14.入学試験 (裏)
シンデレラが試験会場を後にして数分後、試験官達は口角泡を飛ばして議論していた。
「あのシンデレラと言う子は別格だな、案の独創性、実現可能性……他の受験生達も優秀だったが1、人だけレベルが違うぞ」
「筆記試験もほぼ満点だったそうじゃないか」
「今まで飛び級は2学年が過去最高だったが、彼女なら3学年…いや、4学年飛び級でもいいくらいだ」
大体が、先程シンデレラの案に対する賞賛だ、手放しで褒めるものが大半である。
しかし、挙手して異なる意見を述べる者がいた。
「画期的な案ということには同意します。しかし、手放しで賞賛はしかねます。彼女は、あまりにも危険すぎる」
「メッサーラ君、君は経済学者だったね。どういった点からそう思ったのかな。私などは、話す彼女をみて人のいいお嬢さんだとしか思わなかったのだが。まあ、確かに見た目は凶悪そうで笑顔は少々怖かったが……案だって、敵国の立場も十分に考えたものだったじゃないか」
「そう、一見、聡明で人のいいお嬢さんの出した案にしか見えなかった。それが逆に恐ろしいのです。彼女が提案した『金利』という概念。分割払いの支払いが完了するまで年々かかっていくという金利……仮に『複利』としましょう、少し計算してみると、これがあまりにも、凶悪過ぎるのです。神の意志に反する、倫理的に許されない行為だとすら感じます」
それからメッサーラは簡単な式を書いて説明した。仮に賠償金が大金貨5000枚として、彼女が示したた20年、金利4パーセントのローンとした場合、返済総額は大金貨7200枚を超えることを。
「そ、そんなに賠償金額が膨れ上がるのか......4パーセントという響きに騙された!いやはや、『金利』というのは恐ろしいな。しかも彼女は、『文官じゃなく相手の王族の方にターゲットを絞って説明し合意してもらうのが大切』と言っていたな。君のような優れた学者が気付いた時には、もう手遅れにしようとしていたのか!」
「間違いないでしょう。仮に、毎年金が発掘され通貨価値が下がり、経済が成長するような世界があったとして、そこで家などを買うときなどは一考する価値があるかもしれませんが……通貨価値がこの数百年ほとんど変動していない我々の世界では、国を亡ぼす猛毒となり得ます」
まさに彼女はそんな世界の仕組みを参考にしたのだが、そして前世の人生経験の浅さから複利のえぐさもよくわかっていなかったのだが、それを知る者はこの場にいなかった。
「し、しかし、それは彼女も想定していなかったのではないか?今日問題を見て作った案のようだし。少なくとも相手国を無理に苦しめようとするようには見えなかったぞ。向こうが希望すれば繰り上げ返済できる契約にしてあげて欲しいとも言っていた。」
「いや、今日急に作った案にしては仕組みがうまく出来過ぎているような気がします。いつもこのような悪魔的なことを考えているのではないでしょうか。最も、ひらめきで作ったとしたら、そちらの方が恐ろしいですが。そして、”希望すれば繰り上げ返済可能”というのがまた悪魔的発想で......」
「ーーそうか、敵国の間で意見が分かれ大混乱が起きるというわけだ。多額の賠償金で国が先細るのは困る、一方で、繰り上げの資金捻出でインフラが手薄になれば暴動も起きかねん。選択肢を与えているようでどちらも地獄。しかも怒りの矛先は自国内の反対意見の者に向かうということか!」
試験管たちは顔を見合わせる。
良い案なのは間違いない。停戦合意の際にも活用できるだろう。しかし良いのだろうか
騙し打ちの様にこちらが一方的に得をするは。
混乱と憎悪と争いの火種をあちこちに残すような真似は。
人間種同士、いつか仲良くなれるという希望を放棄するような契約を結ばせることは。
試験管たちは、取扱注意の劇薬のような案をどう処理するか議論を続けながら、発案者である少女に恐怖を感じるのだった。




