宇宙修学旅行直前学年集会
「え~、今日は来週に迫った宇宙修学旅行に関する諸注意を学年主任の鈴木先生よりしていただきます。注意して、しっかりと話を聞くように。それでは先生、よろしくお願いします」
「はい、2年生の皆さん、こんにちは。先程、佐藤先生より説明があった通り、来週の今頃には皆さんは宇宙へと飛び立っている所だと思います。ひょっとしたら既に家族で宇宙へと出掛けたことのある人もいるかもしれませんが、これだけ大人数での旅行、集団生活は全員初めての経験になるでしょう」
「そこで気をつけていただきたいことをいくつか、皆さんにお伝えします。さて、まずはこの7泊8日の旅行ですが、どうして夏休みに行うのか分かる人はいますか?」
「はい! 時間の流れる速さが宇宙船と地上では全く異なるからです!」
「その通りです。皆さんが今回の修学旅行を終えて戻ってくる頃には、既に夏休みは終わっています」
え~~という生徒達の残念そうな声があちこちからあがります。
「静かにして下さい。だからこそ、充実した実りある修学旅行にしようという高い意識を持って臨まなければなりません。それに、この旅行はあくまでも授業の一環ですから、夏休みの宿題は特別に免除されます」
今度は浮かれた歓声と拍手が沸き起こりました。
「はい静かに~。私語は慎むように。今、皆さんは宇宙史や地理、道徳の授業の中で修学旅行先の歴史や文化について学んでいるところですね。それではシハカタ星で絶対にやってはいけないポーズにはどんなものがありますか?」
「はーい! 右手の人差し指と左手の薬指を交差させて、右足を前に突き出したまま左足だけで立って、首を右に傾けたまま左目を閉じて口を半開きにするポーズです!」
「よくできました。このポーズはウトィといって、シハカタ星では相手を侮辱する非常に失礼な行為です。三年前には観光客が制止されても言うことを聞かず、繰り返しツアーガイドにウトィし続けたとして、20年の懲役刑を科せられる事件がありました。皆さんもくれぐれも注意してください」
「先生! でも、私達だって、よく異星人から差別的な言葉を掛けられたりしますよね? なんでこちらだけ我慢しなきゃいけないんですか?」
「人類史の授業で、私達の先祖が何をしてきたか習ったでしょう? 勿論、あなた達が直接何かをしたわけではないのですから、間違っているのは彼らの方です。当然、咎められるべきですし先生達も抗議をします。ですが、くれぐれも挑発に乗らないようにして、口論や暴力行為に繋がるような軽率な行動だけは控えるようにしてください」
「はーい」
「……また、自由行動時間でも決められたエリアからは出ず、団体行動を心掛け、集合した際には必ず点呼を行ってください。万が一はぐれたまま次の星に出発した場合、数日から数十年の間、たった一人で迎えを待たなければなりませんよ!」
脅しではなく実際にそういった事件が数年に一度ニュースになっているからこそ、生徒達は緊張した面持ちになりました。
「ここまでの話で、何か質問がある人はいますか?」
「はい、先生! バナナはおやつに入りますか?」
「バナナのような超高級食材がおやつなわけないでしょう?」
お調子者でクラスのムードメイカーの渡辺君の質問で、空気が少し和みました。鈴木先生も口元を緩めていましたが、軽く咳ばらいをして説明を続けます。
「今回の旅行の最終目的地は、皆さんがよく知っている地球です。ここがどういった惑星か、知っている人は?」
「はい! 私達の先祖が数百年前に暮らしていた惑星です!」
「そうですね。ある歴史家は『かつて地球は青かった』という言葉を残しています。水の惑星とも呼ばれていた地球ですが、全ての海は涸れ果て、草木も生えることのない荒れ地となり、現在でも深刻な放射能汚染のため、残念ながら地上に降り立つことはできません。ですが宇宙遺産にも指定されている地球を間近で見学してもらうことで、皆さんに平和の大切さと戦争の愚かさを学んでもらいたいと思います」
「「「はーい!!」」」
人類第二十六番植民星であるトモマヤ星第七小学校の生徒達は揃って元気よく返事をしました。




