天秤の受け皿(豆L前編)
以前から思っていた。
長年の付き合いがある友人は不思議な人だと。
何処までも深く底が無い。故に掴めない人物である。
今こうして友人の庭で午後の茶会を過ごしている時も、友人は変わらない薄笑みを浮かべていた。
何を視ているか解らない表情が何処か気に入らない。
「なあ、お前は何を考えているんだ」
友人の手製だというオレンジピールの砂糖漬けを数本匙で掬い取り、温かな紅茶に入れて混ぜる。
渋く芳しい紅茶に、オレンジの爽やかな香りが良く合う。
紅茶と砂糖漬けはこんなにも容易く混ざり合うというのに、目の前の友人とは何故に上手く合わないのか。
其が酷く気に入らず虚しさを覚えていた。
「何と言われても、紅茶が旨いなと考えているよ」
友人の何気無い言葉に話を逸らされた様で、更に苛立ちが色濃く染まっていく。
友人は何時もそうである。聡明な友人ならば、私の言葉一つすくう事など容易いだろうに。
「そうじゃなくて、僕にはお前が解らないんだよ。何時も飄々として、少しくらい理解したいと思うのに。お前は何も見せないだろう」
苛立ちを吐き出すように告げた言葉に、私は言い切った瞬間酷く後悔した。
何がとは言えないが、少なくとも目の前の友人が今僅かに表情を曇らせ、薄い憂い混じりの苦笑を浮かべているのは私のせいなのだろう。
無意識で何処かは分からないが、きっと傷付ける言葉を私が吐いたのだ。
それなのに友人の内心を知らない私には、その傷一つも見付けられない。
「君は私を知りたいのか?」
目の前の傷付けた私に、やはり友人は優しい言葉を問う。
傷付けられても怒りも反発もしない。ただ穏やかに、親愛の情を容易く向けてくる。
「知りたいさ。お前は僕の友人だ。ならばいざという時支えに成れる位置に、同じ位置に在りたいと思う。でも、僕はお前の事を何も知らない」
苛立ちはもう無かった。代わりに私の想いは憂いで染まっていた。
酷く虚しい。空は快晴で茶会には良い日だというのに、温かな紅茶は無機質な味がした。