ぽっぽぽ汽車さんとそのお客さん【冬の童話祭2026】
【ぽっぽぽ汽車さんと泣き虫の男の子】
ぽっぽぽ汽車さんは、山のふもとの小さな駅にいました。
朝のもやの中で、いつも、ぽっぽぽと小さく笛をならして休んでいます。
ぽっぽぽ汽車さんは、いろんな人や、物を乗せて一生懸命に走ります。
動物を乗せたこともあれば、風船を乗せたこともあります。
ある日は、忘れ物を乗せ、ある日は笑い声を運びました。
その日、駅のホームに居たのは、ひとりの男の子。
まっ赤に泣きはらした目をして、手には、小さなカゴを持っています。
カゴの中には、しおれた花が一輪だけ入っていました。
「ぽっぽぽ汽車さん、ぼくを乗せてください。」
ぽっぽぽ汽車さんは、やさしい声で聞きました。
「どこまで行くの?」
男の子は、涙をぬぐって言いました。
「おはなの丘まで行きたいんです。おばあちゃんのところに花を届けに行くんです。でも、途中で道が分からなくなって・・・」
「なるほどね。」
ぽっぽぽ汽車さんは、うなずきました。
「おばあちゃんの所に花を届けたいのかい?それはとっても大事な用事だね。じゃあ乗りなさい。ぽっぽぽ汽車さんが、連れて行ってあげよう」
男の子は、カゴを抱えて列車に乗りこみました。
ぽっぽぽ汽車さんは、ゆっくりと動きだします。
ぽっ、ぽっ、ぽっ。がたんごとん!
車輪の音が、山にこだまします。
「ねぇ、汽車さん、お花に元気がないんだ。ちゃんと、元気になるかな?」
男の子が、たずねました。
「うん、大丈夫。花は、風と太陽が大好きだから。途中で風を少し分けてもらおう」
そう言って汽車さんは、笛を鳴らしました。
ぽっぽぽ、ぽっぽぽ、ぽっぽぽ
あたたかい風が、トンネルの向こうからやってきて、花のつぼみをそっとゆらしました。
男の子は、小さく笑いました。
けれども、この旅は、ただの配達ではありません。
男の子は、おばあちゃんが、もういないことを知っていました。
花を届けたいというのは、それでも、もう一度会いたいという心の声だったのです。
ぽっぽぽ汽車さんは、それを知っていて、やさしく線路を進みました。
【ぽっぽぽ汽車さんと帽子の女の子】
丘へ向かう途中、汽車さんは、風の村に着きました。
そこでは、風が、いろんな形をして遊んでいます。
風の犬は、庭をかけまわり、風の猫は、こたつの上で、丸くなっています。
その駅のホームには、ひとりの女の子が、立っていました。
大きな帽子をかぶっているけれど、少しずつ帽子が溶けていくように見えます。
「ぽっぽぽ汽車さん、乗せてください。」
「いいよ。どこまで行くの?」
「風の海まで行きたいの。わたしの帽子、風でできているの。でも、だんだん消えてしまいそうで・・・風の海に連れて行ってあげないと、溶けてなくなっちゃう。」
「それは、たいへんだ!」
ぽっぽぽ汽車さんは、ぴぴぃと笛を鳴らしました。
「乗って乗って!風の海まで、まっすぐ行こう!」
女の子は、男の子の隣に座りました。
男の子は、花のカゴをかかえ、女の子は帽子を手で押さえています。
二人は、すぐに仲良くなりました。
「あなたは、どこに行くの?」
女の子が、たずねました。
「おばあちゃんに花を届けるんだ。でも、もういないんだ」
女の子は、少し考えてから言いました。
「じゃあ、風に届けてもらえばいいわ。風は、いなくなった人にも、届くのよ」
ぽっぽぽ汽車さんは、うれしそうに笛を鳴らしました。
「そうとも!風は、この世界をめぐって、どんな遠くにも届くんだ。」
こうして二人と汽車さんは、風の村を出発しました。
車窓の向こう側では、風の動物たちが手をふっています。
途中、風のトンネルをくぐると、女の子の帽子が、きれいな風のリボンになって空へ飛んでいきました。
女の子は笑って手をふり、ありがとう!と声を上げました。
帽子は、風の海へ帰っていったのです。
「帽子、なくなっちゃったね・・・」
男の子が言うと、女の子は、首を振りました。
「ううん、一度、帰っただけよ。風は、またすぐに会いに来てくれるのよ。」
ぽっぽぽ汽車さんは、やさしく走りながら思いました。
人も、風も、みんな帰る場所を、持っているっていいなぁ。
【ぽっぽぽ汽車さんとねぼけ猫】
その日の夜、汽車さんは、山のてっぺんを走っていました。
月がまるくて、線路を銀色に照らしています。
男の子は、眠そうにまぶたをこすりました。
その時です。
にゃーごぉと、鳴き声が聞こえました。
線路のわきに居たのは、黒と白のまるい猫。
「ぽっぽぽ汽車さん、ぼくも、乗せてくださいにゃ。」
「いいとも。どうしたんだい?」
「お家をまちがえちゃって、どこに帰ればいいのか、分からないにゃ。」
「それは困ったね。じゃあ、帰る場所をいっしょに探そう。」
猫は、貨車の上に乗って、くるくるしっぽをふっています。
「名前は?」
男の子が聞きました。
「ねぼすけですにゃ。寝ぼけてたら迷子になったのにゃ。」
「じゃあ、寝ぼけてない時に思い出すかもね。」
女の子が、そう言って笑いました。
その時、ふきつける風の中からこたつ猫の声がしました。
風の村にいたあの猫さんの声です。
「ねぼけ猫さん、あなたのおうちは、帽子屋さんの隣よ。」
「帽子屋さんの隣?どこにゃ?」
ぽっぽぽ汽車さんには、その場所が、すぐに分かりました。
「そうか、あの森のふもとだよ!」
汽車さんが、ゆっくり止まると、そこには、丸い月の光の輪ができていました。
ねぼけ猫は、そこにぴょんと飛び込み、安心したように丸まりました。
「そうだった。ここが、ぼくのお家にゃ。」
ぽっぽぽ汽車さんは、ほっと胸をなでおろしました。
ねぼけ猫は、うつらうつら、ぽっぽぽ、ぽっぽぽ・・・とつぶやいています。
きっと、寝ぼけて汽車さんの夢を見ているのでしょう。
汽車さんは、また走り出しました。
星空の下を進みながら、男の子は小さくつぶやきました。
「みんな、自分の行き先が、ちゃんと分かってていいな。」
ぽっぽぽ汽車さんは、言いました。
「君だって、ちゃんと行き先を見つけられるさ。だって、このぽっぽぽ汽車さんが、おばあちゃんが待ってる丘へ向かっているんだから。」
【ぽっぽぽ汽車さんとおしゃべり時計】
次の朝、ぽっぽぽ汽車さんは、古い町に入りました。
そこには、時間屋さんというお店が並んでいました。
あちこちで時計の音が、チクタク、チクタク。
すると、ある店の前で、小さな金の時計が、ぴょんと飛び出してきました。
「ぽっぽぽ汽車さん、ぼくも乗せてください。」
「もちろん。どうしたの?」
「ぼく、止まってしまったんです。チクタクって音が出なくなったんです。時間が、進まないんです。」
汽車さんは、心配そうに言いました。
「じゃあ、直してもらいに行こう。どこで直せるんだい?」
時計さんは、答えます。
「お日さま坂に行けば、きっと、また動けるはず・・・」
男の子も、元気に言いました。
「じゃぁ、すぐにそこへ行こう!」
列車は、古い町を出て、坂道をのぼります。
途中、止まった時計さんは、ぽつりと言いました。
「止まってから、みんなの時間が、ぼくを置いて先に行っちゃいました。置いていかれたみたいで、さびしいです。」
男の子は、言いました。
「でも、ほら・・・時間が止まっても、ぼくたちは、一緒に先に向かうことが出来ている。だから、時計さんの針が止まっても、また、すぐに動けるようになるよ。」
その言葉を聞いて、時計さんの針が、カチりッと少し動きました。
ぽっぽぽ汽車さんが、ぽっぽっーっと笛を鳴らします。
坂の上で太陽の光がきらめくと、時計さんの体が、ピカッと光りました。
「チクタク、チクタク!わぁい、動いた!」
男の子も、大喜びです。
時計さんは、笑って言いました。
「ありがとう!ぼく、もう止まらないよ!」
汽車さんは、思い出しました。
汽車だって、止まってしまうときもあるけれども、誰かに、乗せてくださいと言ってもらえると、また動き出せるということを。
【ぽっぽぽ汽車さんとおばあちゃんの風】
長い旅のすえ、ぽっぽぽ汽車さんは、やっとおはなの丘に着きました。
金色の草がゆれて、たくさんの花が咲いています。
風が、やさしく吹いていました。
男の子は汽車から降り、カゴを抱えて丘をのぼりました。
しおれていた花は、しゃんと胸を張り、いつの間にか小さかったつぼみが開き、美しく咲いていました。
丘のいちばん上には、小さな風車が立っています。
男の子は、風車の前に花をそっと置きました。
「おばあちゃん、ぼく来たよ。ちゃんと花を届けに来たよ。」
すると、風がふわっと吹き、どこからかやさしい声が聞こえました。
「ありがとうね。ゆう君。お花、とってもきれいだよ。」
風が、おばあちゃんの声を届けてくれたのです。
男の子は、涙をこぼしました。
でも、その涙は、うれしい涙でした。
花びらが、風にのって空へと舞い上がり、きらきらとした光の粒になりました。
ぽっぽぽ汽車さんは、静かに笛を鳴らしました。
「さあ、これで届けものは、おしまいだね。」
男の子は、うなずいて言いました。
「うん。でもね、まだ帰らない。ぼく、もう少しここで風と話したいの。」
汽車さんは、にっこり笑いました。
「いいよ。風は、おばあちゃんの声だからね。ゆっくり話すといい。」
男の子は、しばらく丘に座り、風とおしゃべりしました。
おばあちゃんとすごした日々、花をいっしょに植えた思い出。
そのぜんぶを、風が、やさしく包みこみました。
【ぽっぽぽ汽車さんのつづく旅】
夕日が、空をオレンジ色に染めるころ、男の子は、ぽっぽぽ汽車さんのところに戻ってきました。
「汽車さん、ありがとう。ぼく、もう泣かないよ。」
「うん。きみは、ちゃんと届けたんだ。立派だよ。」
「汽車さんは、次は、誰を乗せるの?」
汽車さんは、少し考えて言いました。
「それはね・・・まだ分からない。でもきっと、また、困った事情をもった誰かが『乗せてください』って言いにくるよ。」
駅のホームに降り立った男の子は、笑って手をふりました。
ぽっぽぽ汽車さんは、笛を鳴らして出発します。
ぽっぽぽ、ぽっぽぽ。
夕暮れの線路を、ゆっくりゆっくりと走っていきます。
夕日に照らされた汽車さんの体は、きらきらと輝いていました。
その音は、どこかで泣いている誰かに、きっと聞こえることでしょう。
そのきらきらは、きっと誰かのこころに届くことでしょう。
ぽっぽぽ、ぽっぽぽ。
そうして、ぽっぽぽ汽車さんの旅は、今日も明日も明後日も、ずぅ~っと続くことでしょう。
ほら、耳を澄ませてください。
あなたの町にも、汽車さんのぽっぽぽという笛の音が聞こえてくるはずですよ。




