謎は深みにはまるばかり
この一か月、王都冒険者組合に大型魔獣の出没報告が続いていた。
駆除された数だけで、大型魔獣計四十余り、中型では百を超える。
本来大型魔獣の少ない、人口の多い王都近郊で見つかる現状に、
何か大きな異変があるのでは、と不安を抱く者も少なからずいた。
地方であれば、オーガなども多くはないが珍しいものではない。
例年なら月に一、二回は遭遇や駆除の報告が上がっている。
しかし、中央付近でこう報告が多いのは想定外の事態と言える。
王国も危険性を感じ、王国制式騎士団に王都周辺の調査を命じた。
結果、三個騎士団が任を負い大型魔獣との遭遇戦が二十を超えた。
中型に至っては百五十戦以上。明らかに異常事態であった。
王都の冒険者組合と神殿にも協力を仰ぎ、本格対応が開始される。
◆
冒険者と神官の混成部隊のひとつ。
冒険者側は三つ星以上、神官側も実力者で構成された十人の一団。
彼らは王都からやや離れた、遭遇報告のあった町へ向かっている。
報告では近所の川沿いにケルピーが複数現れたという事だ。
分類上中型魔獣はいえ、複数ともなると緊急度も危険度も増す。
一度で確実に群れを仕留める為、大人数で構成されていた。
なお神官の三人は、貴族出身で体内魔素は多い。
実は平民と比べ、貴族は爵位の高い者ほど体内魔素が多い傾向がある。
平民から一代騎士や準男爵へ上がった者は、体内魔素も平民並みだが、
爵位が上の者と婚姻を結んだ場合、その子孫は体内魔素が増加する。
よっていわゆる「成り上がり」達はより高い爵位を目指す者が多い。
体内魔素が多い者は、例外もあるが身体は丈夫になる傾向があるのだ。
収入のみならず、体内魔素の増加で子孫は将来有利に立てる事になる。
◆
混成部隊が問題の川に現着する。今はケルピーも見当たらない。
事前情報によれば、死傷者こそまだいないが威嚇行動はされたらしい。
川でうっかり知らずに近づいた者は複数いて、慌てて逃げたとか。
しかしこのまま居座られていては漁師は漁が出来ない。
気づかずに襲われれば、水中に引きずり込まれて喰われる事になろう。
「さて、どうしますかね?」
「ここに二人ばかり置いて、残りは川沿いを確認するか」
斥候と会話して方針を決める混成部隊、槍使いの隊長。
斥候、剣士、神官一人ずつがここに残り、残りは川の上流に向かった。
日が落ちる直前、上流へ向かっていた確認組が戻って来た。
全員が微妙な表情であり、待機していた神官が彼らに問う。
「こちらは待機中、特に何もありませんでしたが…
そちらでは予想外の遭遇戦でもありましたか?
皆さんなんだか浮かない表情ですが」
槍使いの隊長は、自分でもどう言えばいいか分からん、という表情で
「我々も戦闘はしていない。遭遇戦もしていない。が…」
と、何とも歯切れの悪い返事が返ってくる。
話によるとこういう事らしい。
川の上流へ進み、森の中へ足を踏み入れると、死体が転がっていた。
おそらくケルピーが六体、なのだが、様子があまりにもおかしい。
いずれの死体もやつれ切っていて、身体に傷らしい傷がないのだ。
肉付きはげっそりして、骨と皮だけ。表情は恐怖に歪んでいる。
しかしここで何らかの戦闘があったにしては、痕跡が綺麗すぎる。
まるでその場で動けず生命を失ったかのように。
◆
混成部隊が頭を悩ませ、今後の方針を決めるために町へ向かう頃。
その町の冒険者組合では、希少とされる薬草が届けられていた。
届けたのは五つ星の少年と二つ星の少女の二人組。いずれも魔術師。
黒髪黒目の少年は、顔こそ整っていたものの際立つ特徴はなかった。
が、同じく黒髪の少女のほうは一度見かけたら忘れられないような、
でも声をかけるには勇気が要る、途方もなく奇抜な服装をしていた。
ケルピーを干からびた死体に変えた犯人はこの二人である。
自分達ではなく、遭遇したケルピーの全身を《障壁》で覆ったのだ。
但しその《障壁》は、ケルピー自身の体内魔素を使い尽くすもの。
発動すれば内からも外からも魔術攻撃ははじかれるが、動けない。
体内魔素が尽きた後は、代わりにケルピー達の生命が削られていき、
身動きできず精魂尽き果てたケルピーと共に《障壁》も消滅した。
少年も少女も、出自が平民で体内魔素の量はそう多くはない。
鍛えれば多少は増加するが、それより少年は補う方向へ舵を切った。
魔術構成式の見直しによる魔素消費の低減。あるいは魔道具の使用。
少年が少女へ作って渡した奇抜な装備は、自動反撃をはじめとして、
試してみたい自作魔術をこれでもかとばかりに詰め込んでいる。
少し珍しい薬草採集の依頼を受けた二人は偶然ケルピーと遭遇し、
丁度いいかと少年たちは自作魔術をケルピーへと使用したのである。
魔術構成式の通り発動はしたものの、搾りかすとなったケルピーに、
「素材が採れないのでは、まだまだ改良の余地があるな」と落胆し、
その場を後にして薬草採集に戻ったのだった。
その後しばらくの間。
王都近郊の各地で干からびた魔獣の死体が多数発見される事になる。
魔獣の大量出没報告は、このせいでその後自然と落ち着くのだが、
この少年も少女も、素材が採れずにわざわざ報告しなかったため、
現在も干からびた魔獣達の原因は謎のままだ。
今回遭遇は予期していなかったので、罠ではなく魔術で駆除。
少女は「装飾系の冒険者」のラーモ。




