23.ゴッドマザー
入学して半年程たった。
休日の昼下がり、シンデレラはアーノルドや、忠誠心溢れる取り巻きーー陰では『舎弟の鏡』と言われているーーと街に遊びに出ていた。
ちなみにシンデレラは、彼らのことを親切な友人達だと思っている。一方で、アーノルドは恐怖からシンデレラに従っており、舎弟の鏡はシンデレラのことを「つまらない現状を破壊する悪魔の生まれ変わり」として崇拝している。
三者の間には認識のギャップがあった。
(あー、日差しが眩しいわ。もうすっかり夏ね)
夏の日差しの強さに顔を顰めるシンデレラ
その顔の先には、明らかにガラの悪い男達がいた
「お、おいシンデレラさんが、ガラの悪い連中に凄いガンつけてるぞ」
「さすがシンデレラさん!本職相手にもお構いなしだー!」
アーノルドと舎弟の鏡がそんなことを言うが、日差しに気を取られたシンデレラは聞いていない。と、そこでシンデレラに因縁をつけられていると思ったのか、その筋のものと思われる、ガラの悪い男達のリーダーと思わしき男が話しかけてきた。
「おい、何睨んで……と、あ、あなたは……」
「あら、お久しぶりね。5年ぶりくらいかしら?その後、サプライズは上手く行った?気になっていたのよ」
((お、おい、どういうことだ。二人は知り合いみたいだぞ。))
((流石シンデレラさん、悪そうな奴は大体友達だー!))
シンデレラをみて動揺するガラの悪い男達
一方、嬉々として話しかけるシンデレラ
事態が呑み込めないアーノルドや取り巻きをおいて二人の間で会話がすすむ。その後、「ここで話しづらい、積もる話もあるでしょうから」というガラの悪い男の提案で、3人は彼らのアジトに招待されるのだった。
☆☆☆
彼らのアジトは、メインストリートから離れた、ジメジメした暗い路地裏にあった。
「シ、シンデレラさん......その節は大変お世話になりました。その後、直接のご挨拶もできず申し訳ありません。」
「いいえ、いつもお花とお便りありがとうございます。楽しく読ませてもらっていますわ」
「ところで.....失礼ですが、後ろのお二人とのご関係は......」
「学園の友人です、隠し事なく色々とお話できるくらい親密な、ね」
シンデレラに、震えながら挨拶する側の悪い男たちのリーダー。彼の名前はモルガンという。彼は特殊な「目」を持っていた。相手の包括魔力量、すなわち大まかな戦闘力を測ることのできる目だ。この目を活用して彼は裏世界を生きぬいてきた。そんな彼がシンデレラに初めて会ったのは5年前、金に困った移民だった彼らが、ギャングの下請けとして、治安改善事業にこっそり寄付を行っていたシンデレラを誘拐した時だ。
彼は、脅しで出した豚の頭と内臓を嬉々として完食したというシンデレラを一目見て、震えた。
なんだこの魔力量は、化け物か?
闘ったら間違いなく殺されるぞ、と。
しかも、以前に見た人相書きの記憶が正しければ、彼女は貴族の娘だった。
戦っても殺される。万一逃げられても、貴族の娘を誘拐したとバレれば、すぐに衛兵たちに捕まって殺される。どちらにせよ、詰みだ。それで、自分たちは下請けで、ただ雇われた身だ、何とか見逃してほしい、という旨の言い訳をした。
そんな彼に、当時のシンデレラはこう言ったのだ。
『そう、ならこのお金を全部使っていいから、今度は貴方達の雇用主を驚かせて上げて頂戴。これだけあれば、鳴物や光り物も買えるでしょ。出来るだけ派手にやってくれると嬉しいわ。それと、やる時は貴方達が主催者と言うことにしておいて、私の名前は伏せてお願いね。』
地獄にたらされた、糸だと思った。ちなみに登れなかったときのことは恐ろしくて考えられない。その後モルガンは、移民の仲間と武器を集めて、雇い主であった地元のギャングを壊滅させた。その後、他のギャングとの抗争もなんとか制し、武闘派のギャングとして一角の勢力になった。
それ以来、シンデレラには定期的にお礼の便りと花を送っている。もちろん、万に一つも、ギャングである自分たちのつながりがバレてはいけない。そこで、『移民を対象にした慈善事業への寄付でお世話になった者です、現在は仲間たちと警部関係の仕事をはじめました』などと、本業である暴力団の内容をにおわせるような、嘘の報告を書いた。
ちなみに、シンデレラは手紙の内容を100%信じており、彼らのことを律儀な民間警備会社の人たちと認識している。
((さっきから、男達がシンデレラさんにビビってるぞ))
((流石シンデレラさん!ギャングを陰から支配しているんだ!))
モルガンと取り巻きの鏡は、二人の様子を見て関係を誤解した。
すなわち、このギャングの元締めは、シンデレラなのだと。
「ところで、シンデレラさん。私たちはこの町に新しいビジネスの下見に来ているんですよ」
「へぇー。商売、うまくいってるんですね。」
「それで、つかぬ事をお聞きしますが……麻薬の売買って、どう思います?」
「え、絶対だめよそんなの。どうしたの急に?」
(あっぶねー、地雷踏むところだった!)
モルガンは思った。今まで、武闘派として用心棒や荒事解決で細々と稼いできたが、最近、彼らの戦闘力に目を付けた別組織から、最近帝都で出回っている麻薬の売買に一枚かんで大きく稼がないかと話があった。それで、話を受けようとこの町で下準備中だったのだ。しかし、彼らが一番恐れるシンデレラは麻薬の売買は好きではないという。
「で、ですよねー。麻薬、だめ、絶対、ですよねー.....ところで、シンデレラさんは麻薬ってどんなところがダメと思います?」
「中毒性と正常な判断力を奪うことじゃないかしら。最近帝都で出回っているという麻薬は特に、痛みや恐怖まで取り去ってしまうほど強力だというし。」
最近、学院で受け麻薬に関する注意喚起を思い出し話すシンデレラ。
そして、話しながら、実は別のことも考えていた
(この部屋、湿気がすごい……一応朝、しっかり髪はとかしてきたんだけど、大丈夫かしら?私、すごい、くせっ毛なのよねー)
乙女として、髪の毛が爆発した姿なんて恥ずかしくて見られたくないとソワソワしていた。
結果、無意識に指でテーブルをノックしはじめ、その様をみた周囲は思った。
「お、おい。なんかシンデレラさん、イライラしてないか」
「人を恐怖に陥れることが大好きなシンデレラさんは、恐怖を取り去る薬物の流通が許せないんだ!」
だから、後ろでアーノルド達がこそこそ話している内容も聞いていなかった
だが、モルガンはばっちり聞いていた
(そうだったのか......)
しかし、どうしようかとモルガンは迷った。
既に大手のマフィアとの話は進んでいる。おじゃんにするのは命がけになるだろう。
と、そこで、湿気にまけたシンデレラの髪が、ぶわっと逆立った。
((シンデレラさんが怒髪天をついたー!!))
麻薬の話題と髪の毛のことで気を張った様子のシンデレラの様子が重なり、周囲にはそう見えた
そして、そのタイミングでシンデレラは言った。
「違法薬物なんて、この世からなくなってしまえばいいのに......ねえ、モルガンさんもそう思わない?」
「は、はい......そう、おもいます......」
モルガンは、思った。
命がけ?それがなんだ。薬物を元締めから根絶やしに出来なければ、自分たちは確実にこの世からいなくなる。というかそもそも、今まで特にあちらから接触のなかったシンデレラが、今日このタイミングで接触してきたのだって、事情をを把握していて、「麻薬の元締めをぶっつぶせ」と命令しに来たのに違いない。
それから数日後、マフィア同士の抗争により、最近流行している麻薬の元締めだった組織が、武闘派マフィアのカチコミにより壊滅した。
その嬉しいニュースと、実はそれにはシンデレラが関与していると言う噂が、帝都をにぎわせるのだった。




