表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
稀竜と精霊の乙女〜アーゲルバインドの風〜  作者: 葉月クロル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

第38話 白と金

『ミオ、わたしはやっぱり竜でした! 役に立ちますよ!』


 ミオッカとレキの脳内に、エアの声が響いた。竜の口では話すことが難しいのだが、その代わりに特殊な能力を使えるようになったらしい。


「今の、頭ん中に聞こえてきたやつはエア兄ちゃんが言ったのかい? 器用なまねをするね」


 レキは驚いた顔をしたが、ミオッカは平然としていて「そうだね、ずいぶんとかっこいい竜になったじゃないか。役に立つ竜の子分がいるなんて、わたしも鼻が高いよ」と竜に優しく声をかけたので、エアは巨体を震わせて喜んだ。


「それにしても、兄ちゃんは竜になっても別嬪べっぴんなんだなあ。まるで宝石細工のように綺麗だぜ……」 


 芸術的なセンスが優れているレキが、竜の姿を見て感嘆する。 


 高齢の稀竜種であるアルフォンスの竜体は、くすんだ銀色に青の差し色がある重厚な雰囲気であったのに対して、エアが変態して現れた竜は、真珠のように輝く白に尾や腕、首のラインに金色の鱗が光る、きらびやかでたいそう美しい姿であった。

 身体の大きさこそ、家を四つも重ねてようやく届くくらいの巨大なアルフォンスに比べたら、その三分の一程なのだが、鱗の艶やかさや若々しさは大変なもので、光を反射して輝く程に美麗さである。


『ふんっ、未熟な小童こわっぱめ』


 アルフォンスが鼻で笑ったが、もちろん三人はまったく気に留めていない。


「エアはとても綺麗な竜だ。その色合いはなかなかいいと思うよ。爪や翼の先が金色に光るのもかっこいいな」


『本当ですか? ミオに褒めてもらえて嬉しいです』


 エアは得意そうに羽ばたいて見せる。


「うん、すごくいい」


 どうやらミオッカは、美青年の姿のエアよりも竜の姿の方が気に入ったようである。年頃の乙女としてそれはどうかと思うのだが、ミオッカなので仕方がない。


「へえ、竜ってこういう手触りなんだ。つやつやして、見るからに若さに溢れた竜だよね」


 少し宙に浮き上がってからすぐに降り立ったエアの身体を、レキが撫でながら褒める。気のおけない仲間とはいえ、人が突然竜の姿に変身しても動じない辺りがいかにもミオッカの子分らしいのだが……レキはまだ、自分のことを『常識人だ』と信じていた。


「それに、兄ちゃんはとても強そうだ。口からなんか吐けるのかな? いつもみたいに『カッ』てやったら、ものすごいものが出てきそうだぜ」


「ねえ、ちょっと飛んでみてよ。わたしたちを背中に乗せられる?」


「俺も乗りたい!」


『もちろん乗せられますよ! 乗せたいです!』


 白く美しい竜は、わくわくした子犬のように尻尾を振りながら言った。


『それじゃあ少し屈みますね』


 ふたりが自分を無視してエアを褒めまくるので、アルフォンスはとても気を悪くして白と金の竜に飛びかかった。


『おのれ、生意気な! まだ子どものおまえなどよりも、長い年月を生きてきた我の方がずっと優れた価値ある竜なのだ。むごたらしい血塗ちまみれにしてくれるわ!』


 だが、もうすでに身軽なミオッカとレキはエアの背にまたがり、白い竜はすでに空中を高く飛び上がっていた。


「あんた、アルフォンス、ずいぶんと大人気ない真似をしてくれるじゃないか」


 頭上のミオッカに咎められたが、稀竜は『うるさい!』と聞く耳を持たない。


『本来ならば、意思など持たずに我の呼び声に応えてここにやって来て食われるだけの存在なのだぞ。それがなにを血迷ったか、聖なる乙女に惹かれたのか、自分の考えや判断力を持つようになってしまったようだ。しかし、セアイアルムスは我に吸収されるためにこの世界に生まれ出た竜、その運命を変えるわけにはいかんのだ』


 アルフォンスは『何度も言うようだが、我の命が尽きると同時にこの世界は滅びの道を辿るのだぞ』と念を押す。


『そうなったら、乙女の大切な妹ももちろん若くして亡くなるし、家族や友人も森も獣もすべてが死に絶えるのだ。ミオッカよ、それをわかっていても我の邪魔をするのか?』


 エイリナが亡くなると聞いてミオッカは顔を歪めたが「だからと言って、わたしの子分を犠牲にするつもりはないね!」と素早く返事をした。


「わたしはあんたの話を鵜呑みにはしないよ。エアの意思を尊重する」


『その竜も、魂が滅するわけではない。吸収はするが、わたしの中で共に長い年月を生きていくのだ。そうした竜たちは今もわたしの中にいる」


『わたしはミオから離れません』


 いつも笑顔でおとなしくミオッカの側にいるエアだが、この時はとても力強く自分の望みを言った。


『ミオと共に生きていきたいのです。稀竜種だかなんだか知りませんが、わたしを食らうというなら戦います』


「よく言ったね、エア!」


『この愚か者があああああーッ』


「エア、上の穴から出て、そのままナト村に向かって」


 白い竜は矢のように飛んで急上昇したが、アルフォンスが『させぬわーッ』と巨体にそぐわぬ速度で先回りして、身体をぶつけてきた。エアは身体をひねり、のけぞってそれを避けて、旋回しながら地表に戻る。


 ミオッカもレキも身体能力が優れた狩人だったので、なんとか振り落とされずに済んだが、もしも落ちていたら大怪我をするか命を失っていたであろう。


『絶対に逃さぬわ!』


 急降下してきたアルフォンスは大きな口を開けて、エアの身体に噛みつこうとする。だが、初めて竜の姿になったとはいえ、今までミオッカの元で狩人としての修業を積んできたエアは、この洞窟の棲家に長い間暮らしていたアルフォンスよりもずっと動きがいい。


 青銀の竜の攻撃を避けたエアは、くるりと旋回するとそのまま『カッ』と光を吐いた。それは頭に当たり、攻撃を受けてのけぞるアルフォンスの喉笛にエアが噛みついた。


『しまった! おのれ、本能で急所を見抜いたのか……』


 アルフォンスが、ゼリーのように身体をぶるぶると震わせながら小さくなっていくので、ミオッカとレキはなにが起きたのかと青銀の竜を見る。


「姉ちゃん、エア兄ちゃんがおじさん竜を吸い込んでいるみたいだぜ」


「ふむふむ、エアを食らおうとして、エアに食われちゃったのか」


 どう見ても白い竜の方が身体が小さいのに、巨大な竜の身体はすべて吸い込まれて消えてしまった。


「この喧嘩は、エア兄ちゃんの勝ちだな。でも、そうなると今度は兄ちゃんが稀竜種の王ってやつになるのか?」


「エアはわたしの子分だからね。こんな変なところにひとりで置いておくわけにはいかないよ……ん? どうした?」


 白い竜はぐるぐると唸った。


『ミオ、気持ち悪いです……』


「まさか、食あたりを起こしたのか? エア、ペッて出しちゃいな」


 白い竜は喉をゴロゴロいわせると『カッ!』と青っぽい塊を吐き出した。そして人の姿に戻ったので、ミオッカとレキは身軽に地面に降り立った。


「ふう、もう大丈夫です」


 エアがいつものように笑顔になったので、ミオッカはその背中をさすりながら「よかったよ。おなかは痛くないかい?」と子分の体調を気にかける。と、レキが先ほど吐き出した塊を指さして「姉ちゃん、あれ、もぞもぞ動いて気味が悪いんだけど」と声をあげた。


「エア兄ちゃん、『カッ』て焼いちゃってくれよ……」


『おい、やめんか! 我をゴミ扱いするでないぞ!』


 もぞもぞが広がると、そこには背中に小さな翼が生えた……


「うわ、あれはトカゲだ、トカゲが喋ったぞ」


『違う、竜だ!』


 背中に小さな翼が生えた、青銀色の身体をした自称竜のトカゲがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
全然緊迫した戦いになってなくて笑ってしまいました。 アルフォンス、哀れなり笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ