17.入学式
ヒューマン国学院に隣接した教会の大聖堂の内陣、現在は身廊と幕で仕切られたその場所で、シンデレラは教師陣から受けた説明を思い出していた。
(「新入生代表として、できるだけ盛り上げて欲しいんだ。無礼講だから、聖堂だからって遠慮せず砕けた言葉を使ってもいいし、使えるなら魔力を使って演出してもいいよ」……だったわよね)
前世通っていた学校では吹奏楽部や軽音部がウエルカムコンサートをしてくれたが、早い話、その逆をしてくれということだろう。
(実は前世の軽音部ではギターを頑張ってたんだよね。この世界にギターがなくって焦ったけど、似たような弦楽器はあったし、ピックはフライドチキンの骨で代用できたし…まあ何とかなるでしょ!)
シンデレラがそんなことを思っているうちに、幕がひらいた。一段下に生徒が詰めかけている光景をみて、なんだか文化祭のステージみたいだなと思った。多少緊張するが、思った程ではない。前世の経験が生かせそうでちょっとうれしい。
あとは恥ずかしがらないことだ、人を楽しませるには、まず自分が楽しむ必要がある。
今は謙虚さを一旦捨てて、自信満々のアーティストの仮面を被る時なのだ。
さあショウタイムだ
「イ”エ”エ”--ァ”!!」
大声で叫んでギターをかき鳴らす。
「骨で全部の弦をいっぺんに弾くだって!? 斬新すぎて頭がまったく追いつかない!」
「すごいぃぃ! 全身がビリビリする~!もっと鳴らしてー!」
前列の観客を中心に大半の生徒は盛り上がってくれているようだ。よかったよかった。なじみのない演奏方法で驚かせてしまったのか、生徒の一人が椅子からひっくり返ってしまった様で心配したが、すぐ立ち上がってくれて一安心。
それでは、心と、まああまり素養はないようだけど、魔力もこめて歌います。どうぞお楽しみください。
我は地獄の大悪魔
殺せ殺せ神など殺せ
壊せ壊せ教会を壊せ
ちなみにジャンルはメタル系。
養護施設出身のアーティストがライブに招待してくれて、ギターまで寄付してくれて以来、彼女はメタル系のバンドが大好きだった。
初めは過激な歌詞にびっくりしてしまうことも多いが、表現方法が独特なだけで、内容は愛とか世界平和とかを歌っていたりする。ツンデレみたいなものだ。
たとえばロックが
『愛してるぜベイビー』なら
デスメタルは
『お前を頭から食っちゃうぜ お前を犯して食っちゃうぜぼえええぇぇ』
ブラックメタルだと
『教会を燃やす もはや神は存在しない 俺がイエスの喉を切り裂いてやった 愛する悪魔(お前)のために』
みたいな感じになる
今回、シンデレラも歌詞で「犯してやる」とか「世界を滅ぼす」とか「教会を燃やしてやる」とかいった過激なことを歌っているが、あくまで歌詞だけで、当然本当にそんな事は思っていない。聖堂で歌うから、前世で有名だった曲を、神様と世界平和に対して祈る感じにアレンジして歌っている。ほんとだよ?しらんけど。
それにしてもみんなノリが異常にいい。
前の生徒がヘッドバンギングしたすと会場中に広がっていく。
「暴動 暴動せよ 暴動 暴動せよ」
「「「「「うおおぉぉー!!!」」」」」
コール&レスポンスも完璧だ。
シンデレラ本人は気づいていないが、彼女は膨大な魔力と、それを無意識化でコントロールする圧倒的なセンスと、幼少期からの訓練により裏打ちされた極めて高い技量をもっている。そんな彼女が魔力を言葉にのせて歌うことは、人の感情や行動に大きな影響をあたえる力を持っていた。加えて場の雰囲気と、学園生活でたまっていた生徒たちのストレスに、シンデレラの強力な魔力が過激な歌詞と音楽に合わさって降り注いだ結果、一つの集団催眠状態が発生していた。
「殺せ殺せ神など殺せ」
そんな状態でこんなこと歌うものだから
「壊せ壊せすべてを壊せ」
演奏が終わったとき観衆は暴徒と化した。
(はわわー、盛り上がったのはいいけど、みんなちょっとやりすぎじゃない!?)
演奏後、タペストリーは千切れ、ステンドグラスは割れ、神を模した像が砕け、廃墟の様になった聖堂でシンデレラはそんなことを思っていた。ちなみに神像は破壊と再生の神を模したものである。この時から彼女には「破壊神を破壊した女」という二つ名がつくこととなる。
のちに学院中から魔界出身の悪魔と恐れらるシンデレラの学生生活は、こうして始まったのだった。
ちなみに、この大暴れはいいガス抜きになったらしい。結果的に、この直後から生徒のいじめや暴力といった非行行為はしばらくの間激減した。また、この事件をきっかけに、彼女のことを「シンデレラさんは、魔界出身の悪魔だー!」と崇拝する熱心な取り巻きもできたという。
吾輩はメタルに関して素人である、誤りや穴も多々あるだろうが、真実はどうあれ「登場人物であるシンデレラはそう理解していた」ということで、コメディとして楽しまれるとこを望む。
過度な批判や擁護は双方ともに慎み、仲良く苛烈にSATSUGAIし合うべきであろう、と筆者は提案しておく。




