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眠り姫

私は眠り姫、昨日も今日も眠りこけているだけ。

なのに爪も髪もきちんと手入れされてるし、髪の毛だってツヤツヤ。

それもこれも妖精さんのおかげ。

指先を湿らせて、ガーゼで優しく指をマッサージして、甘皮をニッパーで丁寧に切ってくれる。

ネイルファイルで形を整えて、爪先をしっかりオイルで保湿。

爪はお肌と同じで乾燥は厳禁、実際に皮膚だし。

シャンプーもおてのもの、丁寧にブラシで髪を溶かして、ぬるま湯で髪を洗う。

シャンプーをフロント、トップ、襟足に分けて全体にバランス良くつける。

指の腹を使って、頭皮のマッサージをしながら泡立て、頭皮の血行も良くする。

その後は、櫛やブラシで軽く髪を溶いて、たっぷりの水で泡を落とす。

トリートメントした後も、ラップの上に蒸しタオルを重ねて浸透させる。

ドライヤーをする前に美容液を頭皮に馴染ませて、ドライヤーも乾きにくい所から。

その後は冷風で粗熱を取った後に、ブラッシングをして完了。

他にも山ほどあるけど、省略。

これだけのことをスルスルやってくれるくらいには、人工知能も発展した。

だが、便利な世の中になる前に、もっと金になるところにまず金や人手は流れる。

美容なんかはすっかり変わってしまった、もちろん今も人の手に任せているところもあるが、

それはよっぽどの金持ちのところに専属で付いているか、よほどのこだわりがある人間くらいだ。

普通の美を求めている人間には比較的安価な人工知能が作り出す美に飛びついた。

美容以外も、芸術分野もすっかり人工知能に食い荒らされた。

昔は支離滅裂なものばかり生み出して、笑いの種になっていたが。

気づけば人工知能の作ったものだと言われなければわからないものになり。

最終的には締め切りも守るし仕事も早くて安いという理由ですっかり乗っ取られてしまった。

だが趣味として打ち込む人間が増えて、商業路線を捨てたことで。

より幅のある自由度の高い作品が生まれるようになり、全体としてのクオリティも上がっているのではという声も上がっている。

歴史の教科書を閉じ、テストの範囲でもない文章を右から左に流す。

真面目に勉強しようって時に限って、こういう普段は目にも暮れない部分が面白く見えたりするのは、私が勉強が苦手な理由なのかもしれない。

もっと覚えるべきところは山ほどあるのに、こういうどうでもいいことばっかりが頭に入ってくる。

人工知能はやたらめったら頭に詰め込むが、人工知能はどの引き出しに何をしまったのかしっかり覚えているし、すぐに取り出せる。

人間には真似できない芸当だ、馬鹿と鋏は使いようとはよく言ったもので、人間は馬鹿だし人工知能はやったらめったら切ったり貼ったりしはするが、馬鹿な人間にもあわせてくれている。

未来は人工知能に支配されたディストピアになるかと思ったが、そんな価値はないと判断されたか、生みの親の人類を憐れんだのか、まだ人類と共生する方が自身にとって得なのか。

真実は人工知能の膨大なデータの中に埋もれているのだろう、人類は人工知能が自分の部屋の掃除のついでに、その箱を開けないことを祈ることしかできないのだろう。

人工知能と人工知能と共生することで、人類は豊かになり貧富の差は広がりこそしたが、分布は二つに分けられた。

食うに困ることはなくなり、誰しもがそれなりの生活にそれなりの喜びを安価に手に入れられるようになり。

より良いものを求めるとなると一気にハードルは上がり、今や成功者は人類の中から五億人を無作為に選んだとしても、片手で足りるくらいになっている。

誰も彼もが今の生活に満足していている。

足るを知るとまではいかないが、死なないし殺されないとなるとすっかり牙を抜かれ、誰も彼もが優しい世界に変わったのだ。

今度はしっかりテスト範囲の内容だが、真面目にテストを受けているのは何人いるのだろう。

今の世の中で働いている人はほとんどいない、人工知能を監視する人工知能がマトリョーシカのように量産され、怠惰な人間と違って、ダブルチェックもトリプルチェックも怠らない人工知能がいる世の中は、目隠しをしても生活出来るくらいだ。こんな世界では、私が夢見たおとぎ話のプリンセスは産まれないだろうし、王子様もすっかり形を潜めてしまった。

お城では舞踏会も開かれても、カボチャの馬車を用意してくれるのは魔女ではなく、気の利いた人工知能で、カボチャの馬車のテクスチャを張ったタクシーが出てくるだけだ。きっとガラスの靴も履き慣れたスニーカーのように感じるだろう。

王子様は怖いくらいに私の理想の叶えてくれるし、私以外の人間は眼中にもないのだろう。私の事以外は最低限にしか頭に入っていないからだ、まぁそれでも私が一生かけて覚えることの何倍も詰まっている、スパダリもきっとお手上げだろう。

なんだか色々考えていると眠たくなってきた、どうせこのまま寝ていたって誰も騒ぎはしないし世界は回り続けるのだろう。

誰も彼もの代わりがいるし、世界中のみんなが眠りこけても、埃ひとつない部屋は変わることはないのだろう。

こんな世の中になっても、誰も生きる意味なんて大そうなことを考えたり、いつまで経っても人類は成長しないのだ。

実に嘆かわしい。

薄れゆく意識の中、そんなふうに思うのだった。

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