天秤の受け皿(豆L:中編)
私の言葉に友人は憂いも憤りも無く、無垢な疑問の表情を浮かべていた。
「何も知らないと言うが、君は私の好きな菓子も、苦手な生き物の事も知っているじゃないか。何ならばスリーサイズでも教えようか?」
友人の無垢な表情は、確かに私の知っている僅かな友人の一面である。
友人は聡明だが、時折幼い子供の様な面も持ち合わせているのだ。
「いや、そうだけどそうじゃなくて。お前は僕に無い思考を持ち合わせているだろう?それは非凡なものだ。そして僕は凡人だ」
私の言葉に友人は何も口を挟まず、聞き続けていた。
「非凡と平凡には越えられない溝がある。でも、それじゃ駄目なんだ。少しでも近くに在りたい。それを成すために、僕はお前を知りたいんだ」
告げた私の言葉は、やはり友人の表情を僅かに曇らせた。
「それは、興味か?」
訝しげに瞳を細めた友人に、私は句を足す。
「違う!君を友人として親愛しているから、知りたいと思っている。興味が僅かにも無いとは言わないが、これは親愛からの願いだ」
私は嘘偽りの無い答えを吐いた。情があるから、願い望むのだ。
愛するものを知りたいと願う欲は、止めどないものである。
だが、友の声は何処か冷めて聞こえた。
「親愛ねえ。愛。それって本当に愛なのかな?」
怒りではない。けれど遠い距離を感じる友人の声と雰囲気に、私は呑まれないよう堪える。
「君は、恋と愛の違いってなんだと思う?」
唐突な恋愛の問いに、今度は私が無垢な疑問を浮かべてしまう。
恋と愛の違い?愛はまだ話の流れとして分かるが、恋など無関係な問いだろう。
「恋は、浮かれた思考になってしまうものだな。判断力が鈍るものだ」
唸り答える私の二の句を、友人は静かに待つ。
「愛は理解したい気持ちが芽生え、近くに在りたいと願うものか?」
私なりに悩み答えた言葉に、友人は酷い呆れの表情を浮かべていた。
「なんだ、言いたい事があるなら言え。悪かったな、僕みたいな凡人にはこれくらいしか言えないんだよ」
矢継ぎ早に私が言葉を発すると、友人は紅茶を一口味わい言葉を返す。
「私は恋と愛の違いを問うたのだが、それはどちらも恋だろう」
溜め息一つ溢しそうな友人に、私は静かに答えを待った。




