縁の植物(豆話L前編)
「縁というのは、植物に似ているものだ」
リビングのソファに座る私が告げた言葉に、隣に座る友人は訝しげな表情で温かなカフェオレを一口飲む。
「何だ唐突に。そもそも縁と植物に何があると言うんだ」
彼はテーブルにカフェオレのマグカップを置き、チラリとこちらに視線を向けた。
確かに彼が訝しむのは、当然の事だろう。
何の脈略も無く、私の口から溢れた些細な言葉なのだから。
とはいえ、その一文を話のネタとして紡ぐ事も吝かではない。
「君は今まで生きてきた中で、生物や無機物と常に何等かの縁があっただろう?良い事も悪い事も、薄くも厚くもだ」
白い天井を穏やかな表情で見つめ、私は全ての物に繋がる言葉を発する。
それを隣に座る彼は、静かに聞き頷いた。
「だが、今もその全てと繋がっているわけではあるまい。瞬きの間に消えて見える縁もあれば、現状で深く繋がっている縁もあるだろう。ならば、何処にその差はあると思う?」
私は天井から視線を彼へと向け、師が弟子へと問う様子で彼に言葉を紡ぐ。
縁とは五感の何れか一つと繋がった時点で、無意識に出来るものだ。
けれどその多くは僅かな時で薄れ、生涯の中に保ち続ける縁等、奇跡のような確率の数しか残らないのだ。
では薄れる縁と残る縁の違いは何処にあるのか。
「何処って言っても、それは好きか嫌いかとか、興味の有無じゃないか?」
数分の沈黙の後、隣に座る彼は絞り出した声音で答えを口にする。
確かに、朧気な言い方をすれば、彼の答えも正解の一つと言えるだろう。
「及第点だな。確かに好きか嫌いか、興味の有無は縁に関係も深いだろう。だがな、それだけでは縁は続かないよ」
私の言葉に、彼は挑発的な鋭い視線で『ならば他の答えを言ってみろ』と促してくる。
「先程言ったが、縁とは植物のような物だ。植物には光りや空気、栄養と土に水。温度管理等々とても手間が掛かるものだ。それを縁に直すと、縁を保つには互いへの興味と慈しみ、思い遣りに理解。情に距離感等の多くを適切に保たないと長く維持出来ないものだ」
私の言葉に、彼は瞳を細め思案の様子を見せる。
「けれど、もう一つ植物と縁に似た部分がある。それは、与えすぎても駄目になるという事だ。強すぎる光やバランスの悪い空気、極度な温度や過度な水分管理は、何れも植物の命を奪う。縁というものも、過度な干渉や濃厚な情、雑多な距離感では築く事が難しいんだ。つまり、植物も縁も、常に調整管理が必要という事だ」
先程の植物との件を繋げ終えた私に、彼はゆっくりと瞳を開けこちらを見る。
「君は何時もそんな事を考えて、縁を維持しているのか?」
そう問う彼の言葉は、何故か不機嫌の色が滲んで聴こえた。