第3話
タケル君は管理人室の受付を後にし、エレベーターに乗りました。
ところが『Rのボタン』が見つかりません。
「ナンデモ君、『Rのボタン』がない。どうしよう」
タケル君はスマホに話しかけます。
「パラレルワールドのこっちの世界線では『Rのボタン』はないんだ。まず30階に上って。ドアが開いたら左に進むんだ。そうすると非常階段が見えてくる。それを上ると屋上はすぐだよ」
タケル君は言われたとおり、まず30階に行き、非常階段を使って屋上に上りました。
屋上に着くとベンチにタワマンの神さまがすわっていました。
タケル君は神さまのとなりにすわりました。
「冒険は楽しかったかな」
神さまは言いました。
「早く、ぼくをもとの世界に帰して」
「そうじゃったな。じゃあ、スマホを貸してくれ」
タケル君はスマホを神さまに渡しました。
神さまはスマホをいじくりました。
「これを見てごらん」
神さまはスマホの画面をタケル君に見せました。
黄色と赤の渦巻き模様がはげしく回転しています。
それを見ていると、タケル君は次第に眠くなってきました。
気がつくとタケル君は屋上のべンチで一人で寝ていました。
タワマンの神さまの姿はどこにもありません。
あたりはうす暗く、もう夕方でした。
すべては夢だったのかもしれません。タケル君はそう思いました。
タケル君は立ち上がり、エレベーターで20階に戻りました。
タケル君のおうちの2011号室につくと、ドアホンを押してみました。
すぐにドアが開き、ママが出ました。
「まあ、タケルじゃない。こんな時間までどこ行ってたの。タケルがいなくなっちゃたんで、ママも心配してたのよ」
「ママ、こわかったよ」
タケル君は思わずママに抱きつき、泣き出しました。
「タワマンの中を歩いたんで迷子になったんでしょう。ここのタワマン広いからね」
ママはタケル君をリビングダイニングにつてれいきました。もう夕飯の用意はできていました。
その日の夜、タケル君が子供部屋でねまきにきがえていると着信音が鳴りました。
音がしているのはポケットからです。
ポケットに入れっぱなしのスマホから音が鳴っていました。
タケル君はスマホの電話に出てみました。
「タケル君、無事に帰れたかな」
その声はタワマンの神さまでした。
「うん、帰れたよ」
「そうか、それはよかった。もう『Rのボタン』はおとなになるまで押してはいけないよ」
「わかったよ」
電話はそこで切れました。
今日起きたことは夢ではなかったのです。
タケル君はスマホの画面の左上にある”AIナンデモ君”のアプリアイコンをタップしてみました。
すると「バージョンアップ中」というメッセージが表示されました。
やがてアプリアイコンのデザインが変わり、画面には女の子のアニメが表示されました。
「こんにちは、タケル君。あたしのことはナンデモちゃんと呼んでね」
「あれ、女の子になっちゃったの」
「パラレルワールドのこっちの世界線では、あたしは女の子のキャラなの」
「そうなんだ」
「ところでここのタワマン、実はファンタジーワールドなのよ。タケル君が知らない、いろんな冒険や謎がたくさんあるんだから。今度、またいっしょに冒険の旅をたのしみましょうね」
タケル君はアプリを終了し、ベッドに体を投げ出しました。
まだまだこのタワマンには不思議なことがいっぱいあるんだ。
そう思うとわくわくしてきます。
明日はどんな冒険が待っているんだろう。
タケル君は部屋の明かりを消し、目をとじました。
(了)