夢の世界一日目 草原
光がない。
漆黒の闇が世界を覆う。見えるものは何もない。一面黒の世界。
私はそんな世界で生きている。
生まれたときから私には視力がない。
だから、私の世界には光がなくて当たり前なのだ。
光が射すことはない。
そもそも、光がどんなものなのかさえ分からない。
そんな世界にたった一人で生きてきた。
だから、戸惑っている。
何も見たことがないから表現ができない。目の前で起こっている状況が理解できない。
「ここはどこ?」
「ここは夢の中だ。君は僕と夢を共有しているんだ」
男の人の声がした。声は、アレから発せられている。つまり、アレが男の人なのだろう。
「ここは草原って言うんだ。一面緑で、美しいだろう?」
「緑ってこんな色をしているのね。これがみんなの見ている世界なの?」
「ああ、これが僕たちの住む世界だ」
「でも、夢なのでしょう?」
「そうだよ。だけど、これは現実でもある」
「どういうこと?」
「これは、君の夢であり僕の夢でもある。僕が作った夢の舞台に、君を招待したんだよ。だから、これは夢だ。でも、君が今見ている世界は、僕が現実世界で見ている世界を模倣しているんだ。だから、この世界は君にとって、夢であり現実でもある」
夢の世界だから、不思議なことが起こってもおかしくはない。しかし、私の夢には今まで映像がなかったのだ。何かが映ることはなかった。感触や匂いや音があっても、映像はなかった。だから、この世界は本物なのかもしれない。
「一週間の間だけ、君を僕の夢に招待する。僕が君を、君が望む世界に連れていってあげる。どうかな?」
「わたしに世界を見せてくれるの?」
「そうだよ。一週間だけ、君に世界を見せてあげる。見たい?」
「見たいわ。すごく見たい」
「なら、明日もこの時間にお邪魔するよ。今日はここでさようなら」
「これは夢なのでしょう?なら、もっと……」
「ごめん。この夢は長い間は見れないんだ。だから、今日はこれで終わり。そうだ、明日はどこに行ってみたい?」
「……海」
「わかった。じゃあね、また明日」
そうして、再び私の視界は闇に閉ざされた。何もない闇の世界へと私は静かに堕ちていった。
この小説は、まぁ僕が書く他の作品とは、全く趣きが異なります。
なんていうか新ジャンル開拓みたいな。
夢と現実を行き来する盲目の少女の様子を七日間書いていきます。
つまり、予定通りで行けば14話完結ですね。
夢に出てくる登場人物は、盲目の少女と夢に出てくる男だけ。
次は現実世界です。物語は少女視点で書いていきます。