18.入学初日(日中)
ヒューマン国学院のクラスはエスカレート式だ。たまに飛び級の編入や、退学で数人増減することはあるが、基本的にずーっと同じ面子で卒業までやっていく。故に、新学年の初めといえど特に盛り上がるようなことはない。
だというのに、五年生教室は朝からざわついていた
「それでは、5年生クラスとして新学期を始める……が、その前に飛び級で一人加わった彼女に自己紹介をしてもらおう。まあ、皆、先日の行事でよく知っているとおもうが……」
「本日からお世話になります。シンデレラ、メタル、デトロイトです。」
それが、この少女の存在である。先日、新入生代表としての演目において集団が暴徒化するように焚き付け、教会を破壊させた事件の張本人だ。ただ、事前に「魔力を使っても良いし多少無礼講でもOK」という教師からの言質があり、悪意を持って行われた証拠もなく、よってシンデレラが罰せられることはなかったのだが。
生徒たちも卒業後は必要とあれば人を扇動することもある立場だ。そしてそのための訓練も行っている。だからこそ思う。この少女のようにはできない、あれは人間技とは思えない、彼女はいったい何者なのだと。あの時自分たちも暴徒の一人だったが、あの時はまるで集団催眠にかかったようだった。そんな、楽器ひとつ、言葉一つで人を操ってしまえる少女が今から何を口にするのか。ざわめきは収まり、興味と、恐怖で生徒たちは固唾をのんで彼女の発する言葉をまっていた。シンデレラが口を開く。
「少し顔が怖いと言われることがありますが、実際は内気で小心者です。自分からはなかなか話しかけられないかも知れませんが、皆様、どうぞご容赦下さいね。」
(((うそつけ!自信ありすぎだろ!)))
生徒達は思った。一見謙虚のようで絶対の自信と帝王の貫禄のある自己紹介だと。
そう、そもそも、貴族社会はマウントを取り合う一面があるのだ。だから自己紹介は舐められないように、自分の長所や実績をアピールするのが普通だ。それをしないのは明らかに相手が格下の場合だけである。自分達など明らかな格下で、眼中にないと言う宣言だろう。その上で、「自分からなかなか話しかけられないかも」と言うのは明らかな親交の拒絶だ。貴族社会において下の者が上のものに気軽に話しかけられるわけがないのだから。
つまりシンデレラは、自分達を明らかな格下に見ており、貴様らと気安く交流するつもりは無いと宣言したのと同じだ。ただ、無理もないのかもしれない。自分達は先日、見事に彼女に集団でコントロールされてしまったのだから。
(話しかけようものなら、どんな目に遭わされるやら……)
実際はシンデレラに他意はない。言葉通りの意味で、謙虚に、集団に溶け込みたいと思っていっただけである。両者の間の認識のずれは大きい。休み時間、怯えた目でシンデレラを遠巻きにみる生徒達と、1人優雅に座っているようで、内心は話しかけてもらえずがっかりしているシンデレラの入学初日は、こうやって過ぎていくのだった。
ちなみにこの日以降、不毛なマウント合戦をしていた生徒たちは、シンデレラという絶対的な格上に目をつけられないよう大人いくなった。その結果クラスは以前よりも平穏になり生徒間の健全な絆は深まったという。




