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STORIES 016:フットルース

作者: 雨崎紫音
掲載日:2024/01/28

STORIES 017

挿絵(By みてみん)



高校生の頃、モノクロ写真の撮影や現像をやりたくて、写真部に入りたかった。


しかし、部活動紹介やなんかでも存在感が薄い。


担任教師に尋ねてみると…

幽霊部員ばかりで活動実態がなくなってるかもしれない、顧問の先生に聞いてみたらどうか、そんなふうに教えてくれた。


顧問の先生は、温和で口数が少なく、部活動には興味がなさそうなタイプ。


先輩がいなくて、顧問が煩くない。


やりたい放題じゃん♪

それで、友達を誘って入部した。


.


白黒フィルムで撮影、部室兼暗室で現像。

引き伸ばし機を使って印画紙にプリントする。

特別な時はパネルにして展示したりもする。


楽しい。


僕がモノクロームの世界を愛し始めた、そのきっかけはここだろう。


.


ときに被写体は、部活をサボる仲間、運動部の友達、クラスメイトに及ぶ。


犠牲者と言ってもよい。


彼らを写した写真を大きく引き延ばし、教室の黒板に貼り出す。

その写真のまわりにみんなでラクガキ…

そんな悪ふざけもしていた。


.


ある日、いつもの落書きの横に、女の子の文字が足されていた。


「今度わたしの写真も撮ってね〜」

「××くん、よろしくね❤︎」


みたいな感じ。


そのあたりから悪ふざけの対象はなぜか僕になった。


学校に着くと、よくわからない自分の写真をはがし、彼女やみんなからの冷やかしコメントを…

顔を赤くしながら消して回るのが、朝の日課になってしまった。


.


実はそれを書いていた女の子、ずいぶん前から気になっていたコで…

大きな目が印象的、ちょっとエキセントリックで目立つタイプ。


自転車で走り去ろうとする僕に、ふざけて遠くから声をかけてくることもあった。


僕は満更でもなかったのだけれど、照れ臭くてほとんど話も出来なかった。


本当は、話したくてたまらなかったのにね。

奥手の意気地なし…


その頃の僕は、気になる女の子と気軽に話せるような度胸はなかった。


あ、いまでもそうですよ。

いや、本当に。


.


やがて、そんな落書き遊びもみんな飽きて、平穏な朝が戻ってきた。


誰かがヘッドフォンで聴きながら入ってきた音楽について熱っぽく話し始めたり、こっそり始めたバイトでの失敗談を持ち出したり…


そんな教室の風景から、あのコの姿は消えてしまっていた。


周りと上手くいっていなかったのか、家庭の事情があったのか、理由は知らない。

彼女は少しずつ学校に来なくなった。


あの子の席はいつも空いたまま。


.


ある時、校内映画観賞会に向けて、上映タイトルを話し合うHRがあった。

みんなが観たいものを選ぶため、投票を行う。


その日、珍しく彼女も登校していた。

席は近かったけれど、前よりも近寄り難い感じ。

ポツン、と自分の席にぎこちなく座っている。


みんなでガヤガヤと相談していたとき…


「あの中ならフットルースが観てみたいかなぁ」と、僕は近くにいた友達に話しかけてみた。


微妙な反応だった。

もっと派手なほうがいいのか。

どうしようかねぇ…


そして、多数決。


僕は、結局は別の映画を選んで挙手した。

それは、まぁまぁの人気だった。


フットルースには…

一票だけ。


あの子がひとりだけ、手を挙げたから。


しまった、と思った。

ちょっと心がざわついた。


もしかするとだけど…

さっきの僕の話が聴こえていて、一票を投じてくれたのかもしれない。


彼女にとっては、観賞会なんてどうでも良かっただろう。

だって、当日も登校するかわからないしね。

さっきだって興味なさそうに1人で遠くを眺めていた。


フットルースなんて、他の誰も手を挙げなかったのに。


独りで手を挙げていた彼女、そのときの空気感…

僕はなんだかとても申し訳ないことをしてしまった気がした。


けれど謝ることも出来なかった。

気軽に話せるような雰囲気じゃないし、ね…


.


その後、しばらくして彼女は学校を辞めてしまった。


本当は色々話してみたかった。

あんなふうに誰かに明るく話しかけられるなんて、羨ましい、憧れるな、なんて思っていたから。


一度でいいから、ちゃんと話せたら良かったのに。


途中でいなくなってしまった彼女は、僕が撮影するどころか、どの集合写真にも残っていない。


どこにもいない。


.


以来、この映画は…


何度か観ようと試みたけれど、全く話が頭に入ってこないので、いまだに最後まで観られないままでいる。


そんな映画、あなたにもいくつかありませんか?

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