33.頭を垂れたオーガ
オーガの国は、闘争に強いものほど尊敬される文化だ。魔力にこそ乏しいが、「鬼力」という生命エネルギーを体内に循環させ、強靭な身体能力と、防御力、生命力を誇る。その中でも特に勇敢で多くの武功を立てたものは「オーガの勇者」として国の要職につくこととなる。
現在、オーガの勇者として外交を担当しているジャイアンは、理知的な人物だが、平和な日々にうんざりしつつあった。他種族と殺し合いがしたいわけではないが、オーガ族は強力な個体ほど闘争本能が強く、生命の危険のない穏やかな生活が続くと、どうにも腹落ちが悪くなるのだ。過去には、ジャイアンの先祖の勇者が、悪魔にその隙を突かれ取り憑かれてしまったという逸話もある。
そういった事態を防ぐために「適度な刺激」として、ヒューマン国との会合にて彼は一計を案じることにした。
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どうも、シンデレラです。
今回は、オーガの国に対して、ヒューマンの国がお願いに来た立場です。今度、ヒューマンの国で大規模な土木工事があるので、それに関して力持ちのオーガさん達の協力を得たいという依頼できました。
「お金とか食料とか渡すから、皆で出稼ぎに来てよ―」って感じです。まあ、過去の前例があるし多分受けてくれるけど、その賃金をどれくらいにするかで交渉に来た感じだ。ウィン―ウィンの交渉になるように頑張ろう。
「シンデレラ殿、オーガは弱きものの下で働くのは苦痛だ。逆に強きものの下なら多少条件が悪くとも喜んで働こう。貴殿が外務大臣なら、ヒューマンの国の代表としてその力を示されよ。」
「わかりましたわ。ただ、力にもいろんな種類があると思うのですが」
「われわれの文化で尊敬されるのは個人の持つ純粋な力だ。一例として、この胸の傷を見てほしい」
そういってジャイアンがマントを脱ぐと、胸には禍々しい傷跡があった
「これは呪いの魔力を持つカースドラゴンとの死闘でできたものだ。かの暗黒竜を倒し、吾輩はオーガの英雄となった。いまだにわが身の一部は呪われており、身体を蝕もうする呪いと身体を治癒させるオーガの生命力がせめぎ合っている。ここまでとはいかないだろうが、貴殿にも私を驚かせる力を見せてほしい。なに、こちらからは手を出さんので存分にやってみられよ。」
これがジャイアンの案であった。
まず、ヒューマンの大臣に、自分を思う存分攻撃させる。
歴史上、ヒューマン国の大臣は文武両道の者が多かった。魔力をまとった重い打撃を繰り出すことが期待できる。相手は戦闘とスペシャリストではないため、それはあくまで「それなりのレベル」に留まるが両国の国益のかかった真剣勝負だ。オーガの英雄である自分はそれを捌くことで模擬戦とし闘争本能を満足させる。終了後に「弱い相手に安く雇われるわけにはいかない」と言って賃金交渉をオーガの国に有利にすすめることもできるから一石二鳥。そんなプランだった。
まあ、今回、ヒューマンの国の外務大臣は少女だったのは少々誤算で、闘争本能を満足させるには問題があるかもしれないが。ある程度魔力にも精通していて歯ごたえのある攻撃をしてくれることを願う。
そんなことを考えていて、また魔力には精通していないジャイアントは見誤っていた。シンデレラが、史上でも稀の強大な魔力持ちで、その得意分野は純粋な身体強化ではないことを。
(うーん、仲良くなるために力を示すと言っても、殴るようなことはしたくないわよね。そもそも私、か弱い女だし。なら、魔力で胸の傷の痛みを癒してあげるのはどうかしら。あまり才能はないみたいだけど、治癒魔術って素敵だと思って、今でも独学でこつこつ勉強を続けているのよね。)
そんなことを思い、シンデレラは笑顔で無防備にジャイアントに近づく。
一切の敵意のみえない様子に、ジャイアントは懐に潜り込まれたことに一瞬気づかなかった。そこで、シンデレラはジャイアントの胸の傷に手を当てると、全力で癒しの魔力を叩き込んだ。
(掌に魔力を集中、傷に向けて一点集中!治癒の魔力を一気に注入!)
「ごえふぁ!?」
急に叩き込まれたあまりにも膨大な魔力に、ジャイアントは両膝をついた。そのままうずくまって震える。そして、襲い掛かってくる激痛に耐えながら「鬼力」で体の状態を確認すると……身体の、蝕む呪いを受けていた部分が、ごっそりと崩れていた。シンデレラが注いだのは癒しの魔力のため、鬼力の防御を無抵抗に突破していた。そして、過剰な薬は毒となる。莫大な生体活性エネルギーを一気に叩き込まれたことで、免疫系が暴走し、細胞も限界を迎えたことでジャイアンは身体の一部が崩壊したのだ。
一方は平然と立ち、もう一方は激痛に膝をつき首を垂れる。闘争の結果を海抜から見た頭の高さで決めるのであれば、これは紛れもない「決着」であった。激痛による混乱なかジャイアンは思った、この女は、破壊や崩壊に準ずる、何か恐ろしい魔力を持っていると。そして鬼力のガードをたやすく突破し、オーガの英雄である自分に一撃で致命傷を与える力を持っていると。模擬戦闘で闘争本能を満足させるなどとんでもない。この女はカースドラゴンなど足元に及ばない程、強大で恐ろしい相手だ。ここで負けを認めなければ殺されるかもしれない。
「ま、まいった……ヒューマンの国の力を認める。そちらに都合の良い条件で働こう。」
息もたえだえにそういうジャイアンを見て
(えー!なんか、傷を治したらわざと倒れてくれた!?逆に痛がる演技までして力を認めるなんて言ってくれて……まごころって伝わるのね。)
なんてことをシンデレラは思って笑顔になっていた。
純粋な笑顔なのだが、表情作るのが下手なので、ものすごく悪そうな笑顔になっていた
そばにいた両国の補佐官はそんな彼女を見てドン引きだった。
ちなみに、ジャイアンはしばらく悶絶していたが、身体の蝕む呪いを受けていた部分がごっそり崩れたことでその後は体調がよくなった。また、生命の危機に瀕したことで闘争本能も満足し、すっきりしたという。
ただ、それはそれとして「ヒューマン国の代表は、オーガの勇者を一撃で殺しかけた」という噂が流れ、オーガの国民のシンデレラに対する畏怖は強く残るのだった。




