plume14 私の王子様
りっくん これは……ぺろり……青酸カリだ……
野澤 死ぬ死ぬ死ぬ! 何舐めてるんすかぁ!
どうしよう……
翼無き者のところに行けば、みーちゃんは助けられる。
でも、もしかしたら苺花ちゃんのように、殺されるかもしれない……。
そんなことしたら、苺花ちゃんの想いが、消えてしまう。
誰かに必要とされるということは、誰かの希望になるということ。
でも、だからって……。
「あぁ、未鶴様の短気さが移ったのでしょうか。……早くしていただきたいのですが……」
一は溜息をつくと、水姫の耳元で、何かささやいた。
すると、水姫は先程のように有り得ないほどの速さでナイフを振りかざしてくる。
優夜が素早く応戦した。
が、すぐ様に水姫の動きが止まる。
まるで、機械仕掛けの人形の寿命が尽きたかのように。
優夜も反射的に止まるが、次の瞬間、水姫は、彼女の手にあるナイフの刃先を、自身の首へと向けた。
「……! みーちゃん……!」
「ですから、早くしていただきたいのです」
はじめはうっすらと笑みを浮かべている。
でも、だからって、
友達が傷つくのは、いやだよ……。
鶉は、足を進めた。
「鶉!」
つばめは叫んだが、鶉は振り返らなかった。
唐沢兄弟は、ただ、見ている。
一は依然として変わらぬ表情。
優夜の前を通り過ぎた鶉は、水姫に近づき、
水姫を、抱きしめた。
「!」
光が、溢れた。
すると、水姫の手がだらり……と落ち、手からナイフがはずれた。
そして、口を開いたのだ。
「ほんとは……ハルに見て欲しかったんだ。……でも、ケンカしちゃって……素直になれなくて……なんで……だろう……?」
すると、鶉も、静かに口を開いた。
「……離れている時は、もっと優しくしよう、いたわってやろう……って思うのに、出会ったら出会ったらで…すぐに焦れったくなっちゃって、つい荒口を叩いてしまう。
そう考えると、距離を置けばいいのかな……なんて思ったりするけど、それも出来ないんですよね。
ますます気持ちは募っちゃって…… 愛情というのは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手から貰うこと。
心に湧いた感情は口にすればするほど、その思いを強くするから……だからね、2人とも……すごくお互いを大切にしてるんだよ……。
だから、きっとハル君は来るよ……ほら」
どんどん! どんどん!
「……なんだよ、あかねーのかよ! ……水姫、水姫! お前まだ中に居るんだろ!」
講堂の入り口である扉の外から、雁原春の声が響く。
水姫の目に、涙が浮かべられていた。
「意地っ張りで素直になれない王子様だって、純粋にお姫様を愛しているんだから……ね、だから、みーちゃんも……」
「………鶉……? ……あ、あれ?私、一体……」
「みーちゃん!」
水姫の目には光が戻っていた。
そして、彼女は、スゥ……と目を閉じた。
「案ずるでない、眠った」
つばめが、穏やかに語りかける。
それとは裏腹に、
「まさか……私の能力が……? ……コレが、聖なる大樹……。
………!」
一の首には、優夜のナイフが。
「チェックメイトだ」
一は少々驚きを見せた。が、すぐに冷静な顔つきになり、音を口ずさんだ。
「“朱に染まりなさい、時の能力者”」
その瞬間、優哉は自信の腕にナイフを突き立ていた。
流れる血。
「……?!」
優夜の足がすくんだのを確認した一は彼に向かって足刀を繰り広げ、講堂のかなり後ろの方にいる鶉達のところまで飛ばした。
「優夜! ……大事に至る前に、血を止めなければ……」
つばめが近寄った。
一は、安堵の表情を出す。
「ったく……やはり不自由ですね……。………あ」
ドッシャーン!!
講堂の天井を突き破り、床に降り立つは、片手に携帯を持つ、すみれ色の髪をサイドポニーにした1人の少女。
「雛乃……様……?」
「一! やっぱあんたはこういう超騒がしい場所じゃぁ、ダメね! ……わたしがやるわ!」
体中に電気が走っている少女。
それを見たつばめは、ユラリ……と立った。
「汝、前に我々の戦いを歯止めさせよった雷使いだな?」
「ふふっ……そうよ、私の能力は、『雷神』……!」
「ここは私が相手になろうぞ」
「構わなくってよ……体中、しびれさせてあげる……!」
雛乃のウインクと共に、閃光が、走った。
国士無双!!