるらしい。どこか男勝りな口調といい、彼女は結構な自信家のようだ。


「こっちに来てみな。私が作成した、この幻想郷の地図だ」


 彼女に言われ、机の上に身を乗り出して地図を覗いた。が、地形は分かるが文字が読めない。


「……どれがどれよ?」

「は? 何だお前、言葉は通じるのに文字が読めないのか?」


 そう言われても読めないのだから仕様がない。外国の文字でも見ているかのようだ。


「えーと、ここがさっき見えたお城?」


 空を飛んだ時に目にした場所を指差しながら私は答える。


「そうそう。そこは紅魔館だな。吸血鬼とか住んでるぜ」

「……あぁ、そう……」


 吸血鬼と聞いて血の気が引きそうになる。まぁ、ここまでの経験からして、これから指差す場所も似たり寄ったりなものだろう。もはや驚くのは体力の無駄だと知った私は開き直ることにする。

 灯りが点在していた所は人里、湖に見えた所はそのまんまの湖、神社らしき所も以下同文。山やその上にある神社、竹林、お寺、果ては地底等など。場所と名前を名指しで教えてもらいながら幻想郷の地形を把握していく。

 私にとって幸運だと言うべきものは、やはり人里があるということ。そこでなら、きっと生活も出来るんじゃないかと微かな希望を持てた。


 ちなみに私が今居るこの場所は魔法の森という場所らしく、彼女はこんな森の中にある家で生活しているらしい。例のキノコもこの森から採ってきているものだとか。


「それにしても……よくまぁ、こんな世界で生きていられるね」


 紫が魔理沙が言っていたように、この世界にはどうも神やら妖怪やらとんでもない生き物が蔓延っている。私の住んでいた世界での恐怖の対象なんて、戦争くらいしかなかったのに。


「そうか? 色々と楽しいぞ。面白いヤツが沢山居るからな」


 何とも豪胆なこと。むしろ、彼女くらいの気の持ちようでなければ生きていけないのだろうか。


「戦争とか、争いごととかってないの? 妖怪対人間とかさ」

「んー、無いといえば無いし、あるといえばある。あったとしても、私達はそれを"異変"と呼ぶがな」

「"異変"?」


 戦争ではないのか。だとすればその異変とやらは何なのか。


「異変が起きると私達は幻想郷のルールに従って戦う。まぁ、簡単に言えば悪者を懲らしめるだけなんだがな」

「ルール?」

「そうだ。"スペルカード"って言うんだが、これを使って戦うんだよ」


 魔理沙は私に頷きながら、懐から一枚のカードを取り出した。その絵柄は先ほど外で見たあのレーザービームに似ている。


「それがスペルカードってやつ?」

「そう。このカードを使ってな……ってもうこんな時間か、続きはまた今度にしよう」


 ふと壁時計を見た彼女は、そう言って突然話を切り上げる。可笑しな話で、文体は分からないのにこの時計の文字盤の数字は私の世界と同じものだ。そしてその時計の針は、深夜の手前を差していた。


「何だかんだで疲れてるだろ? 今日はもう休んでいいぜ。そのベッド貸してやるよ」


 確かに時計を見た途端、潜んでいた疲労が一気に噴き出てきた気がする。


「あぁ、じゃあお言葉に甘えて。ありがとう」

「礼なんて要らないぜ。困った時はお互い様だ」


 何とも気持ちの良い台詞だった。それを聞いて遠慮なく上着を脱いで横になると、身体が一気に弛緩していくのが分かる。

 ……今日は、本当に色々あった。色々で済ませられるほど浅い経験じゃないが、そんな簡単な言葉しか出てこない。


「──そういえば今更だが、まだお前の名前を聞いてなかったな」


 今日起きた出来事が脳内を駆け巡る中、魔理沙の声が耳に届く。


「……日和……」


 重くなった唇を動かし、何とか声を発する。


「日和か。良い名だな──」


 そんなことない。

 そう返したつもりだったが、彼女にはちゃんと聞こえただろうか。しかし私の思考はそれを確認する事を許さない。強烈な睡魔に、私は身を任せることにした。

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