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第1話 霊媒魔法


 魔法世紀110年 オルレアン共和国


 孤児院の図書室で少女が一人で読書をしていた。

 

 彼女の名前は『アンナ』。


 ふわふわのくせ毛がトレードマーク(コンプレックス)の人見知りで気弱な十歳だ。


 アンナは誰にも話していないが、実は前世の記憶を持つ、いわゆる転生者である。


 前世では、別の世界の日本という国に住む、ひきこもりの高校生だった。


 久々に外出した際に、暴走するトラックに轢かれそうな猫を助けたことで死んでしまった。


 気がつくと、捨てられた赤ん坊になっており、修道女に拾われて孤児院で育ったという訳だ。


 この異世界はアンナの前世でいうところの二十世紀半ばくらいの科学技術を有していて、オルレアン共和国はフランスによく似た国だ。


 そして、この異世界には魔法が存在しており、しかも全ての人々に魔力がある。


 百十年前に世界中の全ての人に魔力が与えられたのだという。


 しかし、魔力があっても、ほとんどの人々が魔法を使えなかった。

 

 魔法教育は一部の上流階級の人しか受けられないから、使い方がわからないのだ。


 当然アンナも魔法が使えなかった。


 でも、せっかく異世界に転生したのだから魔法を使ってみたかった。


 幸運にも孤児院の図書室には庶民では手に入れられない魔導書が置いてあるため、アンナは独学で魔法を使おうとしていた。


 だが、自分の魔法の適性がわからないし、それを調べる道具も高価で手に入らないため、一度も魔法を使えたことはなかった。


 行き詰まって、こうして魔導書を読み耽る日々を過ごしていた。その時──


「アンナ、あなたに会いたいという里親候補のご夫妻がいらしていますよ」


 年配の修道女がアンナに声をかけた。彼女はマザーラドリエル。この孤児院の院長をしている優しいおばあちゃんだ。


「アンナさえよければ、会ってみませんか?」


 もし上流階級の養子になれれば、魔法学校に入学して魔法を学べる。


 元々引きこもりで、今世でも引っ込み思案のアンナだが、勇気を出して会うことにした。


「は、はい! 会ってみたいです」


 面会室に入ると、身なりの良い、気品のある夫婦が待っていた。


「こんにちは、アンナちゃん。私はウィリアム。彼女は妻のマーガレットだ。アンナちゃんは本を読むのが好きな賢い子だと聞いているよ」


 優しそうな笑顔で挨拶してくれる男性。


 人見知りなアンナはペコペコとお辞儀をしながら挨拶を返した。


「こ、こんにちは」


 二人は嬉しそうに頷きあうと、今度は女性の方がアンナに声をかけた。


「私たちはアンナちゃんと家族になりたいと思っているの。私たちのことをアンナちゃんに知って欲しいし、私たちもアンナちゃんのことを知りたいから、少しお話ししましょう」


「は、はい」


 それからウィリアム夫妻は自己紹介をしてくれた。


 夫のウィリアムは富豪の息子で、貿易関係の仕事をしている。


 妻のマーガレットもまた裕福な家の出身で、古い貴族の血筋らしい。


 二人の家はお城のように大きく、迷うほど広い庭がついているのだという。


 順風満帆な人生を送っているように見える二人だが、子宝に恵まれず、こうして養女を探していた。

 

「アンナちゃんのことも教えて欲しいな。何か好きなことはあるのかい?」


「……読書が好きです」


 口下手ですぐに会話が終わる傾向にあるアンナ。


 それを見かねて、隣に座っているマザーラドリエルが話を膨らませてくれた。


「最近は魔導書も読んでいて、魔法に興味があるみたいなんですよ」


 それを聞いて、夫妻は目を輝かせた。アンナは二人の雰囲気が変わったことに気がついた。

 

「アンナちゃんは魔法を使えるのかい?」


「い、いえ、使えません」


「せっかくの機会だからアンナちゃんの魔法能力を調べてみないかい?」


 ウィリアムは鞄から、タイプライターの鍵盤とテレビの画面がくっついた、パソコンのような機械を取り出した。機械から伸びるコードは水晶玉に繋がっている。


 アンナはこの機械が、魔法能力を調べる道具だということを知っていた。


 ついに自分の魔法能力が判明することにワクワクした。


「水晶玉に手を置いてごらん」


 言われた通りにすると、水晶玉が仄かに白く光り、液晶画面に文字が浮かび上がった。


 

 属性 無


 魔力量 F


 適性魔法 霊媒(れいばい)



 それを見て、ウィリアム夫妻は落胆した。


 アンナの魔力の量は最低クラスのFランクで、相性の良い属性は無し。


 魔導書があるのに、これまで魔法を使えなかったのは、才能がなかったからなのだ。


 唯一才能がある適性魔法の『霊媒』も、魔導書の記述によると、魔法世紀前において、魔法使いに劣る霊能力者が使っていた低級魔法だ


 霊を現世に降ろしてその声を聞くという魔法だが、生産性のある現象を起こさないため実益がなく、真偽も不確か。


 さらに、死者の魂の尊厳を冒涜するとして、オルレアン共和国で信仰されるエクレシア教において忌み嫌われていた。


「なんだこれは。マザーラドリエルはこんな失敗作を我々に寄越すつもりだったのか?」


 ウィリアムはアンナを指差して、怒りに満ちた強い言葉を使った。先程の紳士的な男性と同一人物とは思えない。


 マザーラドリエルはすぐにアンナを守るように立ち上がった。


「子供に対して何てことを言うのですか!」


「子供だと? これはそもそも人間ですらない。こんな魔法能力の低いやつに人間としての価値なんかはない。これはゴミだ。よくもこんな出来損ないを押し付けようとしてくれたな」


 凄まじい罵倒を目の前で浴びせられて、アンナは涙目になった。


 ゆらゆらと恐怖で震える目でマーガレットの方を見ると、彼女はアンナに、それこそ汚いゴミを見るような嫌悪の視線を向けていた。


 彼らのように魔法能力で人間の価値を決める思想を『魔法至上主義』といい、最近はこの思想が上流階級で蔓延していた。


「マザーラドリエル。別の子供はいないのか? できれば魔法の才能がある子供が欲しい。こんな魔法弱者ではなくてな」


 偉そうに要求してくる男に、ついにマザーの堪忍袋の緒が切れた。


「もう二度と、あなたたちを子供に会わせたりしません。早くここから立ち去りなさい!」


 マザーラドリエルの強い語気にウィリアム夫妻は怯み、そそくさと孤児院を立ち去っていった。


 嵐の後のように静かになった面会室で、マザーラドリエルが、放心しているアンナを抱きしめた。


「ごめんなさいアンナ。悲しい思いをさせてしまいましたね」


「……わたしは大丈夫です、マザー」


 いきなりひどいことを言われて悲しかったし、今回も里親は見つからなかったが、アンナは僅かに希望を抱いていた。


 才能はないかもしれないが、自分の能力を知れたからだ。


 ◇


 縁談の後、アンナは魔法を試すために自室に戻ると、魔導書をめくって『霊媒魔法』のページを開いた。


 そこには霊媒魔法による、霊の呼び出し方が記されていた。降霊術と呼ばれる、いわば霊の召喚魔法だ。


 魔導書の通りに、五芒星の魔法陣をチョークで床に描いた。


 正式な魔法陣には動物の血や高価な宝石、金属が必要だが、持っていないので省略する。


 呼び出したい対象と縁のある物品があると召喚成功率が上がるがそれもない。


 その場合、召喚者と縁のある霊が呼ばれるという。


 アンナは前世の記憶を持ち、死を体験しているため、なんらかの霊的な縁があってもおかしくないと自己分析した。


 さて、降霊術の準備が完了した。あとは詠唱を唱えれば霊が召喚されるはずだ。


 分厚い魔導書を細い腕で持ち上げて、お願いするように呪文を紡ぐ。これが、アンナにある、たった一つの魔法だ。


現世(うつしよ)の門をここに。


 天空の聖神、炎獄の亡者、異界の御霊。星を巡る無名の魂たちよ。


 血肉の骨器、廻天輪の(えにし)を手繰りて我が呼びかけに応えたまえ。


 降りよ、我は霊界を繋ぐもの。


 従え、我は現世の楔。


 その魂が再び現世の糧となることをここに誓う。


 門よ開け。


 招来せよ、|世界に刻まれた魂の証印アルカシヤ・レヴナント!」


 言い終えて、刹那の静寂の後、五芒星が真紅に発光した。


 血脈を流転する魔力が騒ぎ出すのを感じる。興奮と歓喜で鳥肌が立つ。


 アンナの魔力が起動したのだ。初めての魔法の行使だった。

 

 次の瞬間、魔法陣の上に、赤い花模様の和服を着た黒髪の美少女が立っていた。


 日本人形のような白い肌の綺麗な顔立ちで、アンナの顔を嬉しそうに覗き込んでくるその瞳の色は彼岸花のように真っ赤だ。


 彼女は『蛇』だ。人間の本能が危険だと告げていた。良くないものを呼び出したとすぐにわかった。


「ふふ、やっと会えたね、アンナちゃん」


 黒髪の少女が囁く。その眼はアンナのことをじっと見ていた。いや、アンナのことしか見ていなかった。


「……どうして、わたしの名前」


「アンナちゃんのことは全部知ってるよ。私がアンナちゃんをこの世界に転生させた神様だからね」


 なんでもない世間話をするように、おっとりとした口調で、十代半ば程の少女にしか見えない自称神様は言った。


 理解できずにアンナはポカンとしてしまう。


「私は『伊吹大明神(いぶきだいみょうじん)』。気軽にイブって呼んで欲しいな〜。アンナちゃんは私の命の恩人だからね」


「命の恩人? わたしがですか?」


「あれ、前世の記憶はあるはずなんだけど、覚えてない? そっか、この姿を見るのは初めてだもんね。ほら、私のこと助けてくれたでしょ」


 自称『伊吹大明神』は手を曲げて猫のポーズをとる。


「もしかして、あの時の黒猫?」


「ピンポーン! 恩返しに来たよ。あの時は私なんかを助けるために命をかけてくれてありがとう。お詫びとしてこの世界に転生させたんだ」


 前世で助けた猫が神様で、アンナを異世界に転生させた張本神だったのだ。しかもその神様が召喚に応じて現れた。


 理解はしたが、驚きで脳みそがうまく動かない。


「それと、お礼にすごい魔法の才能をプレゼントしたよ〜」


「え? 霊媒魔法ってすごいんですか?」


 魔導書にはボロクソ書いてあったし、ウィリアム夫妻も霊媒魔法を低く評価していた。


「すごいよ。だって、この私がアンナちゃんの使い魔になるんだからね。アンナちゃんの言うことならなんでも聞くよ〜」


 腰を抜かしているアンナの膝に擦り寄ってくる神様。上目遣いでアンナの顔を見つめると「これでずっと一緒にいられるね」と、小声でボソッと囁いてきた。


「え、えっと伊吹大明神さま」


「畏まらないで、イブって呼んで欲しいな〜」


「……じゃあ、イブ」


「きゃー!」


 イブは嬉しそうに顔を赤く染めた。


 ちょっと面倒なタイプだ。それはそれとして、神様が何でも言うことを聞いてくれるなら、是非頼みたいことがあった。


「魔法を教えて欲しいんだ。わたし、全然魔法が使えなくて」


「いいよ〜。いっぱい教えてあげる。私はこの世界で一番魔法得意だからね〜」


 イブは快諾してくれる。


「そ、それとね。友達になって欲しいんだ。わたし、前世の頃から友達いなくて」


 目を泳がせて、キョドりながら頼む。するとイブは満面の笑みで答えた。


「もちろんだよ。私もずっとアンナちゃんと友達になりたかったんだ〜」


 その日、アンナは初めて魔法(ともだち)を手に入れた。



はじめまして、埼玉首都化計画と申します。

30万文字(50話)ほど書き溜めているため、しばらくは毎日投稿していきます。

よろしくお願いします。

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