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プロローグ

 雨が降っていた。


 南国特有の大きな雨粒が地面を叩いているのを、みすぼらしいネオンだけが照らしていた。髪に湿気がまとわりつくのをリコは嫌ったが、切れかけていたニコチンを補充するために 仕方なく席を立った。店のオープンデッキは痛んでいて木製の床がギチギチと不快な音を立てる。貧相なマッチ棒から産まれた小さな炎は闇夜に溶けた白いドレス浮き上がらせては消えた。煙の向こう、雨音の向こうに微かに人の気配を感じた。大方酔っ払いが騒いでいるのかとも思ったが、それは聞き慣れない言葉で、女の声だった。


( 誰か助けてください。英語が話せる人はいませんか?)


「何言ってんのこいつ?お前わかる?」

「少しなら」

 バーの入口の階段にもたれて、ふたりの男が黒髪の女を見下ろしている。


( 借家の大家と連絡がとれなくて、家に入れなくて )

「コイツ中国人かな。それとも韓国人かな」

「さあ。金持ってればなんでも」


( 近くにホテルとか泊まれるところありませんか )

「こいつはいいカモじゃないの?」

「んだな~」


 その光景を見てもまだリコは無視するつもりだった。雨が降ると店に入るでもなくたむろする輩は掃き捨てても掃き捨ててもきりがなかったし、バックパッカー気取りの外国人はろくに金も落とさず写真だけ撮っていく。両方がいっぺんにいなくなれば清々するとまで思っていた。


( 近くにハッピーなホテルあるよー。安いよー )

 男のひとりが女の腕をとって歩きだそうとしたとき、店の中から「ディー」がひげ面を覗かせた。


「あーらら、かわいそうに。あれは有り金むしられて帰れなくなるやつだね~」

「・・・どういうこと?」

「粉だよ粉。有名だよあいつら」


 瞬間、リコは頭がしびれたように真っ白になり、無意識に歩き出していた。

「おい、いいのかい?ろくなことないよ ちょっと?」

 ディーの忠告は耳を通過し雨粒のひとつとなって地面に染みこむだけだ。リコは足早に階段を降りて声を張る。

「待ちなさい!」

 リコの透き通った声は3人を振り向かせるのに十分だった。

「その子は私の客よ。抜け駆けは許さないわ」

 振り向いた黒髪はずぶ濡れの服に垂れ下がっていて、見開かれた瞳はおびえきっている。本当の野良犬は自分の方なのに、どう見てもその女は捨て犬みたいにしか見えなかった。


 じっと見つめ合う。

 周囲の時間が止まっても雨は降り止まない。

 まるで、この世に私たち ふたりしか存在しないように。


「おめーテキトーなコト言ってんじゃ・・」

にじり寄るふたりの男をディーが制している間に、リコは女の手を取って夜の街に連れ出した。

 ネオンが連なる通りには雨を避けて人通りは少ない。足下にキラキラ反射した色とりどりの儚い光を追いかけながら、無言で道の真ん中を歩く。

いったい何をしているんだろう。そんな自分が滑稽で可笑しさがこみ上げてくる。戸惑う華奢な手を引いて笑顔をかける。


 あはは


 女も少し笑った。


 ここは最果ての天国。少しくらい不相応なことをしたってバチは当たらないだろう。明日の朝にまた日が昇って、この街を世界から追い出してしまう前に。その前に、この罪を消してしまえばいい。


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