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18話 新居探しが出来るだろうか2

 僕は荒屋敷さんに事情を聞こうと、ポケットから携帯端末を取り出した。瞬間、荒屋敷さんから連絡が入る。あの人本当は近くで見ているんじゃないだろうか。そう思わずにいられないほどのタイミングだった。

「二人が新居探しを手伝いと連絡があったので任せたよ☆」と書いてあった。

 

(いや、絶対に二人がいる前で「風太の新居探し手伝わないと」とか言って、デートの口実を誘導したんだろうな)


 なぜこの結論に至ったかというと──白金、皇さんの両方からデートで、「どこ」で「なに」をして過ごせばいいのか。と数日前にも相談されたのだ。

 思わず「哲学か」と双方にツッコみを入れたのは記憶に新しい。二人とも恋愛に関しては、壊滅的だった。半年のスパンもあったことで余計にこじれてしまっているのだ。


(結局、デートでどこに行くか決められず、現状に至るというわけか……)

「昼川君、待った?」

「ううん……(というかそういうセリフは、待ち合わせしている婚約者に言ってあげてください、本当にマジで! あの人めっちゃ睨んでいるから!)」

「…………」


 しゅっ、と何かが背後に回った。

 同時に背後から鎌鼬のような風が巻き起こる。今のは、眼鏡をしていてもなんとなくわかった。絶対に白金が蛇を使って僕に襲い掛かり、影にいる白李が守ってくれたのだ。たぶん。


(祀戸駅到着早々に、なんでこんなことに……)

『フウタ。あの蛇、殺意なかったけど黙らせるか』

「気持ちは嬉しいけれど、やめて。甘いもの食べるんだから、暴れるのは無しで。ほんとに」

『そうだった。……うむ、では大人しくしておく』

「そうしてもらえると凄く助かる」


 白李が思いとどまってくれた本当に助かった。こんな所で妖怪大戦争なんて絶対に起こしてはいけない。それに白金は、婚約者の皇さんに対して過保護すぎる。これだと大学に入って真っ先に彼女は孤立しかねない。


「総一郎さん。私のお友達にちょっかいを出すの、やめてください」

「まさか。私は挨拶をしようと思っただけだ」


 白金は能面のような顔で一ミリも表情が動いていなかったが、優しい声音で皇さんに話す。しかし彼女は頬を膨らませて百八十もある白金を睨んでいる──のだろう。全然怖くない。むしろ可愛さが増した気がする。白金の心の声がこちらにまで聞こえてくるようだ。


「あの……。皇さん、荒屋敷さんから今メールを貰ったんだけど、今日一日、僕の新居探しを手伝ってもらって大丈夫なの?」

「大丈夫です! ね、総一郎さん」

「ああ」

「……僕よりも二人でデートをしてきたら?」

「「で、デート!?」」


 皇さんと白金が声を揃えて驚愕の声を上げた。婚約者なら別段珍しくないことだと思ったのだが、二人とも妙にそわそわしている。


(──というか、白金には自分からデートに誘うようにアドバイスしたのに、一ミリも活かしてないじゃないか!)


 ジロリと彼を睨んだが、無表情のままだ。僕は伊達眼鏡を外すと、白金の影にいる白蛇に視線を向けた。彼らは「主、頑張ったけど」「デートについて辞書引き始めた」「へるぷ」とテロップを見せてきた。おそらく先ほどの不可視の攻撃──めいたものも、何らかのサインだったのかもしれない。


(喋れよ! なに眷族をサイン代わりにしてんだ、あの人!)


 眩暈を覚えたが、まだ何もなしていないのに倒れるわけにはいかない。いや、本当に。


「恋人で婚約者ならデート旅行なども普通なのでは? 大学も始まる前で時間もあるでしょう」

「デート旅行!? はわわわ……。遠出なんていつ以来でしょう。それでなくとも総一郎さんはお仕事でなかなかお会いできず、デートもまだだというのに……。で、でも、デート旅行とは良い響きです」

「デート旅行! そうか、その手が……。仕事ばかりをしていた私は、彼女をどこに連れて行けばいいのかいつも悩んでいましたが、旅行なら観光名所というものがありますし、会話も前よりは、弾むはず」


 本音が駄々洩れである。しかし二人とも同じことを思っているのだろうが、まったく相手に伝わっていないようだ。


(この二人、お互い両思いだけれど、なんだろうこの恋愛音痴感……)

『似た者同士。類は友を呼ぶ』

「(白李は、慣用句まで覚え始めた。そのうち四文字熟語もマスターするんじゃ?)まあ、そんなわけで不動産屋に案内してくれれば大丈夫だから、二人は旅行デートについて相談したらどう?」

「そ、そうですけれど、旅行デートの勝手もわかりませんし……」

「そうだな。ガイドがいるでは?」

(デートにガイドなんていないからな。──っていうか、なんか嫌な予感がしてきた……)


 すでに二人とも「デート旅行」を想像しているのだろう。想像するぐらいなら、二人で相談すればいいのだろうけれど。そこには至らないようだ。


「デヱトというのに興味がある。拙も体験をしてみたい!」

「まさかの参戦!?」


 傍観していたのも限界だったのか、影から美女が飛び出す。

 黒のフォーマルスーツに、長袖のカジュアルなシャツ、パンプスだがヒールは五センチと高めだ。赤紫の長い髪も軽く一つに結っている。しかも髪留めには黒のシュシュまでつけているではないか。銀のイアリングも控えめだがお洒落である。

 ピシっとした姿は有能な敏腕秘書っぽい。というかその服はどうしたのだろうか。やけに気合が入っている。


「白李が、超絶気合いを入れている」

「アラヤシキが今日のために事前に準備していた」

「僕、何も聞いてないんだけど!?」

「サプライズと、言っていた。これなら二対二でダウトデヱトとやらが出来る」

「ダブルデートだから。まあ、確かに三人よりはいいかもしれないけど……」


 ちらりと皇さんと白金に視線を向ける。


「メインは新居探しになりますが、お二人はそれでもいいですか?」


 皇さんは「ダブルデート」と目を輝かせ、白金は「さっさと行くぞ」と急かす。ちなみに表情は一ミリも変わっていない。ただ眷族白蛇は「ぐっじょぶ」「主、喜んでいる」「ありがとう」とテロップを持ち替えている。なんて良い眷族たちだろう。ちなみに皇さんの狐も似たようなテロップを出していた。本当に息ピッタリなのだが──恐ろしく恋愛ぶきっちょだ。


(新居決まるだろうか……)


 合流して五分で精神的に疲れたが「僕たちの新居探しを手伝ってくれるのだから」と堪えた。それにしても偉丈夫(イケメン)と美女というのは目立つ。駅前だというのもあるが、そろそろ周囲の視線が痛くなってきた。


「あの今日の予定について打ち合わせをしたいのですが、ここは周囲の目があるので近くのカフェに行きませんか?」

「ふん、普段ならそのような庶民的な店になど行かないが、致し方がない」

「カフェ、ずっと行ってみたかったんです」

「メロンクリィムソオダというメニューがある店がいい」

(……今日一日大丈夫かな)

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