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白黒少女との出会い 1

 やはり、無茶があったかもしれない。スーツはまだしも、靴は慣れていないパンプスを履いている。幸いヒールは高くない……とは言うものの、この雑草だらけの森をこの靴で歩き回るというのは無謀以外の何者でもなかった。

 しかしいくら躓こうとも転んでしまっても、もはや服が汚れるのは二の次である。とにかく歩かなければ──夜が来る。見知らぬ土地である上に、まだ見ぬ妖怪が紫のように危害を加えないとも限らない。視界が悪くなって身動きが取れなくなってしまったら、いよいよ走馬灯を思い浮かべなくてはならなくなる。


(まだ二十歳だってのにねぇ)


 しょうもない突っ込みを一人でしている中、夢中で足先を西に向ける。この方角が西で合っているのか、そんな事はもう分からない。似たような景色が続き過ぎて、方向感覚はとっくに麻痺していた。


 次第に夕方が終わりそうな頃合になり、いよいよ周囲が暗くなった。

 ここで私はせめてもの抵抗を試みる。携帯を取り出して画面が明滅しながらの操作に苛立ちつつ、ようやく懐中電灯のアプリを起動させた。モールス信号みたいな発光になっているが、この際気にしていられない。


(誰か気付いてくんないかなぁ)


 画面を進む方向に向けて照らし、その道をひたすら歩く。紫と別れてから、かれこれ小一時間は歩いていた。


(本当にこの方角で合ってるのかな……嘘とか教えてないだろうな……)


 自分の麻痺した方向感覚は棚に上げて、紫のせいにしてみる。おかげで少しは気が楽になったように感じる。


(喉が渇いたなぁ。コーヒーとか飲みたいなぁ)


 あまりに変わらない景色が続くため、次第に気持ちが弱くなってくる。遭難した人達は皆このような気分になるのだろうか。


 それから間もなく私の足が止まる。疲れていたのは最もだけど、それ以外の理由がそこにはあった。

 私の足音以外に、何かが草木を分ける音が聞こえたからだ。反射的に身を隠し、息を潜める。物音は私が進もうとしていた方向から。これが人でも食う妖怪だとすれば、私の人生はクライマックスである。


「……ん? 誰か居るのか?」


 向こうの言語は通じてる。声色から察するに中学、高校生くらいの年の声だ。それだけでも飛び出したい気持ちに駆られるが、もし相手が妖怪だと思うと迂闊に姿を現せない。


「……隠れてるところ悪いが、そのよく分からん光は何とかならんのか? 丸分かりだぜ?」

「──えぁっ!?」


 ……私としたことが。アプリを起動させたままだったなんてお馬鹿にも程がある。慌ててアプリを落とし、携帯を仕舞う。


「あ、あんたは人とか食べない?」


 我ながら間抜けな質問だと分かっていても、これを聞かずにはいれなかった。


「何言ってるんだルーミアじゃあるまいし。私は人なんて食べないぜ」


 そのルーミアとやらは人を食べるのか。怖過ぎるだろう。でも向こうの言っていることが真実だとも限らない。私は鎌をかけてみる。


「わた、私は八雲紫と知り合いなのよ! てて、手ぇ出したらあんたなんか、たただじゃ済まないんだから!」


 焦る余りこんなハッタリすら呂律が回らない自分が何とも情けない。


「ん? 何だお前、(あいつ)と知り合いなのか? しかしそんな声は私は聞いた事ないぞ……とにかく獲って食べやしないから姿を見せろ。じゃないと話が進まん」


 その台詞に私はピンときた。紫をあいつ呼ばわりするほどの仲ならきっと私にも危害を与えない、はず。私はそんな彼女の言葉を信じ、意を決して立ち上がる。

 薄暗い景色の中、そこに居たのは黒と白を基調としたローブを見に纏った金髪の少女であった。手には箒、頭にはとんがり帽子と、魔法使いって単語が似合いそうな風貌である。


「やっと姿を見せたな。ほれ、私はお前に何もしないぜ? これで良いか?」


 箒を隣の木に立てかけ、両手を頭の後ろで組む少女。無害アピールをしてきた彼女に、私はたまらず安堵の息を漏らす。


「それにしても奇妙な光だったな。あれか? お前はリグルかなんかの仲間なのか?」


 少女はその姿勢を保ったまま不思議そうに小首を傾げた。奇妙な光とは懐中電灯アプリのことだろうか。


「り、リグルって誰? そもそも、私は此処に来たばかりでその、るーみあだっけ? そいつの事も知らないし」

「ふーん……あぁ、なるほど。そういう事か。わかったわかった」


 私の言い分に何やら勝手に状況把握をする少女。おもむろに姿勢を崩し、箒を取ってこちらへ近寄ってきた。


「紫のやつ、こっちに連れて来るのは良いが後の事は毎度私達任せだな。まったく、困ったやつだぜ」

「そ、それには同意するけど、な、何する気?」

「何だ、まだ私のことを信用してないのか。お前も大概困ったやつだな」


 少女は呆れ顔で答えつつ、目の前まで歩み寄る。思わず変なファイティングポーズを構えていた私は、彼女の言い草に少し苛立ちを覚える。


「仕方ないでしょ、いきなり出合った妖怪を信用するほど私は性格出来てないんだ」

「そうか。私はまだ人間だがな」

「……よ……?」


 さらりとしたカミングアウトに私の動きはピタリと止まる。


「あんた、人間……?」

「そうだ。ま、詳しい話は私の家で聞いてやるぜ。とにかく来い」


 そう言って腕を掴まれたかと思うと、呆然とする私そっちのけで箒の柄を股の間に突っ込んできた。彼女も同様に柄を跨ぐと、こちらを見てニヤリと笑う。


「さ、行くぜー。しっかり掴まってな」

「ちょちょちょ!? えっ!? 飛んっ!?」


 有り得ない現象が起きた。両足が宙に浮いたのだ。今まで体験したことのない不思議な感覚が身を包む。呆気にとられていた私は地面が離れていくのに気が付くと、慌てて少女の背中に抱きつく。


「ちょっと!? 何! 何なのこれ!?」


 私は、空を飛んでいた。正確には少女の能力なのだろうが、漫画やアニメでしか見たことの無い出来事が今、この身に起きている。この少女、まさか本当に魔法使いだとでも言うのか。


「はー、やっぱり外の世界の人間なんだな。それならこの世界がどういう不可思議で出来ているのか、この私が直々に教えてやるぜ」


 徐々に高度が上がっていく。既に森は下方。いつの間にか夜になっていたらしく、月が空に浮かんでいた。


「……これが、幻想郷……」


 広がった景色に思わず恐怖心を忘れ、一種の感動を覚える。

 月明かりが照らすこの世界は、広いんだか、狭いんだか、今の私にはまだ理解できない。小さな灯りが点々と小範囲ではあるが点いている所、大きな湖が月明かりを反射している様子、お城のような建物が怪しい明かりを放ち、あれは……神社? 見渡せる限りでそのような場所が把握できる。

 私の居た世界のような、家が密集していたり電柱が立っていたり、ビルがある訳でもない。しかしやはり、私は興味をそそられざるを得なかった。そんな情景が目の前に広がっている。


「さぁて見物はここまでにしておこう。今からぼーっとしてると舌を噛むか、振り落とされるぜ?」

「……えっ? どういう──」


 彼女の不敵な言葉に目を丸くした瞬間、私達はとんでもないスピードで宙を飛び始めた。森の上をあっという間に旋回したかと思うと突然急降下。木々をすり抜けて地面にぶつかると思いきや寸前で停止、そして方向転換、さらに直進。挙句に木の合間をスピードを落とさず潜り抜けていく。


 ……時間にして数分足らずだろうか、私達は一軒の家の前に居た。少女はここが我が家だと言うが、正直、今はそんな話はどうでも良かった。地面に突っ伏し、無事に生還できた喜びと凄まじい疲労感で一杯一杯な私である。


「──やーそれにしても、今回の悲鳴はまた一段と凄かったぜっ」


 少女の満足気なその台詞が憎たらしく思えたのは、言うまでもなかった。

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