無花果の花(豆話)
秋の始まりに漂う残暑と言うものは、時の流れを惜しむ名残とも呼べるだろう。
その夏の暑さが薄れ行くせいか、秋にはどこか物悲しい感覚を覚えるものだ。
「しかし、どうしたものかな」
そんな秋晴れの空の下。私はウインドウショッピングと称して街中を散策していた。
休日に私が街に来たのは、ある人に渡す贈り物選びの為だった。
他者に何かを贈るのは、何時も難しいものである。
何せ贈り物というのは、贈る相手が喜ぶ事を前提に考えなくては成らないからだ。
予算や時間。定番とされる物から奇抜な物。数多の選択肢はあるが、一番大切なのはどんな形にせよ贈り先の相手が喜ぶか否を重要視しなければならない。
「予算は一応大丈夫だが、彼奴の好みに合うか…。いや、やはり他を探そう」
私は小さなアンテイーク調の雑貨店にて琥珀色のビードログラスを手にしていたが、小さく頭を振りグラスを元の棚に戻す。
あのグラスは、確かに私としては良い品だと思った。
曇り硝子に木の葉の彫刻。軽く持ちやすく日常使いにも悪くはない。
だが、私はあの人ではないのだ。彼奴の好みに合わなければ、何の意味も成さない。
それから数時間。合間に昼食も挟み、外の暖かさに陰りが指し始めた頃。私はとある書店に視線を向けた。
「書物か。いや、本の嗜好も日々変わるからな」
そう思い店内から立ち去ろうと考えたその時、私はレジ付近に飾られた商品棚へと気が付く。
その飾り棚には、多種多様な和紙を用いた栞が彩り鮮やかに飾られていた。
今はどうかわからないが、確か彼奴は書物を好んでいたはずだ。
栞ならば数枚幾つかの種類を合わせて贈れば、あの人の好みに合うものもあるだろう。
小さく薄い物だ。嵩張る事もなく、使わずに装飾として置く事も可能だ。
「これにしよう。使わなければ、勝手に塵にでもしてくれれば良いのだから」
そう考えた私は数枚の栞を手に、レジへと急いだ。