皆川と佐竹
「おはよう」
「はよ」
皆川と佐竹は、いつもの十字路で挨拶をした。
最近散髪をさぼっていたせいで、少し髪がぼさぼさとしている方が皆川。そのくせして、髪の毛はきっちり根元まで染め直している、妙なところがまめな人物だ。
一方、佐竹は数ミリほどの髪の毛の長さしかない、坊主頭。インドアな皆川と違って、佐竹は全身がこんがりと焼けている。しかし、二人とも部活動には入っていなかった。
幼なじみというわけでもない。ましてや、同じクラスでもない。放課後、一緒に遊ぶ仲というわけですらない。ただ、同じ制服で、同じ登校タイミングで、毎朝顔を合わせていたら、なんとなく挨拶をする仲になっただけだ。
趣味も合わないので、挨拶のみで会話が一切ない日も多い。
そんな二人だったが、今日は佐竹の違和感に、皆川が気づいた。
「あれ、昨日そんな絆創膏つけてたっけ」
「は? ばんそーこー?」
「首につけてるやつ」
「あぁ」
佐竹はかりかりと絆創膏の縁を爪で引っ掻きながら言った。
「にきび潰したんだよ。寝てる間にやったみたいで……」
「あー……あるあるだね」
「皆川はにきびとか無縁じゃねーの? 今日も朝から顔ぴっかぴか。マネキンみてぇ」
「むしろ縁ありまくりだよ。油断するとすぐ、にきびが出来るから、スキンケア忘れたら死ぬ」
「マジ? そういうのって、やりたい奴がこだわってんじゃねぇんだ」
「男でスキンケアしてる奴は、大抵は結構肌弱い人じゃないかな。リップクリーム塗ってる奴だって、唇が普通の人よりカサカサの人とかなんじゃない? 知らないけどさ」
「大変だな」
「そういう君は日焼け止めとか塗らないの? というか、どこでそんなに黒くなってきてんだよ」
「暇さえあれば海潜ってるからなー。お前も来いよ」
「やだ」
「んだよ。海はモテるぞ」
「少なくとも絶対お前よりはモテてる」
「おっ。言ったな?」
不意に、びゅうと冷たい風が吹いた。
今日から、全生徒の冬服着用が始まる。先週までギリギリ夏服着用が義務付けられていたから、寒くなるタイミングで切り替わったことで、二人はほっとした。
「う、う、う。海より寒いぜ……」
「それはないでしょ……」
「いや、意外と準備ちゃんとすれば寒くないんだって。ウェットスーツとかあるし」
「えっ、佐竹ウェットスーツ持ってんの!?」
「驚きすぎだろ」
皆川が目を見開いている顔を見て、佐竹はけらけらと笑った。
「でも、そろそろ海の方が閉じるから、何して冬を過ごすか考えねーと」
「よくやるわ……」
分かり合えないな。と皆川は心の中でぼやいた。それでも、それが楽しくて、少し笑みを浮かべている。
そんな話をしているうちに、学校までたどり着いた。
「じゃ」
「ん」
言い残すことも、寂しがる様子もなく、二人はいつものように分かれ、お互いの教室へと向かっていった。