縁の植物(豆話L後編)
彼の不機嫌な理由が分からないまま、私はゆっくりと小さく首を振り否定の仕草を見せる。
「まさか。今のは縁を維持する事について話しただけだ。だが、何も考えていない事はないよ」
私は正面に視線を流して、部屋の白い壁紙を見詰めた。
「私にも途切れた縁は数多ある。それは、私から薄れたものもあれば、不本意で薄れたものもあった。それでも常に繋ぎ留めたい縁には、私なりに繋がれたものを想い、愛し、敬うように意識しているんだ。双方の想いが大切だからね」
穏やかに瞳を細め呟く私の隣で、彼の刺がある雰囲気が解けて行くのを感じた気がした。
「そうか。そうだな。互いを大切にする事を忘れたら、側には居られないよな」
柔らかな口調で頷き返す彼の言葉に、刺はもう見えなかった。
私は隣に座る彼の肩に、僅かに体重を預け身を寄せる。
「私と君の関係だって、それは同じなんだぞ。傲慢になるつもりはないが、私なりに君の事を想い愛し、敬っているつもりだ」
彼の温もりに穏やかな気持ちで告げると、不意に彼の大きな手が、私の髪を優しく撫でた。
「そんな事、分かっているよ。ただ今までは分かっていただけかもしれないな。これからは努力する」
ぶっきらぼうな物言いに反して、彼の手の温もりは優しい。
それで素直に頷ければ、良い人と呼べるだろうに。
「ならば、一つ問題を出そう。今私が一番欲しいものは何だと思う?」
答えなど数多に溢れるような意地の悪い問いだろう。それを分かって問う私の何と酷い事か。
案の定、彼は撫でる手を離し唸り悩む。
愚かな人だ。けれど、半分正解とも言えるだろう。
「分からないのか?既に半分正解しているというのに」
私は愉快だと小さな笑い声を溢して、隣で悩む彼に告げる。
「先の半分は、君が私の事を考え想ってくれるその気持ちだ。残りの半分は、もう少し私を甘やかしてくれ」
楽しそうに答えを告げる私に、彼は未だ疑問を滲ませた表情をしていた。
「甘やかしてとは言うが、俺は君が甘える仕草などあまり見た事がないな」
苦悩した言葉で告げる彼に、私は微笑を滲ませ彼の肩に顔を寄せる。
「確かに私は、人に甘える事が苦手だ。やり方を知らないからな。だが、知らない事と望まない事は別だ。私にだって甘えを求める時だってあるんだよ。誰にでもとは思えないけどね」
そう告げる私の言葉に答えるよう、彼は再び私の髪に手を重ね、優しく撫でた。
その彼の仕草と、心地好い温度が答えと見て良いのだろう。
私は、柔らかな温もりに瞳を伏せた。