待ち猫が見る夢現(L豆話)
ふかふかのベッド。最近お気に入りのカリカリご飯。濾過機能付きの常に新鮮な美味しいお水。
首に付けられた鈴付き首輪は少し煩わしいけど、彼奴が喜んでたから身に着けてやった。
彼奴は僕から見てちょっと呆けているからな。僕が見守って側にいてやらないとダメなんだ。
ふかふかのベッド。最近お気に入りのカリカリご飯。濾過機能付きの常に新鮮な美味しいお水。
首に付けられた鈴付き首輪は少し煩わしいけど、彼奴が喜んでたから身に着けてやった。
彼奴は僕から見てちょっと呆けているからな。僕が見守って側にいてやらないとダメなんだ。
彼奴は優しくて呆けていて、誰にでも手を差し伸べて頑張り過ぎるから僕が居てやらないと。
(早く帰ってこいよ。最近朝は早いし、夜は日付が変わるまで帰って来ない)
ふかふかのベッドは寝心地が良くて好きだけど、僕は寝心地が悪い彼奴の膝の上の方が何か落ち着くのだ。
ご飯もお水も、彼奴が僕のために用意してくれてるって知ってるけど、彼奴が側に居ないとあまり美味しくない。
首の鈴の音も、彼奴の笑顔が見れないなら煩わしいだけだ。
(帰って来るよな。もう外が暗いぞ)
少し肌寒い窓辺に飛び乗り座ると、僕は月の無い夜空を見上げ、心の内に不安が滲むのを感じた。
真っ暗な夜空は、僕の心の中も黒く染みていく。
心の黒い染みは不安と寂しさを混ぜ合わせ、少しずつ冷たく染まる感覚がする。
(だ、大丈夫だ!こんなの昨日も一昨日も、最近ずっとだ。それでもいつも帰ってきてるんだから)
首を小さく横に振り不安を拭い散らすと、僕はベッドに向かい傍らに置かれたお魚のぬいぐるみにぎゅっと抱きつく。
彼奴が、何か僕が寂しがらないようにとか言って、匂いを付けてたぬいぐるみ。僕の大切なお魚ぬいぐるみだ。
このお魚を抱いていると、ちょっとだけ心の黒い染みが薄れる気がした。
(早く、帰ってこい)
瞳を伏せベッドでぬいぐるみを抱いていると、不意に玄関の方から小さな足音が聴こえた。
その瞬間僕は瞳を開き、耳を澄まして鼻を効かせる。
この足音。このお魚とよく似た香り。間違える筈がない。
僕は急いでベッドから降り、玄関へと続く廊下の扉前に向かい座る。
扉に爪を立てる?鳴き声を大きく響かせる?そんな事をすれば、まるで僕が彼奴の帰りを待ち望んでいたみたいじゃないか。
僕は、そんな事しない。はしゃいで喜んでるみたいな事してたまるか。
「ただいま。最近遅くなってごめんな。でも明日からはもっと早く帰れるようになるからな」
扉を開けて現れた奴は、今日も僕を見ると嬉しそうに笑った。
疲れてる癖に。寝不足な癖に。毎日僕を撫でるのは絶対やめないんだ。こいつは。
本当にこいつは呆けた奴だ。ただ、こんな奴が好きな僕も大概なのだろう。
「にゃぁん」
そう一鳴きすると、僕も喉を鳴らしてこいつの足に擦り寄ってやる。
朝は毛が付くからとか言って嫌がるからな。夜は思いっきり擦り擦りしてやると決めているんだ。
擦り擦り、チリチリ。擦り寄る度に首輪の鈴が小さくなる。
少し困り顔で嬉しそうに笑うこいつの顔は今日も俺の好きな笑顔だ。