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負けヒロイン

なんとなく書きたくて書いた話です。

負けヒロインになんてなりたくなかったんだ。

漫画や小説で、主人公の幼馴染って大体主人公に好意を寄せて、でも皆あとから出てきた可愛い女の子に負けちゃって、悔しい涙を流してる。

それを見る度、もっと早く告白すればよかったじゃん、とか負けないくらいアピールすれば良かったじゃんとかイライラした気持ちでその子達を見下してた。


だって、私は負けたりしないから


小さい頃から仲良しで、いつも誰にでも優しい彼を私は誰から見てもニコイチだって言われるくらい側に置いた。


「貴方は本当に彼が好きなのねえ。」


なんて、負けヒロインならすぐ否定しちゃう近所のおばさんの微笑ましく思う言葉にだって


「うん!大好きだもん!」


って笑顔で返してた。

だって、本当のことだったし彼もニコニコいつもの優しい笑顔で頷いてくれた。

でも、ここで手を抜く私じゃない。

おバカだと思われたら呆れられちゃうかもだから勉強も頑張ったし(私の方が彼に教えられるくらい)そっぽ向かれたくないからオシャレだってしたし(彼も可愛いって言ってくれる)将来の為に料理だって習ってる(こっちはなかなか上達しないけど)好かれる努力はいっぱいしたって胸を張って言える。


「ねえ!私達はずーっと仲良しだもんね!大好きだよ!」


二人でいつも散歩する海辺でそう言えば彼だっていつもの優しい笑顔で頷いてくれた。


だから大丈夫、私は負けない

そう……思ってたんだ


(何?……何が起こってるの?)


高校2年生の夏、長期休みが迫って来ていつも通り二人で遊びに行く計画を立てようとした時、彼が切り出した。


「今年は……彼女と過ごしたいんだ。」


意味が分からない、何を言ってるの?何を言われたの?日本語だよね?


「っぇ?か……のじょは……君のか、かのじょは……。」


私じゃないの?

否定されるのが怖くて、彼から何を言われるか分からなくて確認する言葉を躊躇った。

心臓だって痛いくらいだし汗だって吹き出してる、暑いはずなのに体の芯は冷えていた。


「昔から仲良くしてくれた君には言わないとなって思ってたんだ、けど言う機会がなくてさ……ただ、付き合う以上は彼女を優先したいんだ。」


彼の笑顔はいつもと同じ、優しくて柔らかくて……でもほんのり頬が赤かった。


(そんな顔……知らない……)


でも、ダメだ、ここで頷いたら“負けて”しまう。今までの努力が全て泡になってしまう。今までバカにしてきたヒロイン達と一緒になってしまう。


「ねえ、私……わたしね?ずっと……前から……貴方のこと……好きだったんだよ?」


緊張で喉がカラカラだし手だって痛いくらい握ってるし心臓だって相手に聞こえるんじゃないかってくらいドキドキしてる。

言うべきじゃなかったかもしれない、でも言えばなにか変わるかもしれない。


(だってだってだって、私の方がずっと彼をそばで見てきたし人一倍好意を伝えたはずなんだから)


淡い期待を持って彼を見つめる。


「うん……知ってるよ。」

「え?」


スっと、いつもの笑顔が消えた。

無表情で、どこか苦しそうな顔を彼がしていた。


「ずっと、ずっとね。君が僕を好いてくれた事を知ってるよ。でもね、僕はずっと怖かったんだ。君は頭も良いし可愛いし、運動もできてクラスの皆から尊敬されてた。でも、僕は顔も成績も平凡で友達も普通で何も特別なものなんて持ってなかった。」


くしゃりと、泣きそうな顔で君はダムが崩壊したかのように言葉を吐き出す。


「いつも君に比べられて、なんであいつがって言われる度に僕は苦しかった。僕だって努力したのに天才の君には全然及ばないし、でも君を傷つけたくないからいつも君の前では無理して笑ってたんだ。」


ああ、私って……私は……なんにも見えてなかったのかな、でも、天才なんかじゃないんだよ?毎日遅くまで勉強したし運動だって本当は走るの苦手なのに惨めなところを見せたくなくて努力したんだよ?


「だからさ……お願い……もう僕を楽にしてくれ。」


まるで私が悪者みたいに言うんだね。

好きな人から振られたって言うのに頭の中ではどこか冷静に彼の言動をそう思う自分がいた。


「分かったよ、もう貴方とはここまでだね。バイバイ。」


彼の顔なんて見なかったし見る気も無かった。

カバンを持ってドアを開けて廊下を歩き、階段を降りて玄関で靴を履き替える。

いつも通りの動作を当たり前に自然にやりながらでも無意識に足は海が見える砂浜に向かっていた。


「あーあ……負けヒロインになっちゃった。」


夕日が沈む、なんてありふれたどこにでもある使い古された表現の良く似合う砂浜で呟いたらやっと頭が働いた。

途端にさっきまで出なかった涙が滝のように溢れた。


「あ……あぁ……なん、で……な、にが……ダメ、だったの?」


馬鹿なままで良かったの?でもおバカな子だって呆れられたくなかった、可愛くなければ良かったの?でも可愛い私を見て彼に可愛いって言われたかった、運動ができたのがダメだったの?でもぜーはーぜーはー情けない姿なんて見せたくなかった……


頭の中でぐるぐる回るなぜ何どうしての問答がひたすら体を埋め尽くす。

いっぱい頭は動いてるのに口は“どうして、なぜ”を繰り返す。

そうやって気がついたらあたりは真っ暗になっていた。


「帰らなきゃ。」


涙で腫れ上がった顔を隠しもせずに家に帰る。

お風呂に入ってご飯を食べて、勉強をして布団に入る。何も変わらない、お風呂だって入れるしご飯だって食べれるし勉強だってできるしお布団に寝転がることだってできる。


(何も、変わらない……ただ私の恋が……終わっただけ。)


結局、枯れるくらい泣いたはずの涙がまた溢れて、翌日は頭が痛くて休んで、それからそれから……


(ああ、なんも変わらない)


夏休みがやってきた、クラスメイトに色々誘われて、笑顔で予定を立てて、ショッピングとかお出かけを楽しんで、私も友達もいつも通りだった。

街でちらっと彼を見つけた、大人しくて少し地味で柔らかい雰囲気の女の子と一緒に楽しそうに歩いてた。

彼もいつものように優しい笑みを浮かべてた。つまり彼も何も変わってないのかもしれない。


ただ、私の中の大切な宝物のような恋心の破片が今も少しだけ胸を突き刺してくるだけなんだ。


それから……今まで見下してきた負けヒロインのみんな、みんなもきっと頑張ったんだね、誰も知らないところで、誰にも気付かれずに、今なら分かるよ。


次こそは、お互いいい人が見つかるといいね。

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