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9話 青天霹靂はいつだって唐突に

 ***



「蛇は無理ぃいいいいい。──って、あれ?」


 僕が飛び起きると、そこは地下駐車場のような場所ではなかった。真っ白い天井に仕切りのあるカーテン。次いで消毒液の匂いが鼻腔をくすぐる。保健室、または病院だろうか。


(もしかして、蛇の後気絶して──ここに運び込まれた……とか? どっか嚙まれてたり──はないようだ)

「あー、すまんな」

「うっわ!?」


 ベッド傍の椅子に男が座っているではないか。声をかけられるまで気配とか全く感じられなかった。

 服装は唐草模様の着物に、片目は鍔の眼帯をしている。その姿を見て伊達政宗(独眼竜)の姿を彷彿させた。なぜ伊達政宗なのかと言われると、雰囲気とか貫禄的な部分も武将っぽいからだ。


「その眼帯、日本刀の鍔に似せて作っていますけど、かなり軽めに仕上げていますね!? しかも木瓜形で金の細工も施されていません?」

「ん、ハハハッ。初対面で鍔の事を褒められたのは初めてだよ。なるほど、聞いていた通り、面白い少年だな」

(聞いていた通り? 誰に聞いたんだろう)


 僕が小首をかしげると、男は愉快そうに笑っている。雰囲気からして堅気とは思えないが、人懐っこい笑みを見る限り悪い人には見えなかった。


「ワシは荒屋敷というものでな。まあ、この学校の理事長をしている」

「りっ、理事長!?」


 思わず起き上がると、ベッドの上に正座した。すると「楽にしていい」と言われたので、胡坐をかいて座り直す。

 どうして僕がここにいるのか──などの経緯を話してくれるのだろう。あの白金って人よりは話が分かりそうだと、直感で思った。そしてその予感は正しかった。


白金(アレ)は、婚約者にベタ惚れでな。近づこうとするものに対して、威嚇的になってしまうのが玉に傷なんだが」

「婚約者?」

「お前さんにお守りを渡したのはワシの孫だ。で、その孫は白金の婚約者でな」

(ああ、だからあんなに激昂していたのか)

「それにどうやら八咫烏の報告を鵜吞みにしたようだ。それで白金の奴が勘違いしたんだよ」

(元凶はアイツか。次会ったら一度締めておくか)


 僕は意識を失うまでの出来事を思い返す。

 厄介なことに巻き込まれて、『高天原機関』の拠点である大学に連れていかれた。それから地下駐車場のような空間で、白金に問答無用で、蛇に襲われたのだ。そこで記憶は途切れている。目立った外傷もないのは先ほど確認した。荒事になる前に荒屋敷さんが止めてくれたんだろうか。そこまで思考すると、白金があんなに怒っていたのか──その答えを確認するため言葉にする。


「……えっと、つまりあの受験会場の女の子と、白金さんは恋人関係だったとか? それで僕がお守りを持っていたことに不審がっていたので、攻撃をした──ということですか?」

「いかにも。もっというと二人は婚約者同志で、幼馴染でもある。あと孫にベタ惚れでな。孫に近づこうとする者には、君と同じようなことをやっている」

「うわぁ。……ちなみにそれって見えていない人にもですか?」

「むろん。見えていようといなかろうと関係ない」

「やばいですね」

「やばいだろう。まあ、そんな血も涙もない冷血漢なのだが、孫に対しては溺愛が駄々洩れでな。孫もなんだかんだ言って、白金に惚れているので──いいボディーガードと思って居る。……少々やり過ぎだが」

(いや、どう考えても傷害罪レベル!? ……っていっても、証拠とか無理そうだけど)


 あの冷徹非情男が惚れていると聞いてもどうにもピンとこなかったが、本気で婚約者のことを思っていることだけは伝わってきた。


「じゃあ、あの白蛇は完全に八つ当たりだったのか……」

「お前さんたちが無害かどうかの判定を行ったのは事実だから、まあ三割仕事、残りは私怨といったところだろうな」

「七割私怨って……。全然記憶がないのですが、なとか生き残っているということは──合格ということですか?」

「まあ、そうなる。だがお前さんにはヨクナイモノたちはもちろん、この界隈での知識などが乏しいようなので、『仕事』をこなしてもらう前に、その辺の知識はワシが師として手ほどきをする事と相成った」

「師!?」

「不服かね?」

「あ、いえ……」


 話がトントン拍子に進む。この既視感は以前にもあった。その時は祖母ちゃんの知り合いの人で、僕にいろいろ教えてくれた人でもある。師と呼べる人といえばその人だ。もっともその人は怪しげな商売に足を突っ込んでしまい、今は音信不通ではある。

 僕と関わることで、何か面倒なことになるのは避けたい。

 僕の表情を見てか、荒屋敷さんは何か察したようだった。


「人だろうが何だろうが、落ちる人間は落ちる。最後の引き金は詰まるところ自分だ。聞いていた通り、お前さんは本当にお人好しなのだな」

「そんなことは……ん? 聞いていた通りって……」

「ああ、こっちの話だよ。まあ、だからあの子も放っておけなかったのだろう。人見知りのあの孫が、勇気を振り絞って同世代の子に話しかけたのが、なんとなくわかる」


「はあ」と僕は生返事を返した。

 とにもかくにも『高天原機関』に加入したこと。それによって僕や鬼神様の安全の保障、そしてこの界隈の知識、付き合い方。その見返りとして僕の能力に見合った『依頼』をこなす。もっとも依頼そのものは、ある程度の知識を詰め込んでからということで、そう無茶苦茶なことはさせないようにすると言ってくれた。


(あのお守りを貸してくれた子には、今度改めてお礼を言おう)


 ふと僕は鬼様の存在を思い出す。地下駐車場までは一緒だったはずだ。

 彼も『高天原機関』に加入した話は聞いたが、ここにいないということは別行動なのだろうか。

 

「あの、僕と一緒にいた鬼神様はどうなったのですか?」

「さっきから、ここにおるだろう」

「ん?」


 僕の影から二メートルはある巨体が姿──ではなかった。外見こそ黒いスーツ姿の女人で外見は二十代の大人の女性が目の前に現れた。誰だこのクール系美女。ほっそりとした体つきに豊満な胸、くびれのある腰回り。すらっとした手足。赤紫の長い髪を一つに結んでおり、近くだと花の甘い香りがする。


(せつ)はここにいる」

「一人称まで独特! って、じゃなくて、え? 鬼神様?」

「そうだ」

「ええええええええええええええ!?」

「お前さんの影を媒体に実体化が出来るようになった。まあ、この界隈は危険なこともあるので、ボディーガードと思ってくれればいい」


 話がついていけず、荒屋敷さんの言葉が右耳から左耳へと通り抜けていく。


「フウタ、不束者ですが、よろしくお願いします」

「はあああああああああああああ!?」

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