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プロローグ 

楽しんで頂けるように願いつつ書きました。ハッピーエンドになるコメディなので、安心してお読み下さい。完結まで毎日、8時と20時に1日2話ずつ投稿、全41話

予定です。


なお、初日は拡大スペシャルとして6話投稿します

下記の時間に投稿予約しています

・8:00・11:00・13:00・18:00・20:00・22:00

 その日、ヒューマン国学院は早朝からざわついていた。


 広大なナロウ大陸では多種族がそれぞれ独自の国家を持つ。その中でエルフ国やオーガ国と並ぶ強国であるヒューマン国。その貴族の子息子女や優秀な市民を招集した学院は、小国の城にも匹敵する壮麗な建物で、国の威信を体現するかのような装飾で溢れている。


 併設された大教会が朝の鐘を鳴らす時刻、掃き清められた大聖堂には、抑えきれない好奇心を目に宿した学生たちが、続々と詰め掛けていた。その中でもひときわ目を引く赤髪の少女が、身廊の中でも最も見晴らしの良いスペースに歩みを進めていく。その姿を認めると、周囲の生徒が一斉に首を垂れた。


 「おはようございます、デボラ様」


 「おはよう」


 一目で上等とわかるドレスに身を包んだ赤髪の少女は、名をデボラといった。勝気な性格と、社交界で有利になる精神鑑査系の魔力が特徴の娘だ。この国の宰相の家系であり、齢十六にして帝国の薔薇と謳われる美姫でもある。彼女は、すましていれば美しい顔をしかめて、取り巻きの一人に声を掛けた。


 「まったく、たかだが新入生一人がそんなに気になるものかしら……まあ、史上初の4学年飛び級ですものね。きっと、特別な何かがあるに違いないわ。そうでなくて?」


 疑問の形を取りながらも、眉間にしわを寄せた表情は、「そんなはずがない」と物語っていた。いわゆる嫉妬であり、ルビーのような瞳には、剣呑な光が見え隠れしている。椅子に腰掛けたデボラは偉そうにふんぞりかえりながら続ける。


「伝統である新入生による余興……聞けば、彼女は弦楽器の弾き語りをするというじゃない。ほら、吟遊詩人がドキュメンタリー調でボロロンと爪弾くようなやつ。新参者が受け入れてもらうために神前で祭囃子を披露し、在校生を盛り上げるのが骨子の行事でそんな盛り上がりそうもない演目にするなんて、何を考えているのかしらね。」


「デボラ様のおっしゃる通りですわ」


「勉学はお得意でも人身掌握に優れているかは疑問だわ。どんな人物か確かめたいのは、帝国第一皇女にして下級学年長であるデボラさまからしたら当然ですわね」


 学院は十二の歳から入学を受け入れ、十六歳までの四学年を下級学年、十七歳から二十一歳までの四学年を上級学年として区分している。デボラは五年生――つまり下級学年の最上級生であり、この学院の低学年組織の実質的トップでもあった。



 「あら、幕が開きますわ……新入生代表のお出ましね」


 取り巻きの一人が声を上げる。同時に周囲が一斉にざわめく。何百という視線が、内陣にいる少女に向けられた。視線の種類は様々だ。期待を含んだもの、純粋な好奇心に彩られたもの、そして不快を宿すもの――


「ひぇ、なんだか迫力のある子ですわね」


「な、何でしょう、変わった形の弦楽器のほかに、右手に何か持っているようですわ」


 取り巻きが指差した方向で、ナイフのような少女が佇んでいた。目元は磨かれた刃物のように鋭利で、瞳孔は縦に割れている。遠目からもわかる輝く銀髪、陶器のような白い肌に吸血鬼のような犬歯、ドレスは闇のような黒色。少女の纏う、齢12の少女らしからぬ冷たく妖しい美しさに気おされ、会場が一瞬静まり返る。


少女は優美な仕草で周囲を見渡した後で、そっと右手を持ち上げる。

前列にいる観衆がざわめいた。


「お、おい、あの子が持っているのは骨じゃないか!」


「骨!?いったい何の?……というか何に使う気だ」


 あどけない新入生を想像していたら、まさかの、伝説にある吸血鬼ような少女と謎の骨の登場だ。前列の生徒たちからざわめきが上がる。デボラは優雅な笑みを続けようとするが、引き攣った笑い顔しかできなかった。



 次の瞬間


 「イ”エ”エ”ーーーァ!!」


 それまで泰然と、表情も変えずにいた檀上の美少女が、くわっと目を見開き突然叫び始めた。

そして、手に持った謎の骨を使って、変わった形をした弦楽器をジャカジャーンと鳴らし始めた。



(なにその雷のような斬新な演奏法はー!?)


 激しく重なった響きは、まるで地獄に落ちる稲妻のようだった。


 偉そうにふんぞり返っていたデボラは、驚きのあまりさらにのけぞった結果、椅子ごと盛大にひっくり返った。一方で、強烈な導入に前列の観衆たちは大いに沸いた。


「骨で全部の弦をいっぺんに弾くだって!? 斬新すぎる!」

「す、すごいぃぃ! 全身がビリビリする~!もっと鳴らしてー!」


 こうなれば楽しんだもの勝ちの雰囲気ができる。座っていた生徒たちは斬新な演出に興奮のあまり立ち上がりはじめた。場の雰囲気に呑まれ一人ひっくり返っていたデボラも慌てて立ち上がる。そのタイミングを見計らったかのように、壇上の少女は大声で歌い始めた



我は魔界の大悪魔

殺せ殺せ神など殺せ

壊せ壊せ教会を壊せ



 (過激すぎる歌詞ー!なのにみんな盛り上がってるー!?……ってなにこれ、精神が高揚するし、私の意志に反して身体も少し動き始めてるんですけど!?)


 と、そこでデボラは魔力の存在を知覚した


 (これは......精神感作系に近い魔力を感じる。でも祝言や呪言は、強力な術者でさえ人間ひとりの動きや感情を少しコントロールするのがやっとなはず。そんな魔力が歌に乗ってこの大聖堂にいる全員にふり注いでいるとでも言うの!?)


 混乱しながら考察する間も、どんどん過激な歌詞が流れていく。それに伴い、会場は盛況から熱狂と呼べる段階へボルテージを高めていった。当初止めるべきか迷っていた教師陣も大騒ぎしている。軽いコントロールを超え、もはや洗脳だ。


 そして壇上に近い生徒が頭を激しく上下に揺らし始めると、共鳴するように大衆に広がっていった。それはまるで邪教のミサの様な光景であった。


 デボラは魔力への耐性が高く我も強いため、まだ冷静さを保てていたのだが、それは逆に不幸だったかもしれない。彼女の魂に恐怖が刻み込まれていく。そして歌はとうとうフィナーレを迎えようとしていた。




 蜂起 叛逆 下剋上せよ

精霊なんてブチ犯せ


暴力 暴行 暴動せよ

神様なんて掘ってやれ


 殺せ殺せその信仰心

壊せ壊せ教会を壊せ




----演奏が終わったとき、観衆は暴徒と化した


☆☆☆


 熱狂が静まった後、荘厳だった教会の大聖堂は、廃墟の様になっていた。ステンドグラスは割れ、タペストリーは破れ、神を模した像は砕けている。周囲には体力を使い果たした生徒たちが死屍累々と横たわっていた。


 その様子を見て、主導者である悪魔のような少女は思った





 (はわわー、盛り上がったのはいいけど、皆ちょっとやりすぎじゃない!?)


 少女の名はシンデレラ、メタル、デトロイト。悪魔の様な天使の笑顔を浮かべる女である。

異世界転生して以来12年間心優しく過ごしてきたにも関わらず、皆に「悪魔の子」と恐れられるようになった彼女の学生生活が、ついに始まったのだ。

影響を受けまくった勘違い物の名作↓


デトロイトメタルシティ

エンジェル伝説

無欲の聖女は金にときめく N3386DB


デスメタルをしたり、顔が怖かったり、勘違いの結果色々といい方向に進んだりしますが、話の展開は違うはずなのでご勘弁頂ければと思います。


クラウザーさんみたいな歌詞センスや、中村颯希先生の様な文章力が欲しいぜ……

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