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稀竜と精霊の乙女〜アーゲルバインドの風〜  作者: 葉月クロル


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第26話 クローニーでの演奏

 この街でも、人の集まる場所での演奏は混乱を避けるために許可制になっているので、ミオッカたちは到着の翌日に広場の一角を借りる手続きをして、さっそく夜からお披露目することにした。

 レキが「もうちょっと目立つ衣装にした方がいいんじゃねえか?」とアイデアを出したので、ベールには夜の灯りを反射してキラキラ光るビーズを、手先が器用なミオッカが旅の間に少しずつ縫い付けてきた。

 イゼルの町で手に入れた古びたベールは、ほつれをレース糸で美しく飾り、華やかなビーズが輝き、今ではミオッカの立派な衣装になっていた。


「さあさあクローニーの街につどいたる皆様方よ、素晴らしい夜の音楽に耳を傾けてみとくれよ!」


 すっかり慣れたレキの、朗々とした口上が夜の広場に響き渡った。

 彼らの評判を耳にした人々が「おお、来たぞ来たぞ」「あれがベールの歌姫だな」「素敵に光るベールをかぶっているのね」と言いながら集まってくる。

 ミオッカたちが借りた場所の近くで出し物をしていた者たちも、最近名前が知られてきた『ベールの歌姫』の実力を見定めてやろうと、演じる手を止める。


「これから演奏を披露するのは、その名も高い『ベールの歌姫』一行だ。類稀たぐいまれなる響きを紡ぎ出す竪琴弾きと、楽神の加護を受けて旅する魅惑の歌姫が紡ぎ出す旋律が、クローニーの皆様方を天上の世界に誘おうぞ。さあさあ、心震わせる美しき演奏で今宵を華やかに彩るのは、歌姫ミオッカ! 竪琴弾きのエア!」


 レキがふたりを紹介すると、ベールの歌姫の演奏を心待ちにしている人々から拍手と歓声が湧き起こった。


「クローニーの皆さん、こんばんは。最初はとても高い青空からやって来た、小さな羊の歌だよ」


 エアがイントロを弾くと、可愛らしい子羊が雲からぽこぽこ生まれて地上を満たし、雪に負けずに真っ白な世界を作るという、不思議でのどかなおとぎ話のような歌だ。

 起承転結はあまりない曲だけれど、サビのところの弾んだメロディーがリズミカルにぽっかぽか、ぽっかぽか、と何度も続いていくと、手拍子をしながら聴いていた客たちの脚が自然とステップを踏み出す。ミオッカたちの曲に合わせて、広場に踊りの輪が広がった。


 その後には、どこに行ってもリクエストが来る『金貨と銀貨が転がった』でまた踊りが盛り上がる。羽振りの良さそうな商人たちが、大きなものに買い換えた集金用の帽子にたくさんの硬貨を投げ込んでいく。金貨と銀貨をセットにすると幸運がやってくるいう噂が生まれたため、この曲だけでかなりの金額になる。

 こうすると、なぜか商売が繁盛するとの評判なのだ。その後、悪い話は聞かないので、ご祝儀を弾んでくれた商人たちの商いは本当に上手くいっているのであろう。


 それから、しっとりした『夜の月は銀の弓』を歌う。

 曲の途中でミオッカが背中の弓を持って振ると、ひゅいーん、ひゅいーんという風を切る音が鳴って、不思議で美しい雰囲気の曲にぴったりであった。


「次の曲は、とても悲しく美しい愛の物語だよ。『繋いだ指に金色こんじきの薔薇』」


 ロマンチックな曲が大好きな女性たちがわっと沸いて拍手が起きた。


 これは美しい薔薇の乙女が悪い妖精に攫われてしまい、彼女を愛する貴公子が命をかけて取り返すという昔々の物語だ。愛する乙女をなんとか助け出したものの、妖精の呪いでふたりは代わる代わる眠りに襲われてしまう。朝日が昇る一瞬と夕日が沈むほんのわずかな一瞬だけ、ふたりの瞳が開いて見つめ合うことができる。やがて抱き合うふたりの身体は朽ちて金色の花を咲かせる一本の薔薇になり、魂は永遠にひとつになるのである。


 エアの指が奏でる繊細で美しいパッセージに、哀愁を帯びたミオッカの声が重なって、もう誰も引き離すことができない魂と遠くの森の陽だまりで揺れる薔薇の姿が浮かびあがり、女性たちはすすり泣いた。

 

 最後に『月影のホーレイ』を歌って聴衆と共に『ホーレイ ホーレイ ホーレイヨー』と感謝のホーレイを捧げると、本日の出し物は終了だ。


「1日置いて、明後日にはまた演奏があるからねー」


 満足した客たちが帽子から溢れるくらいに硬貨を投げ入れてくれたので、レキはホクホクしながら「また来ておくれよ!」と立ち去る人々を見送った。

 レキは帽子の中身を丈夫な袋に移すと「エア兄ちゃん、頼むよ」と力持ちのエアに渡す。銀貨と銅貨がここまで集まると、かなりの重さがある。明日の昼間にこれを大金貨に両替をして持ち歩くのだ。

 


 クローニーの街での演奏はとても上手くいっている。人口が多い街なので、聴衆の数も多い。そしてミオッカたちはかなり有名になっているので、ファンの数が急速に膨らんでいき、収入も大変な額になっていた。

 だが三人は、狩人の仕事も忘れない。


「明日は熊狩りだね」


 演奏が終わってベールを外したミオッカが「楽しみだねえ」と言った。美しい音楽を奏で終えた『ベールの歌姫』一行が笑顔で語っているのが、熊肉と野菜をよく煮込んだシチューについてであるとは、ファンたちは思いもよらないだろう。


「熊はたくさんの肉が取れるからいいね。それに、少し肉が入っているだけでも、とても身体が温まるシチューができるんだよ。冬場は熊に限るね」


 もちろん、熊は巨大な体躯の猛獣で、狩るのには危険が伴う。ヤるかヤられるかの真剣勝負なのだ。

 通常ならば。


「刃物が刺さりにくいから、近い距離から矢を射らなくてはならないし、一撃では倒せないから逃げ回りながら攻撃し続けなければいけないんだ。レキのナイフも、力を込めないと刺さらないよ」


「熊に投げナイフで対抗しようなんて考えるのって、ミオ姉ちゃんくらいなもんじゃねえか?」


「そんなことはないさ。頭は使いようだよ」


 ミオッカは笑って言うが、レキは『姉ちゃんができるって言うんならできるんだろう。だけど、頭じゃわかっていても、正直恐ろしいよなあ…… 』と内心でビクついていた。

 顔を引き攣らせるレキを見て、ミオッカは言った。


「レキは怖かったら留守番しておいでよ。まだ見習いだし、小さい子どもなんだからさ」


 そんなことを優しく言われたら「熊ぐらい平気だぜ! なんてことねーよ!」と強がってしまうレキである。


 さて、いつものように屋台で売っている美味しいもので夕食を済ませた三人が宿に帰ろうと歩いていると、ミオッカが「気がついてるかい?」とふたりに囁いた。レキは「なに?」と首を傾げ、エアは「頭、消しましょうか?」と物騒な申し出をする。


「ううん、まだ消さなくていい。向こうの路地に誘い込んで、ちょっとお話を聞こうじゃないか」


 ミオッカは、視線を前方に向けながら(振り返るなどという愚かな真似はしないのだ)不思議そうな表情をするレキに「昨日から二人組の男たちがわたしたちの周りをうろちょろしてるんだよ。今も後をつけて来ている。揺さぶってみるからレキは安全な場所を位置取るんだよ」と説明をした。


「二人組って、まさか……あいつらか? まだ俺を売り飛ばそうとしてるのかい?」


 元見せもの小屋出身で、人買いと取り引きをしている男たちは、先日ミオッカが痛めつけて心を折ったはずだ。


「だとしたらすげえ精神力だな! 姉ちゃんに手首を折られたってえのに、まだやる気なのか」


「いや、あいつらとは背格好が違うね。となると、人買い本人がやって来たのか、それとも別口で、わたしたちの財産を横取りしようとしている奴らなのか。どっちにしろ、余計な悪さをしないように、きちんと躾けてやらないとね」


 この十六の少女の躾けは、「大丈夫、折るのは心と、あとは一ヶ所だけにするからさ」という恐ろしいものであった。

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