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第5話 ユニコーン寮


 アンナたち新入生は城の中の講堂に案内された。これから入学式が執り行われる。


 講堂は元々修道院の聖堂であり、天井は高く、最奥の祭壇手前まで長椅子がギッシリと並べられている。


 壁面には天使や聖人が描かれた宗教画が飾られており、天井付近のステンドグラスからは七色の光が溢れていた。


 新入生が長椅子に座ると、講堂最奥のステージに中年の男性が上がった。


「私はサンミシェル魔法学校校長のナイル・ファラオだ。新入生諸君、まずは入学おめでとう」


 校長ナイル・ファラオは恰幅のいい男で、ゆとりのある背広を着ていた。


 指や首には金色の装飾品をつけており、嬉しそうに笑う口元からは金歯が覗いている。


 なんでも彼はエネアド王国の王族血筋らしい。


 エネアド王国とはアンナの前世でいうところのエジプトのような砂漠にある国だ。


「全ての人類が魔法を使えるこの魔法世紀において、人間の価値は魔法の能力で決まる。このサンミシェル魔法学校で魔法を学ぶ機会を得た君たちは選ばれしものだ。そのことを誇りに思い、これからの三年間を有意義なものにして欲しい」


 堂々と新入生に激励を行う校長。


 その自信に満ちた態度と魔法至上主義思想をアンナは傲慢と受け取った。


 全ての人類が魔法を使えるようになったのに、魔法の勉強ができる人は限られていて、それなのに魔法の能力で人間の価値を決めるのだという。


 魔法という富を自分たちで占有して、それを持っていない人を見下すなんて、悪の極みだ。


 アンナは偶然マリアのおかげで魔法学校に入学できたが、世界中には魔法を学べない多くの人々がいる。


 アンナは彼の身につけているアクセサリーを売れば、もっと大勢の子供達が魔法を学べるだろうと思った。


 ふと、隣に座るアリスを見ると、彼女は気に入らないような表情で壇上の校長を見ていた。魔法至上主義に思うところがあるようだ。


 校長の挨拶の後は、在校生代表と新入生代表の挨拶が行われた。


 アンナの前世の世界の入学式や始業式とほとんど同じだ。


 魔法の学校だからといって、何か特別なイベントがある訳でもなく、入学式は程なくして終了した。


 新入生たちにとって楽しみなイベントはこの後行われる『寮発表』だろう。


 全部で四つある寮のどこに配属されるのかが、これから発表される。


 寮はアンナの前世の世界でいうクラスや組に該当する。


 この学校は大学のように個人で受けたい授業を選択できるため、クラスはなく、生徒たちの区分は寮と学年を用いることが多い。


 配属される寮は試験の結果で決まる。


 寮にはそれぞれ特色があり、生徒の性質と相性のいい寮に入ることになる。


 寮はクラスのように学年で変わったりする訳ではない。言わばこの三年間を過ごす家だ。


 相部屋の人が怖い人だったらどうしようとか、いじめられたらどうしようだとか不安になってしまう。


 マリアは先生としての仕事があるため、ひとまず別れることとなりアンナはアリスと一緒に配属寮の名簿が張り出される昇降口に向かった。


 元々修道院の門だった昇降口には大勢の新入生が押しかけていた。


 自分の名前を見つけるのにも時間がかかりそうだ。


 二人は全部で四つある寮の中から、一番右側のグリフォン寮の名簿から見ていくことにした。


『グリフォン寮』は伝統と矜持を重んじる寮だ。


 名家の出身者が多く血統と才能に秀でた生徒が配属される。


 シンボルは寮名通りのグリフォン。シンボルカラーは青。


 アリスが配属されるならここだろうとアンナは思っていたが、彼女の名前はなかった。無論、アンナの名前もない。


 次に二人はフェニックス寮の名簿に目を通していく。

 

『フェニックス寮』は知識と探求を重んじる寮だ。


 頭脳に秀でたもの、魔法の研究を望むものが配属される。


 シンボルは不死鳥。シンボルカラーは緑。


 ここにも二人の名前はない。


 本を読むことが好きで、筆記試験に自信があったアンナは密かにこの寮に選ばれるのではないかと期待していたが、そんなことはなかった。


 続いて二人はドラゴン寮の名簿を見ていく。


『ドラゴン寮』は忍耐と正義を重んじる寮だ。


 戦いの魔法に長けた生徒が配属される。


 この寮には魔法騎士を目指すものが多くいる。


 シンボルは竜。シンボルカラーは黄。


 アンナは試験で先生であるアルゲースに決闘で勝利しているため、この寮に入る可能性は高い。しかし、二人の名前はない。


 だとすると二人は最後のユニコーン寮に配属されたということだ。


 一応、名前があることを確認するため、左端のユニコーン寮の名簿を見ると、アンナとアリスの名前が確かにあった。


『ユニコーン寮』は勇気と自由を重んじる寮だ。


 マリアが寮母を務めている寮でもある。


 シンボルは一角獣。シンボルカラーは赤。


「あれ〜? もしかして、アリス・カサブランカ?」


 突然、アリスに話しかけてくる生徒がいた。


 ピンク色の頭髪の少女で、一年生のようだが既に制服を着崩しており、スカートの丈はかなり短い。


 しかし、意外にも彼女はグリフォン寮生のようで、グリフォンのエンブレムが刺繍されたローブを羽織っている。


 彼女は背後に取り巻きの生徒たちを四人ほど引き連れていた。


 アリスは彼女のことを知らないようだが、ピンク髪の少女はアリスのことを知っているようだ。


「ルーナ・セレスティアルっていうの。よろしくね」


 いかにもぶりっ子な口調だが、セレスティアル家といえば聖典系魔法の名門だ。ルーナはお嬢様ということになる。


「アリス・カサブランカです。よろしくお願いします」


 アリスは柔らかい笑顔で自己紹介をするが、なんとなくアンナには彼女がルーナに対して興味を持っていないように感じた。


 アンナは薄寒いというか胃がキリキリし始めた。


「知ってるよ、アリスちゃんのこと。『治癒魔法の神童』って呼ばれてるんでしょ」


「そのように大層なものではありませんよ。私には傷を治すことしかできませんから」


 謙遜ではなく事実を言っているようで、アリスの笑顔の仮面が少し曇った。


 それを見てルーナは微笑んだ。


「ねぇ、アリスちゃんはどこの寮になったの? ルーナはね、グリフォン寮だよ」


 自慢げにグリフォン寮であることを主張してくるルーナ。ニヤニヤと意地悪い顔でアリスを見ていた。


「ユニコーン寮です」


 アリスは事も無げに穏やかな笑顔で答えた。


「あっはは! 治癒魔法の神童ともあろうアリス・カサブランカが、お払い箱のユニコーン寮なんてマジ笑えるんですけど!」


 ルーナとその取り巻きたちはアリスを嘲笑い始めた。


 意味がわからずに、ただ不快な思いを募らせるアンナに、笑われてもまったく気にしていないアリスが教えてくれた。


「ユニコーン寮は試験の成績が低い生徒が配属される寮なんですよ」


 確かにアンナは魔法能力が低い。


 しかしマリアの弟子で、お嬢様のアリスが成績が悪いようには見えない。


 先程は魅了や読心といった高度は魔法を使っていた。


「医療魔法は得意なのですが、逆に人を傷つける攻撃性を持った魔法が苦手なのです。それに私が得意な魔法は入試では評価されませんから」


 アリスは困り眉でアンナに教えてくれる。


 その表情には、自分の弱みを打ち明けることへの抵抗感ではなく、無力感と自身への怒りが込められていた。


「かわいそ〜。ルーナが偉い人に頼んでアリスちゃんをグリフォン寮に変えてもらおうか?」


「いいえ、結構です」


 笑顔でキッパリ断るアリス。


 ルーナが意地悪しているのは明白だが、アリスは変わらずどうでもいいようで、退屈そうに見えた。


「ふ〜ん、そっか。せっかくお友達になってあげようと思ったのに、そういう態度取るんだ。じゃあいいや。ルーナとのコネを作れなかったこと後悔しても遅いから。せいぜい退学にならないように頑張ってね、魔法弱者さん」


 ルーナはアリスが思い通りの反応をしなかったことが面白くないのか取り巻きと一緒に去っていった。


 アンナの見立てでは、ルーナはアリスを一方的にライバル視しているようで、わざわざユニコーン寮になったアリスを侮辱しに来たようだ。


 アリスが医療魔法以外が苦手なことも、ユニコーン寮になったことも、元から知っていて、本人に言わせて面白がっていた。


 ルーナは新入生の中でも著名なアリスを見下すことで自身が優れていることを証明したかったのだろう。


 アリスはいじめっ子を跳ね除ける強さを持っていたから良かったものの、アンナは何もできずに見ていることしかできなかったことが悔しかった。


「アンナちゃん、大丈夫ですか?」


「ごめんねアリスちゃん。わたし、アリスちゃんの味方なのに何もできなくて」

 

 逆に心配されてしまい、情けなくて俯く。


 味方になると言ったのに、アンナはアリスを助けてあげることができなかった。


 誰かを助けるということは、自分が傷つく覚悟をするということだ。


 それがこんなにも勇気が必要なことだとは思わなかった。

 

 アンナは自分の弱さを痛感する。


 項垂れるアンナの肩にアリスが手を置く。


「今のことは気にするようなことではありませんよ。言ったでしょう、魔法学校は権謀術数が蔓延る魔窟だと。あの手の悪口なら呼吸するように飛び交います。むしろ舌戦なら私の得意分野ですのでお任せください。アンナちゃんにはアンナちゃんにしかできないことがありますから、その時に力を貸してください」


 本当に十五歳の少女なのか、嘲笑されたことなど心底どうでもいいようで、アンナのことを励ましてくれる。


「うん、わかった。ありがとう、アリスちゃん」


 アリスはニカっと笑った。


 落ちこぼれのユニコーン寮になって、いじめっ子に絡まれた後だというのにとても楽し気だ。


「アリスちゃん、嬉しそうだね」


「はい、同じ寮になれてよかったですね、アンナちゃん!」


 神童と呼ばれるほどの実力者なのにユニコーン寮になったことは気にせず、アンナと同寮になったことを喜んでくれた。


 アンナもアリスが同寮でとても頼もしくて、頷いて肯定した。



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