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豆話集  作者: 白楼雪


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11/11

天秤の受け皿(豆L:後編)

一つ溜め息を吐くと、友は続けて持論を話始める。

「私は、恋とは自己的なもので、愛とは受容の許容範囲だと思う」

友人の冷めた物言いに、私は言葉に詰まった。

そんな私に友人は捕捉が必要だと考えたのだろう。

「恋というのは、想う側が恋慕の相手との日々に一喜一憂するものだろう。今日は相手を見れるだろうか。気づいてもらえるか。挨拶に会話、あわよくば出掛ける約束等が叶うか否か。そんな物事に駈られる事が多々ある事とだと私は思っている」

友人は淡々と言葉を続けていく。

「だがな、それは相手の視点から見れば、何ら重要な事では無いんだよ。少しばかりの好意があれば、有って良いと取るかもしれないが、無かったところで其ほど重要な事では無い。況して無関心に思われているのなら、なおの事相手の日々に意味など持たない事だ」

友人の言葉は何処までも冷徹で、だが事実だった。

「しかし、恋という切っ掛けが無くては恋愛に置いての愛は生まれない。つまりその自己的な感情は、必要不可欠でもあるんだ」


友人の捕捉に私は、僅かに気持ちが楽になった気がした。

そうだ。恋愛において恋は必要で、たとえ自己的と謂われようとそれも愛の形だろう。

そんな私の希望を、友人は愛について語ることで容易く砕いた。

「とは言え、自己的が許されるのは恋だけだ。愛は一方的な自己では成り立たないよ。自分と相手がいて、交わす処に愛は宿るんだ。愛する者に自己を押し付けては、愛しているとは到底言えないだろう」

友の言葉に、私は辿々しい反論を口にする。

「自己的とは限らないだろう。会いたいと思ったり、触れたいと願ったり、知りたいと望むのは相手の為にもなるはずだ」

友人の見解を否定しなくては、私は私の答えに疑問を懐かなくては成らなくなる。

疑問を懐くという事は、先程まで思っていた友人への理解も、親愛で無くなってしまうのではないか。

それはとても寂しい事に思えたのだ。

だがそんな私の想いも、友人には届かないのだろう。

「君が誰かに想いを懐いたとしよう。恋人でも良い。だが君が会いたいと、触れたいと願った時、必ずしも相手も同じ心を懐いているとは限らないんだ。忙しく疲れて休みたいのかもしれない。ストレスや苦痛で触れられたくない時も、行いたくない事や話したくない事。知られたくない事もあるとは思わないか?」

友人の言葉に、私は返せずにいた。

何時だって誰にも誰かの心は分からないものだ。一瞬一秒先の想いや感情など、容易く解れば苦労はしない。

喩え追体験が叶ったとして、私と友人は別の存在だ。同じ感情も心も成り立たないだろう。

「それに対して愛とは、それらを何れ程受け止め、思い遣り、妥協や許容出来るかという物事だ。謂わば受動的なものだな」

友の諭す様な声音はいつの間にか穏やかな色を魅せていた。

「親愛も愛だ。私は確かに先程君に言われた言葉に思うものが一つ二つはあった。だが、それを受け止めて許容するのも親愛だと思っているよ」

友人の声音は既に始めと変わらない柔らかな物になっていた。

「お前は、知られたくないのか」

友人の心を知るために、親愛の一片を得る為に私は問いを投げる。

すると友人様は何時もの様に淡い笑みを浮かべた。

「知られる事が幸せとは限らないよ。そもそも君が私を知ろうとしたところで、理解出来るとは限らないだろう?君が理解した所で私は何を得られるのか。何の確証もない。得られず払わされるだけで終わった時、君は私に何を払える?」

ああ、友はやはり非凡だ。視ているものが違うのだろう。

悔しい。寂しい。何がとは言えないが、この溝が埋められない事実もまた変わらないのだ。

そんな悲壮な私に気づいたのだろう。

「良いんだよ、君は君のままで。知らないという事を知ったんだ。その上で友人として居てくれるのなら、それが親愛だ。私はそんな君だから友人でいたいと思うんだから」

紅茶は既に冷めているのだろうに。冷えて不味い紅茶を飲む友人は、幸せそうに薄笑みを浮かべていた。

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