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Sorcerous Secret Service_Settei Shū  作者: よしゆき
1/3

海堂らんの魔法――陰陽道

※【】は見出しを、<>は魔法の名称を表す。




(おん)(みょう)(どう)



中国で成立し、7世紀初頭に日本へ伝わった。その後日本に固有の魔法も加わり、遅くとも平安中期までには中国の本来の魔道とは似て非なるものとなっていた。同時に技術としてもほぼ完成を見、以降は目立った発展がなかった。

一方、中国では明末から清初にかけて革命的な進歩があった。(きく)()(めぐ)()はこの事実にいち早く気付き、台湾まで出向いて最新の技法の摂取に努めた。(かい)(どう)らんは芽実から<陰陽道>を教わったため、らんの用いる魔法には日本に根付いていた伝統的な<陰陽道>と異なる点が多々ある。

<陰陽道>の元となった中国の魔道は『兵法』という性格を多分に有し、伝承されてきた魔法の中には戦いの中でこそ真価を発揮するものが少なくない。日本の<陰陽道>では兵法の側面はやや影をひそめている。が、それでもかなりの数の魔法が戦闘にも適応する。




()(ぎょう)



世界的には元素として()(だい)を想定する魔道が多く、五行に依拠するのは<(おん)(みょう)(どう)>をはじめ中国起源の魔道に限られる。

()(ぎょう)(そう)(しょう)()(ぎょう)(そう)(こく)は<陰陽道>で強調される法則としてあまりにも有名だが、SSSでも相手によく効く魔法を探り当てる上で常に念頭に置いている。(かい)(どう)らんたちはこれに加えて()(ぎょう)()()という法則をよく利用する。これは、火と火や水と水などといった同一の元素同士を組み合わせると互いを強め合うという現象。


(はる)()の回想:

「まあ私たちもテレビゲームくらいするからね。水の五行に属する式神が土の魔法に弱いとか、雷は木の魔法だから土の五行を持ってる敵によく効くだとか、『あれ? どっちだっけ?』って1回1回悩まなくてもパパっと思い出せるようになるまで、けっこう時間がかかったわ」




()(おうぎ)



<(おん)(みょう)(どう)>の母体となった中国の魔道では、魔法使いは平時のうちに秘術の限りを尽くした仙術武具を製作しておいて、いざ戦闘が始まれば魔力のこもったアイテムを駆使するというスタイルが一般的。そうでなければ、魔法は攪乱やこけおどしといった補助的な用途にしか使用せず、相手を殺傷する手段としては専ら剣などの通常の武器に頼ると言っても過言でない。

日本の(おん)(みょう)()はそもそも戦いを生業とする職業ではなく、もし怨霊や式神を相手に戦うことがあったとしてもせいぜい魔法の発動を助ける呪符を用いる程度だった。

これに対し(かい)(どう)らんが手にする桧扇はかなりイレギュラーだが、これは彼女が<(じゅう)(ぜつ)(じん)>と総称される魔法を多用することに起因する。

<十絶陣>は元々、普通の人間同士の戦で用いられる戦闘陣形にヒントを得て、これを魔法に応用したもの。それゆえ陣を制御する魔法使いは、合戦の時に将兵に合図を送る『旗』を振って、雷などの自然現象をコントロールした。らんの桧扇は要するに旗の代替。本人の感覚では、(ぐん)(ばい)(うち)()の小型版である。




()()(けつ)



火から身を守る魔法。ただし炎であれば常に完全に防ぐ訳ではなく、あまりに火力が強いと守りきれない。




(へい)(すい)(ほう)



<()(すい)(けつ)>と同様に、自分の周囲に水が近づかなくなる魔法。<避水訣>は水から身を守るという用途でも使用されるが、<閉水の法>は専ら水中を移動するためのものである。




()(すい)(けつ)



水をはじく魔法。

これを使うと使用者を中心に水の進入できない領域が形成される。中国の民間伝承では水中を移動する魔法としても使用され、その時は使い手を大きな気泡が包むような状態になる。<避水訣>の使用者に密着することで(水中ならば空気の膜の内側に入ることで)、この魔法を使えない者にもその効力が及ぶ。


らんの突っ込み:

「『魔法やから』っちゅうたらそれまでねんけどさ、人間の体の70%って水やろ? もし<避水訣>が単純に水を寄せ付けへん魔法なんやったら、使(つこ)うた人相当グロい状態になるんとちゃうかな? うえぇ、何か吐き気してきた」




()(れつ)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第四。

空からは雷が進入者を狙い、地面から火が噴き上がる。雷と火が同時に起こることからも分かるように純粋な火の魔法ではなく、<(れつ)(えん)(じん)>を陽の火とすれば<地烈陣>は陰の火に属する。運用法が若干複雑なため、らんは火の魔法としては<烈焔陣>を好む。




(てい)(しん)(ほう)



相手を金縛りにする魔法。

同時に複数の者の動きを止めることができ、人数の制限もないが、術の使用者の視界に入っている者しか対象にとれない。

また<定身の法>を連発することもできない。いちど誰かに対して使ったら、それを解除するまでは別の相手に術をかけることができない。

発動した本人が任意のタイミングで解いてやることもできるが、金縛りのまま放置された場合でも長くて半日程度で回復する。




()(こう)(じゅつ)



土の中を移動する魔法。岩盤のような硬いところは進めない。

進む速さは使い手の習熟度によって異なり、熟練者ならば1日に800キロメートルという。1日のうち何時間行軍すると解釈するかによって計算結果が異なるが、いずれにせよ()()()()()()()200キロメートル進むとされる<()(とん)>の方がよっぽど速い。

<地行術>が真価を発揮するのは、移動よりも逃走である。体のどこかが地面に触れてさえいれば、体を1回転させるだけで行使することができるので、「素早く逃げ出す」ための技術として<地行術>は優秀だ。

ささやかではあるが、「地面に叩き付ける」という攻撃が効かなくなるという利点も考慮に値する。民間伝承に、投げ飛ばされた者が土に触れる瞬間に<地行術>を使い、ダメージを回避したという話がある。




(はっ)(しゅ)(ぐん)(せき)



これを使うと周囲にある大小の岩石が空中に浮いて、相手めがけて殺到する。

中国の民間伝承によれば、使われた石は大きなものでひきうす程度、勢いはイナゴに喩えられるので、生身の人間を絶命させるには十分な威力といえる。

欠点は岩を「浮き上がらせてから飛ばす」ので若干タイムラグがあることと、都会のように付近に石が無い場所では使えないこと。


()(つき)のここだけの話:

「らんってさ、おっかしいんだよ。岩を浮かび上がらせる時に右手を振り上げて、()(おうぎ)の先で空をかき混ぜるみたいなことをするんだ。クレーン車のオペレーターにウィンチを巻いて吊り荷を持ち上げるように合図するみたいにね。『あれやらないと<発手群石>使えないの?』って訊いたら、『え、ウチそんなことしとった? たぶん無意識やわ』だってさ!」




(ふう)(こう)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第二。

本来は風に乗せて無数の刀剣を飛ばし、敵を切り刻む魔法だった。だが自分たちにとっても諸刃の剣となるのでらんは刃を使うのを辞め、純粋に風だけで攻撃する陣に変えた。敵を吹き飛ばすなどの風の魔法としての威力に変化はないが、「切る」という使い方ができなくなったため対応力は低下した。


らんの言い訳:

「切りたいんやったらすなおに<(こう)()(じん)>使(つこ)うたらええやん!」




(こう)(とん)



定義上<()(とん)>には含まれないが、実質的に<五遁>と全く同じ用法。光に同化して進むため<五遁>よりもさらに数段速い。日の出ている時間帯であれば曇天でも問題なく使用できるが、目的地も昼間であることが必要。月明かり程度の光の下では成否が不安定。


らんのコメント:

「<五遁>でも日本国内を飛び回る分には十分すぎるくらい速いんやけどな……。東京みたいな都会やと、土のある場所もなかなか()うて、<()(とん)>で目的地までよう行かんことの方が多いくらいや。かと()うて<(すい)(とん)>で下水道とおっていくのは論外やろ。っちゅうことで結局<光遁>がいちばん使い勝手がええんやわ。明るいうちしかようせんのは確かに痛いけど」




(かん)(ぴょう)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第十。

元々、2つの氷山を出現させてそれで進入者を挟んで押し潰すという陣だった。だがらんの場合、自分自身とその周囲に一気に10この陣を全て展開するため、1つ1つの陣にあまり大きなスペースをとれない。<寒氷陣>に関しては、巨大な氷塊を2つも内包することなど到底不可能だ。ということでらんは、氷山を作る冷気を全て「陣内部を冷却すること」につぎ込んで、<寒氷陣>を専ら超低温で攻撃する陣に変えた。




(こく)(がん)(じょう)(しん)(ほう)



対象者の姿を変える。

<(さん)(じゅう)(ろく)(へん)()(じゅつ)>や<(なな)(じゅう)()(へん)()(じゅつ)>と同様に、「見え方が変わる」だけで「形や性質が変化する」訳ではない。よってこの技で変身させられても記憶や知性は元のまま。人間を猛獣に変えたからといって、自分が人間であることを忘れたり、知能が獣並みに低下したりすることはない。




(こう)()(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第六。

民間伝承では<十絶陣>の中でも最も厄介な陣として伝わる。

内部では紅色の砂が吹き荒れている。この砂は刃物のように鋭利で、相手によってはこれに触れただけで即座に粉砕される。もしも免れたとしても蟻地獄の作る穴と同じで、一度入ったら陣から容易には抜け出せない。もがいている間に後から後から砂が降り積もり、やがて(うず)もれてしまう。


らんのコメント:

「魔法に重要なのは具体的に思い浮かべることやからな、使い手が持っとる印象によって、同じ魔法でも効果の出方に少しずつ違いがあるんやって。ウチ昔テレビでカラブランの映像見たことがあって、ウチの<紅砂陣>に対するイメージの源泉がこれねん。そのせいなんかな、ウチが<紅砂陣>使うと、砂ぶつけて相手を砕くっちゅうよりも、砂の中に埋める魔法みたいな面の方が強う出るみたいなんや。――まあカラブランって、赤やのうて『黒い嵐』っちゅう意味らしいけど」




(こう)(すい)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第九。

内部では紅色の水が渦巻いていて、浴びるとその一部になる。要するに血塊しか残らない。




()(けつ)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第五。

メインの攻撃手段は黒い砂だが、同時に風や雷も起こす。<()(れつ)(じん)>と同じく複数の五行が混在した複雑な陣で、<(こう)()(じん)>が陰の土に、<化血陣>が陽の土に対応する。やはりらんは現れ方の明瞭な<紅砂陣>を優先して用いる。




(かい)(ふう)(かい)()(ほう)



強烈な追い風を吹かせる魔法。中国の民間伝承には、火や弓矢はおろか砲撃すら跳ね返したとあり、たいがいの飛び道具は方向転換させられるようだ。


らんの補足説明:

「いくら何でも(はる)()の<アストラ>はUターンようせんと思うよ。どっちか死ぬから試したことないけど」




()(とん)



<()(とん)>の一。

同化する対象が火なので、<()(とん)>や<(すい)(とん)>よりは遥かに使い時が限られる。民間伝承でも、相手から放たれた炎の魔法を利用して逃げるのに使われた例がいくつかある程度である。


らんの突っ込み:

「火ぃゴーゴー燃えとる時に使うワケやからな。意識してのうても上に向かって飛び上がる形になりやすんやわ。ゲームの定番ネタにな、洞窟の中で空飛ぶ魔法使(つこ)うて『頭ゴーン!!』ってなるヤツあるやん。中国の民間伝承にも全く同じパターンの話あるんやで。……『これギャグなん?』思うたわ」




()(がん)(きん)(せい)



遥か彼方を見通す。中国の民間伝承によれば、昼間は500キロメートル、夜でも200キロメートル先が見えるといわれる。

弱点というほどの弱点ではないが、<火眼金晴>を使っている間は使用者の瞳の色が赤に変わる。発光まではしない。


(はる)()ののろけ言:

「らんちゃんの<火眼金晴>、SSSにとっていちばん大切な魔法の1つだわ! 私の<アストラ>、射程距離の制限はないようなものだけど、さすがに見えないくらい離れた相手は狙えないの。でも<火眼金晴>で相手が遠くにいる間に発見して居場所を特定できれば……、安全に式神を倒せるでしょ? えっ!? 敵の手が届かないところから一方的に攻撃するなんて卑怯?」


挿絵(By みてみん)




()(しん)(ほう)



<(おん)(みょう)(どう)>、<宿(すく)(よう)(どう)>、<ルーン>、<オガム>を通して最高クラスの防御の魔法。

民間伝承には、この魔法を使用した者は刀や槍といった武器はおろか、火や雷を受けても体毛の1本たりとも損なわれなかったとある。ただし<護身の法>が適用されている間は全く動けないので、使い時はかなり限定される。体を縛り上げられるなどして反撃も逃げることも叶わなくなった状況くらいだろう。




(かい)()(ほう)



偽物の死体を作り出すという魔法。自分が死んだと見せかけて逃げるのが本来の用途。


らんの悪だくみ:

「この魔法、今の日本で(なん)使(つこ)うたらええんやろ? 死亡(とどけ)ら出されたら、仕事探すのもお医者さんに診てもらうのもようせんくなるやん。悪いことして指名手配されでもせん限り、メリット無いんとちゃう? やっぱり一番は……、(はる)()にイタズラする時やな」




(かい)()(ほう)



鍵や扉を開ける魔法。




(きん)(とん)



<()(とん)>の一。

金属に同化するため、鉱山の真上のようなごく限られた場所でしか使用できない。




(きん)(こう)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第八。

陣の中に全部で21か所、鏡のように光が反射する空気の層がある。そこから高熱を伴う光を発して、当たった者を融解させる。

五行の金に属する魔法。()(だい)を元素として想定する<宿(すく)(よう)(どう)>、<ルーン>、<オガム>には金の魔法がなく、そのためSSSにとって<金光陣>は非常に貴重な魔法となっている。


(はる)()ののろけ言:

「私の<スルヤストラ>とか()(つき)ちゃんの<シゲル>とか、光を武器にする魔法を使う時、周りに漏れた光を<金光陣>の鏡で相手の方へ向けてやると、何倍もよく効くのよ。しかもらんちゃん今ね、光を反射させるんじゃなくてレンズみたいに収束させられないか試行錯誤中なんだって。さすがよねぇ!」




(りょう)()(じん)



内部では雷のような音が常に響いており、進入者の方向感覚を奪うとされる。要するに、「騒音を絶えず鳴らし続けて頭痛を催させる魔法」である。


らんの自虐:

「民間伝承やと、<(たい)(きょく)(じん)>と<両儀陣>と<()(しょう)(じん)>を合わせて<(たい)(きょく)(りょう)()()(しょう)(じん)>()うて、3つの陣が一体的に運用されとるんやけど……。<両儀陣>と<四象陣>は正直ショボい。何やねん、気分(わる)ならせる魔法って!」




(れつ)(えん)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第三。

シンプルに炎で攻撃する陣。




(らく)(こん)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第七。

何かと物騒な陣で、らんは敵が中に入るよう仕向けることは格別、自分たちが<落魂陣>に立ち入ることを恐れる。

内部を黒い砂のようなものが飛び交っている。この砂は腐食性のある金属で、皮膚に付着すると火傷のような状態になる。

また、中に祭壇を設けて敵を呪殺することも可能。<十絶陣>で唯一、陣の外にいる者に影響を及ぼすことのできる魔法ともいえるが、完全に対象者の息の根を止めるには21日が必要。それ以前にらん自身が<落魂陣>の中に居たがらない。




(もく)(とん)



<()(とん)>の一。

使える場所は山林に限られるが、そのようなところでは<()(とん)>も使用できるのが常だ。<木遁>をただ単に移動の魔法と考えると、<土遁>の下位互換になりやすい。

<木遁>が真価を発揮するのは、<土遁>で逃げる者を追跡するような状況。()(ぎょう)(そう)(こく)は<五遁>の間でも適用されるので、2人の者がそれぞれ<木遁>と<土遁>を使用して競争した場合は前者が有利である。




(なな)(じゅう)()(へん)()(じゅつ)



生物か無生物かを問わず、自分が姿を思い起こせるものならば何にでも変身できる。

正確には「見え方が変わる」だけで「形や性質が変化する」訳ではない。でなければ、虫に変身した瞬間に知能も虫と同程度になって二度と元に戻れないはずである。


()(つき)の思い出話:

「らん1回だけさ、(はる)()に向かって『あんたに変身してあんたの代わりに(かげ)(ろう)(こく)ったるで!』って言っちゃったことがあるんだ。そしたら晴日に思いっきり引っぱたかれてた。その日はちょっと気まずかったけど、らんもさすがに軽率すぎたって反省したみたい。次の日には2人の間で無かったことになってて、尾を引かずに済んだんだよねー」


挿絵(By みてみん)




(さん)(じゅう)(ろく)(へん)()(じゅつ)



<(おん)(みょう)(どう)>の変身する魔法には<三十六の変化の術>と<(なな)(じゅう)()(へん)()(じゅつ)>がある。

前者は習得が容易な分、化けられる対象の種類が少なく、再現性も弱い。

<三十六の変化の術>を習わないで一足飛びに<七十二の変化の術>を習得することも不可能ではないが、前者で要領を掴んでから後者を学んだ方が結果的に早くマスターできる場合も多い。らんはマイペースなので段階的に習得する方を選び、今ではどちらも使える。




(さん)(まい)()(がん)



目から光を放って暗い場所を照らす。


らんのひと言:

「目ビームとかコーヒーのCMかい! 却下ぁ!!」




(さん)(まい)(しん)()



水では消せない火を起こして相手を焼く。


らんの実験レポート:

「水で消火できんかったら、山とか森で使(つこ)うたら大惨事になりそうやんか。たぶん大丈夫やわ。<三昧真火>に直接当たったものはもちろん焦げるけど、何回試しても紙とか木の枝にすら燃え移らん。どうも直火で『焼損する』ことはできるけど、点火して『燃焼させる』ことはようせんみたい。……で、ウチ思うてん。『<三昧真火>ってホンマに火ぃなん?』って。だって、そもそも水かけても燃え続けるっちゅうことは、酸素()うてもOKってことやん」


()(つき)のここだけの話:

「本来は、さ。<三昧真火>って口から火を吐く魔法だったんだ。でも、おばーちゃんが()(おうぎ)であおいで火を起こすスタイルに変えたんだ。おばーちゃんはそんなに見た目を気にする人じゃなかったけど、口から火を吐くのはさすがにNGだったみたいでさ。だってそれ、怪獣じゃん」




(さん)(まい)(しん)(すい)(ほう)



何もない場所に大量の水を出現させる。見渡す限りの広野を海に変えてしまうくらいの水量を操れるが、それを叩き付けるようなことはできないので、相手が水そのものに弱い場合を除き、攻撃手段とはならない。




(せっ)(ぽう)



砂や小石を巻き上げるような強風を吹かせる。攻撃技ではなく、砂粒が目に入るくらいの被害しかもたらさない。正常な危機管理能力のある人ならば「逃げなければ危険だ」と判断するくらいの異常現象ではあり、そうやってもぬけの殻となった場所で盗みを働くのが本来の使い道。さしあたりらんがこの魔法を使う機会はない。




(しん)(こう)(てい)(がん)



正体を隠している者の本当の姿が見える。




(しん)(こう)(ほう)



移動用の魔法の中でも最も正攻法なもの。速く走れるようにする術。

1日に約400キロメートル進めるといわれる。1日のうち8時間しか移動に当てなかったと好意的に解釈しても、時速50キロメートル程度である。単純に走るよりは遥かに速いが、乗り物のある現代では少々物足りない。

他人にかけて強制的に走り続けさせるという使い方もあるにはあるが、これでできることと言えばせいぜいイタズラである。さしあたりらんは、移動には<()(とん)>や<(こう)(とん)>を好んで用いる。




(しん)(がい)(しん)(ほう)



ひと言で言えば分身の術だが、<()(とん)>と同じく派生技の多い非常に便利な魔法である。

分身を作る材料として自分の体の一部が必要。民間伝承では体毛を用いることが多いが、自分の舌の先を噛んで出血させ、その血を吹きかけて術を使った、という例もある。らんが魔法のために大切な髪の毛を抜いたり、自然に抜けた髪の毛を常日ごろ保管したりするはずがなく、らんは血を利用している。

術の使用者自身以外の者の姿をした分身を作ることもできる。その場合でも材料は自分の体の一部でよい。さらに、分身は独立した意思で行動し、簡単な言葉ならば喋ることもできる。もちろん体の一部であるため本人に背くことはない。

幻術ではなく、分身には実体がある。自分の代わりに戦わせることもできるが、強さは微々たるもの。重い物を運ぶなどといった、マンパワーが必要な作業にこそ真価を発揮する。


らんの自白:

(はる)()()(つき)に10割増しで盛られる前にウチから()うとくわ。<身外身の法>って、<(おん)(みょう)(どう)>の魔法の中でも屈指の鬼畜スペックやと思う。あれだけは絶対チートやわ。強いて弱点を挙げたら、舌噛んだら口内炎できやすなることくらいか」




(じゅう)(ぜつ)(じん)



<(てん)(ぜつ)(じん)>、<(ふう)(こう)(じん)>、<(れつ)(えん)(じん)>、<()(れつ)(じん)>、<()(けつ)(じん)>、<(こう)()(じん)>、<(らく)(こん)(じん)>、<(きん)(こう)(じん)>、<(こう)(すい)(じん)>、<(かん)(ぴょう)(じん)>の総称。

任意の空間的範囲を、雷や低温といった特定の自然現象が発生するある種の魔法陣に変貌させる魔法。

広範囲に影響が及び、威力も絶大。さらに、いったん敷設してしまえば陣内部では使用者の意思に即座に反応して火や雷が起こり、進入者を攻撃できる点が強味。

弱点として、相手が内部に踏み込まなければ効力を発揮しないことと、大掛かりな魔法であるがゆえ陣の展開に時間がかかることが挙げられる。SSSでは<(おん)(みょう)(どう)>や<宿(すく)(よう)(どう)>など各種の魔道が持つ事象の予測に関する魔法を総動員して式神の通過する日時と場所を絞り込むので、この点は問題になりにくい。らんには関係のない話だが、例えば冒険者として常に移動しながら敵の襲撃に備えるような立場の者にとっては、<十絶陣>は全くの無用の長物と化す。

より大きな問題点として、<十絶陣>は確かに強力ではあるが、対策を立てられると脆いという事実がある。中国の民間伝承においても、(こん)(ろん)(さん)で修行を積んだ高位の仙人さえ立ち入ることを躊躇したが、最終的には下級の仙人を送り込んで陣の仕組みを観察し(偵察を命じられた者は全員死んだ)、万全のメタを装備した上で真打ちが陣を破る、というやり方で全て攻略されたという。

こちらに関しては日本<陰陽道>では対策がとられている。<十絶陣>で起こる自然現象は全て(もく)()()(ごん)(すい)()(ぎょう)のいずれかに属する。そしてこれらの五行の気は八方位を移り変わるという性質がある。らんは自身のいる場所とその周囲8方向に全ての<十絶陣>を一度に展開し、五行の循環を利用して陣の配置を入れ替える。これによって、常に相手に対して有利な陣で戦うことが可能になった。


らんの自虐:

「弱点突かれたら即ゲームオーバーってのもあんまりやけどさ、他の陣とシャッフルしてカバーしようっちゅう発想もなかなか強引やわな。日本の<陰陽道>ってこうゆう『魔改造』けっこうあるからな……。ま、ラーメンみたいなモンか」




(そう)(しん)(ほう)


自分の体が小さくなる。縄などで縛られた時に逃げ出すのが本来の使い方。




(すい)(とん)



<()(とん)>の一。

水に同化して進むため、<()(とん)>並みに汎用性が高い。単なる移動の魔法としては、<水遁>と<土遁>の2つで足りる、と言っても過言でないほどである。


らんの実験レポート:

「空気中の水分に対して<水遁>できるかって? 試してみたよ。冬は無理。梅雨ならできたけど、ウチが外、出たない。……雨女なんやって。いちいち言わせんといて!」




()(しょう)(じん)



中には煙が充満しており、それらが間断なく渦巻いたり流れたりして移ろい続け、見ているうちに催眠術がかかったような状態になるというもの。早い話が、「乗り物酔いさせる魔法」。


()(つき)の思い出話:

「らん1回だけ<四象陣>使ったことがあるよ。でも自分がいちばん酔っちゃってさ、それはもう無残な姿で、翌朝まで引きずってた。『もうこんな陣、二度と敷かん!!』だってさ! らんって実は、乗り物酔いしやすいんだ」




(しゅく)()(ほう)



あたかも縮尺の小さな地図の上を移動するかのように長距離を一気に飛び越える。要するにワープの魔法。発動するのに多少の時間がかかるので、戦いに応用する現実味は乏しい。




(たい)(きょく)(じん)



民間伝承によれば、<太極陣>に進入した者の周囲に黒い壁が出現し、それらがあらゆる方向から迫ってきて進入者を押し潰すという。伝えられた当時の語()では起こっている事象をこれ以上正確に表現できないだけで、あたかもブラックホールの中心のような環境を再現する魔法である。




(とう)(うん)



典型的な「雲に乗って空を飛ぶ魔法」。1日で世界一周できるくらいのスピードが出るといわれる。

似たような魔法に<()(うん)>と、現代の日本でも非常に有名な<(きん)()(うん)>がある。どちらも使うためにはバク転をする必要があり(らんはバク転ができない)、速さ・航続距離ともに<騰雲>には遠く及ばないので、らんはこれらの技を習得していない。


らんの突っ込み:

「深く考えもせんと『ふーん』って納得したらアカンで。1日で世界一周って、控えめに()うてもマッハ1以上やんけ。フツーに考えて、風圧で飛ばされて雲から落ちる。最低でも髪、乱れる。まあ実際にはそうなってへんねんけど、とどのつまり『魔法やから』やな」




(てん)(ぜつ)(じん)



<(じゅう)(ぜつ)(じん)>の第一。

シンプルに雷で攻撃する陣。

周囲を8つの区画に区切った場合、できるスペースはらんのいる中央を含めても9つ。<十絶陣>を全て配置しようと思うと、1か所足りない。<天絶陣>には、常に他の9つの陣のうちいずれかと重なって移動し、同居する陣を時々刻々と変えていくという性質がある。これによってスペースの問題は解消されたが、<天絶陣>内には高確率で木以外の五行の気も存在することになり、若干扱いにくくなった。


らんの悩み:

「ホンマは<十絶陣>のうち<(らく)(こん)(じん)>だけクビにして、他の9つの陣を回すようにしたいんやけど、どうも無理っぽいわ。<落魂陣>だけどうも好きになれへん。何かウチまで寿命縮みそうな気ぃする」




(たい)(しん)(ほう)



一種の幻術。

自分の分身を作り出し、気付かれずにそれと入れ替わるという魔法。敵に捕らえられて脱出する時に使用する。

分身は幻でありながら、触れば触感があり体温も感じられる。また本物さながらに喋る。入れ替わった使用者が遠くまで逃げおおせても効果が持続し、分身を殺せば死体も残る。そのため使用者と次に出会うまで、相手は幻術で逃げられたことに気付かない場合がほとんど。


らんのコメント:

「<替身法>ってウチにはものすごい精巧な魔法に思えるんやけど、中国やと『子供だましの幻術』っちゅう位置付けなんやって。何でやろね。確かに習得するのも使うのもラクやし、頭のてっぺんに(はり)打たれたらようせんくなるんやけど……。捕まった段階で鍼刺される前にとっとと<替身法>使(つこ)うて逃げたらええだけなんとちゃうん? そもそもウチが<替身法>できるってこと知ってへんヤツは対策のしようもないやん」




()(とん)



<()(とん)>の一。

現代の乗り物を遥かに上回るスピードを出せる。中国の民間伝承に、<土遁>を用いておよそ200キロメートルの距離を()()()()()()()通り抜けた、という話がある。




(しゅう)()(けん)(こん)(ほう)



相手を小さくして袖の中に吸い込む。

元々の大きさに関係なく捕まえることができ、同時に複数人を対象にとることも可。

袖に包み込んでいる間は敵を無力化することができるが、いつまでも入れたままにはしておけない。どのくらいの時間、効力が持続するのかは不明。




(ばん)(せん)(じん)



陣の中に宇宙そのものを再現し、この世で生起するおよそあらゆる事象を意のままに操ることができる。

どれだけ無理をしても、陣を維持するためには30人を超える魔法使いが必要。


らんの自虐:

「覚えたはええけど(リソ)(ース)足りへんくて使いモンにならん魔法なんて、ゲームやと一種のネタやん。<(おん)(みょう)(どう)>やとそういう魔法フツーにあるからなぁ……」




(おん)(こう)(じん)



陣の中には黒い霧が立ち込めていて、その霧を吸うと疫病に感染する。

らんは使ったことがない。毒や病気のような遅効性の魔法を使うよりも素直に攻撃した方が安全だし、それ以前に、自分の方にも多少は病原体が飛んできているのではないかという不安を内心払拭できていない。




()(とん)



<(もく)(とん)>、<()(とん)>、<()(とん)>、<(きん)(とん)>、<(すい)(とん)>の総称。

<(おん)(みょう)(どう)>の母体となった中国の魔道では基本的な魔法に位置付けられる。本来は移動や逃走のための魔法だが、多くの魔法使いが使用するうちに、様々な派生技が開発された。習得が容易な上に応用も効く、非常に優れた魔法である。

<五遁>は(もく)()()(ごん)(すい)()(ぎょう)のいずれかと同化して、その五行が連続して存在する範囲を素早く移動する魔法。例えば<水遁>を使えば船がなくても川や海を渡ることができる。

使用者以外の人間を対象に含めることも、他人だけを移送することもできる。中国の民間伝承では、<土遁>で数百人の人間をいちどに運んだという記録がある。敵に<土遁>をかけて地底へ、あるいは<水遁>をかけて深海へ引きずり込むことも可能で、後者については実例がある。相手が海底に到達した時点で<水遁>を解いて水との同化を切ればたちまち水圧により押し潰されるわけで、このように敵の強制排除や殺傷といったより攻撃的な用法に関しても知識の蓄積がある。


(はる)()の毒舌:

「らんちゃん、いつもいつも私の<アストラ>のこと『チートや』、『チートや』ってはやし立てるけど、らんちゃんの<五遁>の方がよっっっぽどチートよ! 何人でも乗せて移動できるとか、相手だけ遠くへ飛ばすこともできるとか、何よそれ!? 言った者勝ちじゃない、もうっ!!」




()(らい)



5条の稲妻を飛ばす。

威力は<(おん)(みょう)(どう)>の魔法の中でも特に低い部類だが、生身の人間の命を奪うには十分。手のひらを相手へ向けただけで放つことができ、気軽に使えるのが利点。




()(らい)(けつ)



<()(らい)>や<(しょう)(しん)(らい)>と同様に雷の魔法。威力はそれらよりも上で、下級の式神程度ならば一撃で仕留めることができる。




()(らい)(てん)(こう)(ほう)



黄金の甲冑に身を包んだ戦士を召喚し、敵と戦わせる。この戦士はただの人ではなく、一種の式神である。

非常に高度な魔法で、らんにも毎回成功させる自信はない。




()(らい)(せい)(ほう)



<()(らい)>などと同じく雷の魔法。<()(らい)(けつ)>よりもさらに規模が上がり、上空を稲光が駆け巡る。




(いん)(しん)()



不可視にする模様。対象者の肌に指でこの記号を描くと、その者の姿が見えなくなる。

墨やインクで書き付ける訳ではないので、服との擦れや汗などで文字が消えてしまって効力も失われる、などという心配はない。


(はる)()の被害妄想:

「らんちゃん、<隠身符>を書くとき決まって鎖骨と鎖骨の間くらいに指で直接触れるんだけど、どんどん手付きがヤらしくなってる気がするの。この前はくすぐったくって声、裏返っちゃったし。()(つき)ちゃんなんて、書いてもらってる間ずっと目も脇も手も閉じてギューって力入れてるのよ。ぜったいらんちゃんワザとやってるわ!」




(おん)(しん)(じゅつ)



使用者を不可視にする。

同じく姿を消す魔法に<(いん)(しん)()>がある。<隠身の術>は自分自身に、<隠身符>は味方に対して使うのに適する。前者はそもそも他人にかけることができない。後者は肌に記号を描くことで効果を生ずるので、散髪と同じでセルフではやりにくい。


らんの突っ込み:

「<隠身の術>も<隠身符>も、間(ちご)うても透明人間にする魔法やないで。もしホンマに透明になったら、光が網膜を突き抜けて(なん)も見えへんくなるやろからな。『じゃあ何なん?』って訊かれたら、『他人の目に映らへんようにする魔法』としかよう説明せんけど」




()(ざん)(じゅつ)



敵の真上に山を移動させて押し潰す。相手の上空に誘導してそのまま落とすという使い方もできるし、最初から相手の上に乗っかった状態で突如出現させることも可能。


らんのコメント:

「この魔法、強力やけど正直()うて使いモンにならん。(なん)もないところから山を創り出すんやのうて、どっか他の場所にある山を飛ばしてくるだけねん。……生態系ぶっ壊れるわ!!」




(しょう)(しん)(らい)



<()(らい)>と同じく手のひらから電撃を放つ。手軽さは<五雷>と変わらず、威力はやや高めなので使いやすい。




()()(せい)(こう)



文字通り、指さした地面が鋼鉄のように硬くなるという魔法。

<(おん)(みょう)(どう)>には<()(こう)(じゅつ)>という、地面の中を進む魔法がある。<指地成鋼>は沿革的には、専ら<地行術>に対するメタ。<地行術>では硬い岩盤を進めないので、<指地成鋼>で地面を硬化されるとそれ以上先へ行けない。周囲の土を全て硬くされたら完全に身動きがとれなくなり一巻の終わりである。

対<地行術>を想定しなくても、<指地成鋼>の使い道は十分に見出せる。厚さ数十センチメートルにかけての土を鋼鉄並みの強度にすれば突破することは非常に困難な訳で、もしも地中を掘り進むような生き物が相手ならばそれなりに有効である。らんには関係のない話だが、塹壕に対して使えば軍事的には相当厄介だろう。




(じゅう)(しん)(ほう)



自分の重量を増加させる。民間伝承によれば約600キログラムという。

自分が相手の上に乗っている時に使って押し潰すという使用法を念頭に編み出された魔法だが、どちらかというと自分がさらわれるのを防ぐという使い方の方が適している。


らんのひと言:

「体重増やす魔法ら使う訳ないやん!!」


挿絵(By みてみん)




(ちゅう)(せん)(じん)



絶えず雷鳴が響き渡り、その空気の震動だけで相手の首を切断するという陣。

らんの使える陣タイプの魔法の中でも特に大掛かりなもので、敷設するだけで数時間を要する。遊びたい盛りのらんにとって、実用性のかけらもない魔法。




(しょう)()(きん)(こう)(ほう)



移動用の魔法の1つ。

仰々しい名前が付いており、習得も難しいと言われるが、性能は明らかに<()(とん)>に劣る。

移動速度は1日に500キロメートルほど。1日のうち8時間しか移動に当てなかったと好意的に解釈しても、時速60キロメートル程度である。()()()()()()()200キロメートル進むといわれる<()(とん)>の方が遥かに速い。

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