plume3 苺
烏丸家
その一室の部屋にあるテーブルの上にはショートケーキ1ホール。その横には紅茶のティーポットと二つのティーカップ。
それらを囲んで座っているのは、その部屋の主・烏丸優夜、幼なじみの夏野鶉、そして、目をキラキラさせているちっちゃな少女の、苺花・T(テスタロッサ)・スワン・シャルロッテ。
「相変わらず、優兄のお母さんはケーキ作るの上手ですねぇ」
「いや……何とかして欲しいぜ。この前は一日3食全てケーキだったからな……」
「わぁ~、憧れだよ……」
恐いお兄さん達に突っかかった日の夕方、鶉は久しぶりに幼なじみの家を、苺花という少女と訪ねた。
帰る途中も一緒に手を繋いで喋っていたが、彼女は一言も喋ってはくれなかった。名前は、優夜が元々知っていた。
その少女は今、ケーキを興味津々に見つめている。
香りはとても甘く、苺は熟れており彩り鮮やか、全体図を見つめると、苺花はフォークを使って上品に一口。
スポンジがフンワリ軽くて口どけがよく、生クリームは甘さ控えめな優夜母お手製のショートケーキ。
苺花はパァッと輝いた柔らかな笑顔で言った。
「とっても……とっても美味しいの……!」
はぅ! か、可愛いです……!
鶉はその可愛さにずきゅーん。
花のピンが付いている金髪ふわふわウェーブにぱっちりだけどぼんやりした大きい目、異国の子なのかなぁ……あ、ていうか、この子どうして他の人に見えないんだろう……。
「あぁ、そいつは……」
優夜が答えを言おうとしたその時だった。
ガシャーン!
窓が割れた。
大きな黒いフクロウが、苺花めがけて飛んできたのだ。
「苺花ちゃん!」
鶉は苺花を守るように両手で包んだ。そして、フクロウの方へ目を向けると……
フクロウは、止まっていた。
鶉の目の前で、フクロウが空中に静止しているのだ。
「あれ? え、フクロウさんはどうなったんですか?」
鶉が優夜の方へ目を向けると、優夜は、左手をフクロウにかざしていた。
「いいか、鶉。よーくきけよ?」
「え、あ、はい! なんでしょう」
「……そうだな……苺花を連れて、学校へ行け……そうすれば、大丈夫だ……」
「ちょっと、優兄! 大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だから……苺花を絶対放すな……とっとと行く!」
「は、はい! 優兄、気をつけてくださいね!」
「あぁ、あとでしっかり説明してやるから」
それを聞いて少し安心した鶉は、苺花の手を握り、優夜の部屋をあとにした。
2人が行くのを見届けた優夜は、床にがくんと落ちる。
フクロウは部屋の中を飛び回り、椅子の上に止まった。そして、まさにこちらを睨み付けている優夜めがけて、体勢を構えていた。
「まずは雑魚からか……」
優夜はまたもや、左手をかざし、右手には、鋭く光る鋭利なモノを構えていた。
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「はぁ~……学校に着きました!」
鶉は自分たちの通っている聖桜学院附属高校の正門から、苺花と校庭に入った。
放課後になってからまだそんなに経ってもいないのに、辺りは静まりかえっている。
「それにしても……来る途中、なんか誰もいなかったですね……。ここで何をしていればいいのでしょうか?」
このような状況下に置いて冷静な鶉。
すると、苺花は鶉の腕にしがみついてきた。
「鶉お姉ちゃん……」
「はい?」
「なんか……恐い感じがするの……」
「た、確かに、まるで、ゴーストタウンのようです……」
そんな静寂に、一つの明るい少年の声が響いた。
「目標みーっけ!」
鶉たちが声のする方向を向くと、そこには、同い年くらいで左目に眼帯を付けた茶髪少年と、青い髪を持つ仮面を付けたローブの者が立っていた。
「えーっと、名前なんだっけ……いか……ショートケーキ?」
「苺花・T・スワン・シャルロッテ」
奥の仮面の者がボソッと言う。
声色からして、青年。
「そうだ! 苺花・T・スワン・シャルロッテ! 主がお前をほしがっているから、こっちへ来い!」
「は、はい……?」
突然の事態、でした。
かげろーくん、ケーキ食べたい。