第25話 クローニーの街
エアが荷車を引いてくれるおかげで、三人の旅はとても順調に進んだ。次の町に到着する前に、獣や鳥が多く生息する草原や林などに寄って狩りをして、獲物の山を荷車に積んで持ち込み、お金に換えることができる。
もりもり肉を食べて、よく歩き、狩りをするうちにレキの身体にも力がつき、荷車に乗せてもらわないで大丈夫になってきた。
この点は、乗せたがりのエアが不満そうな顔をするので、たまにミオッカはレキと共に荷車に乗って彼を喜ばせた。
また、演奏活動の方も順調であった。
もともとエアもミオッカも才能があり、人を惹きつける演奏ができていた上に、レキが見せもの一座にいた経験を生かしてふたりをプロデュースしたため、『ベールの歌姫』の名は旅を続ける彼らに先行して広まって行った。彼らは訪れたどこの町でも歓迎されて、その収益は増えていった。
そうして進んで行った彼らは、母メイニャの実家が治めているクローニーの街のすぐ近くに到着した。クローニー子爵家は歴史ある貴族家なので、治めている領地の名と姓が一致している。
「竜の鱗を手に入れるのは、王族と繋がりがないと難しいと思うんだ。クローニー子爵家が協力してくれるといいんだけど……確か、子爵って貴族の中では下位だったような……」
するとレキが「貴族ってだけで、俺たちよりずっと身分が高いけどさ、あいつらだけで上だの下だのいろいろやり合ってるんだよな。王族の下に、公爵、それから侯爵、伯爵、子爵、男爵って具合に続くんだぜ」とミオッカに教えた。
「でも、力の強さと爵位は必ずしも一致しないから、とりあえず『このお貴族様が一番偉いんですね』って平伏しておくのが無難だ」
「レキは世間をよく知っているね」
「これでも町から町へと渡り歩きながら育ったからな。読み書きもなんとなく覚えたし、自分の身を守るために知識も蓄えた。戦争とか貴族同士の争いごとに巻き込まれたらたまらないから、流れの見せもの一座はそういう噂話にも耳をすませて生きているんだ。でないと生き残れないからさ」
「なるほどね。わたしはナト村からあまり出歩かない狩人だから、森や獣については詳しいけれど、そういうことにはからっきしだね。レキがいてくれてよかったよ、とても役に立つ子分だ」
レキは「へへっ」と嬉しそうな顔をした。
「エアは、なんか知ってるかい? まあ、たくさん曲を知っているし、それだけ竪琴を弾ければ充分かもしれないけど」
しかし、彼は荷車を引きながら微笑むだけであった。
見目麗しい青年が荷車を引く姿はあまりにも不似合いで、クローニーの町の入り口でギョッとされて「虐待されているのではなかろうな」と疑われる場面もあったが、本人がご機嫌だし、身分証も提示したので、特に問題なく町に入ることができた。
途中でガンの群れに遭遇したため、荷車には血抜きをしたガンが山のように積まれている。それを見た門番が言った。
「三人とも狩人なのか。かなり腕がいいようだな。冬を前にして肉が必要とされているから、高値で売れるだろうよ」
「そりゃあよかったよ! なんならこの街に滞在中にもう一狩り出かけても良さそうだねえ。森に入ればイノシシや鹿がいるだろうし、冬眠前の熊も狩れるかもしれない」
「なんと、熊を狩れるほどのベテラン狩人か! それはこちらとしても大歓迎だ。ぜひとも狩人としての腕を振るってもらいたい」
寒くなると冬籠もりして獣が減るし、寒さに対抗するために肉が引っ張りだこになるので肉が品薄になる。
獣を狩ってきて街に卸す狩人は、とても必要とされて尊敬される職業なのだ。
街の中に入ると、さっそく門番に聞いた狩人ギルドの買取り所へと向かった。
「これはすごいな。量もだが、いい腕前を持っている」
「全部買い取ってくれるかい?」
「もちろんだとも、助かるよ」
買取り担当者は、首を落として血抜きされた他には傷がないガンを見て、『この三人の狩人は、なかなかの者だな』と感心し、身分証を見て『音楽家と兼業とは、こいつは驚いたな!』と目を見張った。
「この街で演奏もやるのか?」
「ああ、そのつもりだよ。最近では、そっちの方の収入がかなり多いんだ」
「はあ、偉いもんだな。買取り所としては、できればもっと狩りをしてもらいたいんだが……」
「この子に熊狩りを覚えさせたいし、森に行くつもりさ。獲物の情報があったら教えてね」
「おお、熊狩りか! なんでも教えてやるから、たくさん狩ってきてくれ」
「演奏も聴きに来てよね? けっこう人気なんだよ」
「わかったわかった、夜にやるんだな。顔を出そう」
腕のいい狩人たちがやってきたので、ホクホク顔のギルド員は頷いた。
「そういえば、領主のクローニー子爵は芸術活動に肩入れしているそうだ。本当にいい演奏ができるなら、そのうちお声がかかるかもしれないな」
ミオッカたちは顔を見合わせてから「だといいな」と笑った。
手数料を払うと狩人ギルドで荷車を預かってもらえるので、ミオッカたちはそれぞれの荷物を背負うと宿を探しに行った。
「ここはかなり大きな街だね」
クローニー子爵家の領地はナト村よりも温暖で、冬でもそれほど雪が積もらない過ごしやすい場所にある。近くに山はなく、主に森で狩りを行うし、開墾されてできた村では農業も盛んだ。綿花も育てているし、かなり裕福な所である。
「あとで母さんが精霊に出会った森というのにも行ってみたい。別に、父親を見つけて殴ろうとかそういうんじゃないけどさ」
「姉ちゃん、あえてそう言い訳するところが怪しいんだけど」
「殴ってもいいと思います。わたしが焼きましょうか?」
「精霊って焼けるのかな? エアの魔法なら焼けるかも」
そんな物騒なことを話しながら、三人は宿屋が立ち並ぶ通りにやってきて「お金はあるから、お湯を浴びられる所に泊まろうよ」と良さそうな宿を見繕う。尋ねてみたところ、この街には共同の湯浴み場があって料金を払えば誰でも使えることがわかったので、そこそこの宿でふた部屋をとった。
「今夜は演奏できそうな場所を下見しながら、屋台で夕食をとるよ」
「やったあ!」
ちゃんとした(まあ、屋台飯だが)料理を食べられるとあって、レキは喜んだ。




