plume9 信じる心
正直申しますと眠い。
「夏野先輩は、本当の能力があるのに『聖なる大樹』によってそれを制御されています」
「……率直に申しますと、我々もその能力は不得要領です」
ニコニコしている鶫と、無表情な隼斗の唐沢兄弟も能力者である。
だが、他の能力者とは違い、『守護者』という役割を持っていた。
「それは……警察さんみたいなものなのでしょうか?」
鶉は言い終わると、紅茶の入ったティーカップを2人に渡す。
「ありがとうございます」 「……どうも」
一口飲んだあと、その双子は語り始めた。
「守護者は一応人間ですが、能力者達が聖なる大樹を自我のために翻弄したり、能力者同士が争ったりしないよう、監視を務めています」
「……今は『翼在る者』と『翼無き者』に分かれてしまい、僕らも一苦労です」
そういえば……綾鷹さんも、そんなこと言ってた気がする……。でも、あの髪と目の色は……。
鶉は、つばめの方に視線を持っていったが、すぐに双子へ目を戻した。
それを見た鶫は、それを見計らったかのように言った。
「あぁ、そういえば、鶉先輩は、あの仮面の人に能力者のこと、ほぼお聞きしましたよね?」
「!」
つばめが突然目を見開いた。が、特に何も言わず、口をきつく歪ませるだけだった。
「どうしたんですか、春咲さん」
「いや……」
その様子を見たあとで、隼斗が口を開く。
「……聖なる大樹を守るべき者達が、今やその対象を利用しようとしている。それが、『翼無き者』達です」
「ま、そいつらは俺が小学生の時くらいから出てきてたな……その意図は全然わからねーけど」
ベッドに座っている優夜が言う。
「ま、ぼくらはどちらかといえば翼在る者よりですし、とりあえず、苺花・T(テスタロッサ)・スワン・シャルロッテはその能力を先輩に託したわけですが……」
苺花ちゃん……。
大丈夫。生きていれば、自分の道を行くしかない時が必ず来る……お母さんが言ってた。
理由が見つかった。これまでの自分を変える、新たな理由が。
貴方こそが、その理由。
「聖なる大樹のことも、お聞き致しました」
「そうですか……。でも、だからこそ彼女は鶉先輩にその能力を託しました。貴方なら、その能力の意味を分かってくれると……鐘は鳴らさなければ鐘ではない、歌は歌わなければ歌ではない……愛もまた、人に与えるまでは愛ではありません」
愛することは、許すことにも似ている……。
鶉は決心した。
「鶫君、優兄、私は……並の人間に過ぎないけど……一生懸命頑張るよ。必要なことは勇気じゃない、覚悟は、出来ています……そして、翼在る者と翼無き者の争いを、きっと止めてみせるよ……」
鶉の真っ直ぐな目を見て、周りの能力者達は、多々、色んな事を思ったが、彼女を見守る目は、とても優しく思えた。
「そうですか、それを聞いて安心しました……」
ニコッと笑う鶫に、
「……僕らも貴方をお守り致します。だから……」
相変わらず無表情な隼斗。
「「貴方を見てくれている人が、思ったよりも近くにたくさんいることを、忘れないでください」」
「え……」
「それでは僕らはこれで失礼致します。それでは、また明日学校でお会い致しましょう」
「……お邪魔しました」
2人は出て行った。そのあとを、何故か優夜は追いかけていった。
部屋に残ったのは、鶉とつばめ。つばめはまだ、下を向いている。
「つば……」
「綾鷹は……私の兄だ」
「………」
「今は対立関係にいるにあたり、、まだそのわけは話せないし、その内容も暗闇の中の一筋にも満たない光……」
「つばめちゃん……」
「だが、いつかきっと話そう。その対立関係は、きっとなくなると思う……。だから、鶉、私は貴方を信じよう」
全ての始まりは、幸せに気づくこと。
「ありがとうございます」
そしてゴールも、幸せに気づくこと。
「つばめちゃんもいるから、守りたい今があります」
幸せなんて、感じた者勝ち。
「何があっても、助けます。だって私達、友達です」
「!」
つばめの顔は、再度真っ赤になったのであった。
「あぁ、先程の言葉は忠告です」
「貴方を見てくれている人が……って奴か?」
「はい。翼無き者達が言う、“主”とか言う輩はきっと鶉先輩を狙いますね、確実に」
「……それでも……」
「必ず、守ってください。僕らは、監視しているだけですから」
「…………」
双子は歩き始め、姿は見えなくなっていった。
「ったりめーだ……」
優夜は、オレンジ色の空を仰いだ。
良い国作ろう、ジンキスカン♪
鳴くよ、うぐいすジンギスカン♪