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タイトルとかとか、いただいて書きました。

君(弟子)を、愛してしまいました ~隠居した魔導師の老いらくの恋~

 



「師匠師匠師匠師匠師匠師匠!」

「煩いですよ」

「聞いてくださいよー」


 緩やかに波打つ真っ赤な髪を振り乱し、弟子のローザが走ってきます。

 猫のような金色の瞳を燦然と輝かせて私を見つめてきますが、私はいつも見つめ返すことができせません。


「もー! 聞いてくださいってば!」


 ソファで読んでいた本から視線を外さずに彼女と話します。今日も。いつでも。

 彼女の瞳と視線が合ったら、心の奥底に閉じ込めた歪な想いが漏れ出てしまいそうですから。


「ちゃんと聞いていますよ」

「本見てるのに?」

「本は眺めているだけです」

「…………じゃぁ、私を見てくれてもいいじゃないですか」


 ――――はぁ。


 こんな風に思わせ振りな言葉を吐くようになって、どれほどの月日が過ぎたでしょうか。

 



 ◆◆◆◆◆




 長年勤めていた王宮魔導軍を引退し、郊外の屋敷でひっそりと暮らしていたのですが、軍からの依頼で教壇に立つことが時折ありました。

 魔力が強すぎて数百年生きている私は、見た目が五十歳程度で止まっていることもあり、気味悪がられていました。……が、一人の少女だけは妙に懐いて来ていました。


「もっと教えてください!」


 勉強熱心な真っ赤な髪の毛の女の子。

 魔力も多く、忠誠心も高い。このまま研鑽すれば、きっと魔導軍で活躍するはず。

 私は彼女をしっかりと指導し終えてから、軍の講師を辞めました。 

 なのに、なぜか彼女は私の屋敷に現れた。


「軍を辞めて来ました!」

「……何故辞めたのです?」

「魔導軍のヤツらが師匠をバカにするからです!」


 ――――師匠?


「私は気味が悪いですからね」

「そんなことはありません! 師匠は強くて、格好良いです!」

「……はぁ。ありがとうございます」


 お礼を言うと、煌々(きらきら)しい笑顔で「やったー!」と叫び飛び跳ねていました。

 何がどう『やったー』なのかと考えていたら、どうやら彼女の中でこの屋敷に住むことが決定した様子。

 そして、私には拒否権が存在していないようでした。




 なんとなく追い出せず、彼女と共に過ごしている内に気付いたのは、純粋そうな言動の中にちらりと見える小さな闇。

 彼女の見た目は十代後半ですが、実年齢は二十後半との事でした。幼い頃からズレが生じていたらしく、沢山の嫌な思いをしていたようです。

 この年代から見た目がズレていくのは珍しく、それは彼女の魔力の多さに依るところが大きいのでしょう。


「君はまだ若い。こんなとこに引きこもっていないで外を見なさい」

「…………追い出す……んでずが?」


 太陽のような瞳に雨雲が掛かってしまいました。

 なぜか心臓がギリリと痛みます。


「……好きなだけいて構いません。ただ、心配なんですよ」

「だでぃがでずが?」


 ……たぶん、『何がですか』と言ったのでしょうね。

 彼女の目の前に立ち、柔らかな髪に触れながら頭を撫でると、顔が真っ赤になっていました。

 泣いたのが恥ずかしかったのでしょうね。


「色々な人と話し、関わり、共に生きていく。遊んだり、喧嘩をしたり、恋をしたり。それらは、私達のような体質の者が自我を保つのにとても大切な事です」

「師匠はここに閉じこもっているのに?」


 頬を膨らませて見上げてくる顔を見て、また心臓がギリリと痛みます。

 最近そういうことが増えました。寿命が近づいてきているのでしょうね。


「私はもういいんですよ。もう、沢山生きましたから」

「…………師匠のバカ!」




 ◇◇◇◇◇




 あぁ、あの日からでしたね。

 もう十年も経つのですね。

 彼女の見た目はあいも変わらず十代後半。

 日々真面目に魔導の勉強をしているので、魔力もかなり増えています。私の最盛期より多くなるかもしれませんね。


「ししょぉお!? 聞いてます?」

「すみません、聞いていませんでした」


 パタンと本を閉じ、彼女の瞳と視線を合わせないように顔をあげると、目に飛び込んで来たのは、煌めく夜空。

 深い紺色のドレスを着たローザでした。


「――――美しいですね」


 つい、口から零れ落ちてしまいました。

 慌てて何か誤魔化さねばと思った瞬間、そもそも彼女はなぜドレスを着ているのだろうか、という疑問が湧きました。


「どこか…………出かけるのですか?」

 

 思いのほか低い声が出てしまいます。


「先月話したじゃないですか……」


 なぜか彼女が頬を膨らませます。こういった行動はまだまだ精神が幼いから出るものなのでしょう。

 愛しく感じるとともに、また心臓が痛み始めます。

 おしゃれをして出かける相手が出来たのはいいことなのに。


「友達に夜会に誘われたって言ったじゃないですか」

「そういえば、そんなこともありましたかね」


 こもりっぱなしではいけないだろうと、なにかと町への用事を彼女に言付けていたら、新しくできたという男友達の話をするようになりました。

 聞いていると喉の奥が詰まったように苦しくなるので、聞かないように、記憶しないようにしていました。

 

「直前になって急に行けなくなったって魔導通信が来たんです! 一人で夜会には行けません!」

「……で?」

「師匠、盛装してください! 招待状はもらいましたから!」

「…………どうしても、行きたいのですか?」

「はい!」


 ――――はぁ。


 煌々しい笑顔を向けられると、無下にはできません。

 それもこれも、私の奥底に眠らせた歪な想いのせい……。


 重い溜め息を吐きつつソファから立ち上がり魔法で着替えると、ローザが目蓋を見開いて前のめりになって来ました。


「ししょぉぉ! 盛装カッコイイ! シルバーグレイの長髪を赤いリボンでひとつ結びとかっ! カワイイ!」


 普通のテールコートですが、お気に召したようです。

 格好良いのか可愛いのか、どっちなのでしょうか。

 一瞬、こっそりと入れた彼女の色に気付かれたのかとドキリとしてしまいました。

 

「で、会場はどちらですか?」

「王宮です!」

「…………どういったご友人なのかな? 町で出会っていたはずだが? なぜ、招待状がある? 招待状の名義は、ローザ?」

「あ……えと、元軍部の人でー……そのぉ」


 彼女の後ろめたそうな顔と、この時期でピンと来ました。

 

「軍の任命式ですか」


 びくりと肩を揺らす彼女の反応が、予想ではなく事実なのだと言っています。


「そこに私を連れて行って…………」


 軍の任命式は夜会も兼ねており、新たな役職を得る場と、恋人探しの場にもなっています。

 

 数年前までは隠居している私に『復帰してほしい』と連絡とともに招待状が届いていましたが。

 そこに私を連れて行って、どうするのかと尋ねようとしましたが、そのような分かりきったことを聞いても意味がありません。

 軍は、彼女を使ったのですね。


「出て行ってください。もう君とは暮らせません」


 彼女に背を向けそう伝えると、背中にドンと衝撃が走りました。

 柔らかな感触と、甘い匂い。

 何よりも温かい。


「ごめんなさい」

「出て…………っ、出て行け! 二度と私の前に現れるな!」


 初めて使った強い言葉は、自分自身をじわじわと闇に飲み込んでいくようでした。

 防御シールドを展開し、彼女と物理的な距離を取ろうとしました。ですが、彼女は私の弟子なので、キャンセリングなどお手のもの。


「ごめんなさいっ…………ごめんなさいっ!」


 背中にしがみついている彼女の手が震えていました。

 縋り付かれて嬉しいという、なんとも言えない仄暗い感情に嫌悪を感じます。


「お願いします。出て行ってください。もう、共には暮らせない」

「っ、ごめんなさい。師匠と手を繋ぎたかっただけなんです……ダンスして、みんなに自慢したかっただけなんです…………」

「――――は?」


 ローザはいま何と言いましたか?

 ダンス?

 手を繋ぐ?


「夜会で? 私と?」

「っ! ……はっ、はぃぃぃっ」

「私と? どうしたい、と?」


 背中の温もりがパッと離れたので、慌てて振り向き逃げようとしていたローザを腕の中に閉じ込めました。


「ふひゃぁぁ!?」

「私と夜会で踊るためにと聞こえましたが、何故です?」

「っえ!? あわわわわわわ!」


 逃げられては堪らないので、抱き上げてソファに移動しました。

 ローザを膝の上に乗せ、向き合います。


「ししししししょ!?」

「何故、私と手を繋ぎ、ダンスし、自慢したいと?」

「ぜっ、全部ちゃんと聞いてるじゃないですか!」


 ローザがワッと泣きながら両手で顔を隠そうとしたので、優しく両手首を握り、私の腰に誘導しました。不安定で危ないですからね。

 膝から降りたいなどは言わないので、このまま話を進めます。


「聞いてはいましたが、真意がわかりませんので」


 ――――私の、老いらくの恋と同じ想いなのか。


「真意…………え、その……」

「ローザ。私はね、君を愛しているんですよ」

「っ――――ギャァァァァァァ!」


 ローザが真っ赤な顔で叫んでいますが、知ったことではありません。

 右手をローザの頬に添え、ゆっくりと顔を近付ければ、彼女は猫のような金色の瞳をキュッと閉じました。

 つまりは、このまま食べていいということですよね?


「ん……ローザは名前と見た目通り、とても甘い唇をしていますね」

「ししょぉ……」

「ジェラールと」


 ローザが更に顔を赤くして、私の名を呼んでくれました。

 私にだけ聞こえるような小さな声で。


「老いらくの恋など気持ち悪いでしょうから、秘めていようと思いましたが……相思相愛なら、構いませんよね?」

「っ、はい。好きです、師匠」

「ジェラールと」

「っ――――!」


 おっと。

 ここから先は、誰にも見せませんよ?




 ―― fin ―― 




『タイトルいただいて書きました』シリーズ!

こちらの作品は、3ツ月 葵様

(https://mypage.syosetu.com/1389019/)

よりタイトルをいただきました。


素敵な機会をありがとうございました!



*****



ブクマや評価等していただけますと作者が小躍りします!

ヽ(=´▽`=)ノ

モチベに繋がりますので、よろしくお願いします!

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[一言] どうしましょう……おじさま大好きなのでどストライクもどストライクでした。 ジェラールという名前も高貴でピッタリです。 後半の師匠の行動がやばすぎてドキドキしました。 こういうのを尊いっていう…
[良い点] なんと美しくいじらしい恋だろう。 一人称視点から浮かび上がる優しさ、怯え、仄かな恋心。それらを美しく彩る魔法のような言葉の紡ぎ方。行間すらもきらきらと輝いています。 思わずため息が漏れ…
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