第11話:平和すぎる魔王城
「おおー」
俺は目の前の巨大な城を見上げた。
「これが魔王城か」
黒い石でできた、やたらデカい建物。
いかにもラスボスの住処って感じだ。
「はい……」
隣で魔王がうなずく。
「我が居城である」
「いいじゃん」
普通にテンション上がる。
「中、入っていい?」
「もちろんだ……!」
なぜかめっちゃ嬉しそうだ。
「歓迎しよう!」
◇
「広っ」
中に入った瞬間、思わず声が出た。
天井が高い。
無駄に広い。
なんか寒い。
「ここで生活してんの?」
「うむ」
魔王が胸を張る。
「魔王としての威厳を保つため――」
「いや無駄じゃね?」
即ツッコむ。
「こんな広いと落ち着かなくない?」
「……」
魔王が黙る。
「……実は」
小さく咳払い。
「少し、寂しい」
「だろうな」
即同意した。
「じゃあさ」
俺は周りを見渡す。
「もっと楽にしようぜ」
「楽に……?」
「うん」
そのへんのソファっぽいのにドカッと座る。
「こうやってダラダラできる場所にすればいいじゃん」
「ダラダラ……」
魔王が困惑している。
「ほら、お前も座れよ」
「お前……」
一瞬ショックを受けた顔をするが。
「……はい」
素直に座る。
「よし」
なんかペットみたいだな。
「いい子いい子」
軽く頭を撫でる。
「……」
魔王が固まる。
「どうした?」
「……いや」
顔を逸らす。
「悪くない……」
「だろ?」
やっぱ犬っぽい。
「懐っこい大型犬って感じだな」
「いぬ……?」
まあいいか。
◇
しばらくして。
「……暇だな」
俺はソファに寝転がる。
「何か娯楽はないのか?」
「娯楽……」
魔王が考え込む。
「闘技場ならあるが」
「疲れるのはいいや」
もっとこう、楽なやつ。
「スマホとかあればなー」
「すまほ?」
「いや、なんでもない」
さすがにこの世界にはないか。
「……あー」
天井を見上げる。
「Wi-Fi飛んでねーの?」
「わいふぁい?」
魔王が首をかしげる。
「まあ、通信みたいなもん」
「通信なら、魔導通信があるが……」
「遅そう」
「遅い」
即答だった。
「だろうな」
「ではどうすれば……」
「うーん」
俺は手をひらひらさせる。
「なんかこう、ビビッて飛ばせばいいんじゃね?」
「ビビッ……?」
「ほら、電波的な」
適当に説明する。
「広範囲にこう……ブワーって」
「……」
魔王が真剣な顔になる。
「なるほど」
「分かった?」
「分からぬ」
「だよな」
まあいいや。
「とりあえずやってみるか」
俺は手を軽く上げる。
「え?」
「なんかこう……」
イメージする。
ビビッと。
広く。
速く。
「おりゃ」
軽く振る。
――ブワァァァァァァ……。
「……ん?」
空気が変わる。
ピリピリとした感覚が、城全体に広がる。
「何かが……満ちている……」
魔王が呟く。
その瞬間。
城の奥から、部下らしき魔族が走ってくる。
「魔王様!」
「どうした」
「先ほどから、謎の通信が……!」
「通信?」
「はい! 魔界全土で、瞬時に情報が共有されています!」
「は?」
俺も思わず起き上がる。
「何それ」
「しかも速度が異常です!」
魔族が叫ぶ。
「従来の魔導通信の何千倍も速い……!」
「えぇ……」
そんなことある?
「これなら、映像すらリアルタイムで……!」
「映像?」
「はい! 各地の様子が、まるでその場にいるかのように……!」
「……」
俺と魔王が顔を見合わせる。
「……できたな」
「……できましたね」
なんか知らんけど。
◇
その頃、魔界全土。
「なんだこの通信は!?」
「一瞬で繋がったぞ!」
「情報が止まらない!」
「これは革命だ……!」
魔族たちが騒然としていた。
◇
「すごくね?」
俺は素直に感心する。
「ちょっとやってみただけなのに」
「ちょっとではない……!」
魔王が頭を抱える。
「魔界の常識が変わったぞ……!」
「大げさだなあ」
俺は笑う。
「便利になっただけじゃん」
「その“だけ”が問題なのだ!」
また怒られた。
「……まあ、いっか!」
俺は再びソファに寝転がる。
「これで暇つぶしできるし」
「……」
魔王が深いため息をつく。
「貴方は、本当に……」
「ん?」
「いや、何でもない」
言いかけてやめる。
「……好きにするといい」
「おう」
俺は手をひらひらさせる。
「じゃあなんか面白いの流してくれ」
「流す……?」
「動画的なやつ」
「ど、努力しよう……!」
魔王が慌てて動き出す。
「……ほんと便利な犬だな」
「犬ではない!!」
魔王の叫びが響く。
でもなんだかんだ、楽しそうだ。
「今日も平和だなー」
俺は目を閉じる。
――このとき俺は、まだ気づいていなかった。
自分が魔界に「超高速魔法通信網」を構築し、文明レベルを一気に引き上げてしまったことに。




