plume18 はるさき
野澤は演劇部です。
父も高校時代、演劇部でありまして。
ある時やった役の名が、
オーブンの中で三日間忘れ去られていた黒こげパン
の役らしいです。
春咲家は、武道において名門中の名門。
剣道柔道弓道合気道その他諸々。
それらを習得しようと多々の研修生や著名な武道家達もその道場を訪れた。
技を磨き、教鞭を執るは、現当主ではなく……その稚児達であった。
現当主は、女房と武道の修行の旅に出ている。
その意志を継ぎ、春咲家を切り盛りしているは……、
長男・綾鷹。
長女・鴇子。
次女・つばめ。
三女・すずめ。
次男・飛鳥。
の、5人兄妹であった。
「綾兄たーん、遊ーんでー」
「すずめ~、兄さんは今日もおやすみ中なのよ~。からだを、休ませてあげないと~」
「……コホッ……杞憂に過ぎぬよ、鴇子。さぁすずめ、おいで」
「おれも遊ぶ! つばめ姉ちゃんも行こうぜ!」
「あ……えっと、わ、私も、宜しいのですか……? その……綾兄さん」
「無論……コホッ、コホッ……こっちへ来て共に戯れよう、つばめ」
「は、はい! 承知!」
一番上の綾鷹は次期当主になるであろうが病弱で、それをカバーするように次女の鴇子が家事全般をつばめと行い、下のすずめと飛鳥が日々武芸の道に精進していた。
色に多少の違いはあるものの、皆青い髪を持ち、仲睦まじく暮らす5人。
皆、時々来る両親からの手紙を心を踊らせ待ち、毎日の鍛錬を怠らず、今や末っ子の飛鳥までもが、自分より年上の者達を指導するほどである。
その日は、両親が一時帰宅するとのことで、姉弟達は早めに学舎を切り上げようと誰もが思っていた。
だが、両親が帰ってきたより以後に、つばめが帰宅したのである。
姉弟は理由を追及したが、その時のつばめは、ただただニコニコしながら何もないと話していただけであった。
現当主の四十加羅は、強面に見えてかなり心配性で酒や賭け事が大好きな、左目の位置に傷跡がある優しい父親。
その妻、永恵は、ニコニコとしていて柔らかな物腰の女性だが、怒らせるとこの世界の終末が見えるほどらしい。
姉弟は、2人の帰宅を心より祝し、飲んで騒いで一晩を明かしたのである。
その次の日だった。
両親が、5人兄妹を広い広い庭へと呼び集めた。
が、綾鷹だけは病気の症状が悪化し、その場には現れなかった。
「では……」
永恵が口を開く。それは、悲しき惨事へと導きを持つものであった。
静かだ。
布団の上で伏せっている綾鷹は思った。
薬を飲むことを忘れ咳払いをしながらも、彼は外へ続く襖を開け放ったのであった。
そこには。
鴇子がいた。
だが、次の瞬間。
鴇子は、水に打ちつけられた。
…………?!
その後に足音が聞こえ、その音の持ち主は……。
「あ、綾兄さん!」
「……つばめ……?」
笑顔で立つ彼女の身体には、数多の血痕がこびり付いていた。
「私、鴇子姉さんにをも負かしました!」
「何を……しているの……?」
「はい、母様がこの家の跡取りを決めると仰ったので、我ら姉弟で競っていたのです!」
「え……あ……コホッ、コホッ……」
「そしてご高覧を賜り、私、水が操れるのです! 」
つばめの周りを、水が渦巻く。
憧れと尊敬を込めて、最初に報告に伺ったのは綾鷹だった。
子供故の無邪気さと残酷さが入り交じった感情。
そしてその力は、消して両親には話さないという幼き子の特有の感情。
それは、感嘆に値した、というより……身震いするほどの恐れ、恐怖。
「じ……次期当主は、僕ではないのか……?」
「そうですね」
綾鷹の隣には、いつのまにか、母・永恵の姿があった。
いつものような、朗らかな優しい顔で。
「綾鷹さんは、兄妹の中で一番強いでしょう? でも、貴方は病弱な方ですから……つばめさんと綾鷹さん、勝った方を次期当主とします」
私は綾鷹に圧勝した。
学校帰りに突然覚醒した能力を使わずに。
――――なぁ、母上……なぜ、我ら兄妹が戦い合うのだ……?
今思い出せば、その後の春咲家は恐ろしかった。
皆何事もなかったかのように夕食を囲み、その後、離れの方から火が上がったかと思えば、綾鷹は姿を消していた。
15にも満たず、病弱故に、直々に冬が来るというのに。
それから数ヶ月経ち、優夜が苺花という小さな少女を連れて道場に来たかと思えば、私はようやく自分の立場を理解した。
まだ、子供で未熟だった。
私は、天使から授け賜った能力を、純粋に、歪んだ方向へと酷使してしまったのだ……――。
朝
「ふわぁ、泊めていただけた上に秋の七草まで頂いてしまって、ありがとうございます」
「いいのよ~」
「また遊びに来てくださいね、鶉さん!」
「優兄ー、今度は土産持ってこいよぉー」
「……もう馴れた」
「あ、あの、つばめちゃん」
「ん? 何だ、鶉」
――私は、綾鷹を探し出して、真意を聞くために、裏切り者破門の命を受けたのだ―――。
「……あの……」
「ん?」
「……えっと、ま、また明日、学校で会いましょう!」
「ああ」
鶉は一礼し、少し先にいる優夜の元へ、少々急な階段を下りながら向かう。
――この世には、幸も不幸もないのかもしれませんね。
なにかを得ると、必ずなにか失うものがあります。
なにかを捨てると、必ずなにか得るものがあります。
……。
かけがえのないものを失うことは、
かけがえのないものを真に、
そして永遠に手に入れることだと思いますよ。
……。
誰も自由にはなれません。
……自分に、打ち勝つまでは……――!
そうだね、鶉……。
必ず、綾鷹をこの春咲に連れて帰るんだ。
私の家族は皆優しいし、綾鷹も私のように気づくことが出来るかもしれない。
だから、私は……――。
夕暮れが包み込み、秋も終盤になりかける中で、つばめはいつもの無表情ではなく、とても晴れやかな顔つきだった。
新たなる決意と共に、彼女の心の世界が大きく開けたかのように。
この頃書き方が雑になってきてしまいました。
ですが宜しくお願いします。
今日の部活は衣装選びでした。