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稀竜と精霊の乙女〜アーゲルバインドの風〜  作者: 葉月クロル


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第17話 狩人として

 荷物が増えたので来る時よりもやや時間がかかったが、三人はまだ明るいうちに町に戻ることができた。

 まずは新鮮な獲物を狩人ギルドの買取り所に卸すことにする。


「こんにちは。今日も持ってきたよ」


「おお、丸々と太ったいいアヒルだな」


 買取り所の男性は大量のアヒルに驚き、それからミオッカの連れがひとり増えていることに気づいた。


「この子は新しい子分なんだよ。レキっていうんだ。自分でウサギを狩ったから見ておくれ。狩人の仮登録をしてもらいたいんだ」


「どれ、坊主、見せてみろ」


 レキがもぞもぞすると、エアが「背中を向けなさい」と言って背中のウサギをおろしてやる。すっかりいいお兄ちゃんになったエアを見て、ミオッカは満足げに頷いた。


 男は『こんな小さな子どもがひとりで狩れたのか?』と疑問に思いながらも、腕のいい狩人のレットクの娘であり、こちらもレットクに劣らないほどの腕を持つミオッカが言うことなのだからと信用する。


 ずっしりと重さのあるウサギを受け取った男は、状態を確かめ始めた。


「……ナイフが深く刺さったのが致命傷の一撃か。首に当てるとはいい腕をしているが、この傷は投げナイフか?」


「そうさ。俺はナイフ投げが得意で、今までもウサギや鳥はけっこう狩っているんだ」


 レキは「ちびっちゃい頃からナイフをおもちゃにしていたから、扱いは慣れているんだ」と、自信ありげに笑った。


「ふむ。今、何歳だ?」


「十二歳」


 男はレキの全身を眺めてから「大きく見せようとしているな。本当はいくつなんだ?」と、そこは疑った。だが、レキは「よく言われるんだけどさ、俺は本当に十二なんだぜ」と答えた。


「俺は見せもの一座にいたんだけど、小さな子どもが芸をする方がウケがいいからと言ってあまり食べ物が貰えなくてさ。ずっと食い足りなかったせいで背が伸びなかったんだよ」


「……そいつはひでぇ話だな」


 レキの細い手首を見た男は「子どもに飯をやらねえとは、クソな親だ」と言った。


「いや、親じゃないよ。親は俺が小さい頃にはぐれちまったのか、顔も覚えてないんだ。俺を拾った見せもの一座の親方は、出し物にするために育てていたんだから仕方がない。親切心じゃなくて金を生むガキだから食わせてやるんだっていつも言われてたんだよ。まあ、殺されなかっただけマシってもんだな」


 肩をすくめるレキを見て、男とミオッカは嫌な気分になった。彼がずっと虐待されていたのだと気づいたからだ。


 だがエアだけは、いつものような笑顔で淡々と言った。


「レキはミオッカの子分になれたから、これからは食べるものに困りません。美味しい鳥や獣をたくさん狩って、たくさん食べられるのですから、レキは幸せな子どもです。もっと大きくなれるといいですね」


「うん、親分にしっかりと食べさせてもらうぜ」


 レキは嬉しそうに笑った。その無邪気な顔を見たミオッカは「親分として、そこはしっかり保証する」と宣言した。買取り所の男も「うむ、そうしてやりなさい」と頷く。


「だからおっちゃん、俺を仮登録してくれよ。一流の狩人になって、肉を食って、いい暮らしをするんだからさ」


「……まあ、いいだろう。仮登録をしてやろう。十五歳になったら本登録してやるからしっかりやるんだぞ。まだ身分証は持ってないんだな? 手続き用の仮登録証を出すから、役場で作ってもらえよ」


「親切にありがとう、助かるよおっちゃん」


 悲惨な過去を持つ割に素直なレキに、男は肩をすくめて「どうってことない」と答えた。まっすぐなお礼を言われて少し照れたようだ。


 こうして持ち込んだウサギとアヒルは良い値段で売れたので、銀貨をたっぷりと受け取った彼らはこれを元に夜の演奏のための衣装を揃えることにした。


「役場に行って用事が済んだら、屋台でなにか買って昼ごはんにしようね。肉がいいかな?」


「うん! 昼間から肉が食えるなんて豪勢だぜ!」


「わたしも肉は大好きです。屋台の肉、楽しみです」


 ミオッカはワクワクする男子ふたりを見て微笑ましい気持ちになった。




 今度は役場に向かい、レキの身分証は問題なく交付された。


「こんなちゃんとした身分証がもらえるなんて……俺はずっと、流民としてどこにも受け入れられずにいたし、これから生き延びてもそのままだと思っていたから、嬉しいや」


 彼は『狩人(仮)』と表記された身分証をそっと撫でながら言った。


「子分にしてくれてありがとう、ミオ姉ちゃん」


「うん、これからもよろしくね」


 ミオッカに頭を撫でられるレキの表情は、あどけない子どものものであった。




 屋台で肉の串焼きを買った三人は、また石段に座りながら遅い昼食をとった。堅焼きパンと肉でおなかがいっぱいになり、落ち着いたところで市場を回る。しばらくこの町で暮らしていたため土地勘のあるレキが、がらくた屋を案内した。


「ちゃんとした服は高いから、良さげな布を見つけてそれらしくしようと思うんだけど……」


 レキはカーテンの切れ端やら半端な布やらが入った箱をかき回して、なにやら見つけたらしい。


「ひらひらしたやつがあった。これは……貴族のお姫さまが着るドレスのなにかじゃねえか?」


 レキは店番の女性に「おばちゃん、これはなんだい?」と布を見せた。


「ああ、そりゃあドレスをほどいた残り物さね。良い布のところはみんな売れちまったよ。それは向こう側が見えるほど薄くて服に仕立てるには不向きだから、売れなかったのさ」


「へえ。端っこにひらひらが付いてるし、やけに細長いし、確かに服にはなりそうにないね」


 ドレスの表面についていた、レースの縁飾りがついたチュールらしい。確かに服に仕立て直すには向かない布だ。


「おばちゃん、これをもらうから安くしておくれよ。どうせこのまま置いておいてもずっと残っちまうだろう? 俺が引き取るよ」


「うーん……まあ、そうさなあ……」


「おばちゃんも、使う当てのない布を飾っておくより、銅貨を何枚か握っている方が楽しいだろう?」


「銅貨より銀貨を握りたいものさねえ。それはちゃんとしたところから来た、貴族の持ち物だからなあ、それなりに価値があるんだよ」


「価値があっても売れないんじゃ仕方ないよね?」


 ミオッカもエアも口をはさめずにいる前で、がらくた屋とレキは価格を巡るやり取りを続けて、最終的に銀貨一枚と銅貨八枚という値段で取引がまとまった。


「口が達者な子どもだねえ」


「ありがとさん」


 こうして、レキのお眼鏡にかなう、ミオッカの衣装のようなものが手に入った。

 



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