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メルセルヴィーテ帝国の裏歴史  作者: 木月橘
2.皇太子の黒歴史
7/19

②後編




「待って下さい! それは罪から逃れる為の嘘ですよね?」

「嘘?」


 突然のレインスとアリアドネのロマンスに呆けていたマイルが大声で人々の注目を戻した。

 また一歩アルベルトが離れていることに彼女は気付いていない。

 おかしいな。アルベルトは考えた。おかしい。昨日までのマイルと本当に別人だ。あんなに慎ましやかで大人しかったのに、間違ってもこんな大声を出すような人物ではなかったのに。発言内容も先程から頭が悪過ぎるものばかりだ。


「本当はアル様が好きなんでしょ! だから私が憎くて、でもこうして皆に知られたからって嘘で他の誰かに罪を擦り付けて、無かった事にするつもりなんでしょ!? そんなの許されませんよ!」

「不思議だわ。ねえ、マイル様? どうしてそんなに私が皇太子殿下を慕っていると思い込まれているのかしら?」

「ど、どうして? どうしてって……だって、本来はそうだった筈なのに……。彼は貴女の婚約者だし、それに皇太子だから……だから貴女は拘っていた筈よ」

「皇太子の地位にある御方だからとは、それはつまり『そんな方の婚約者は必ず彼を慕っている』と言う決め付けではありませんか? その地位には敬愛の念を捧げましょう。けれど、個人としては別です。マリーウェザーという一人の人間として、アルベルト様個人を慕うのは無理があります」

「また無理って言われた……。いや、なんで? 本当になんで?」

「もー、なんでこんなに違うの? アル様以外は落ちないしアル様も完全とは言い切れないし……おかしい。なんかおかしい……」


 マイルの変化に気を取られていてうっかり聞き逃しそうになったが、今マリーウェザーはとんでもない事を言ったぞ。アルベルトは聞き逃さなかった。


「好きになれる要素がありません」

「好きに」

「なれる」

「要素がない、だと……?」

「絶対おかしい絶対おかしい絶対おかしい。え、あれマリーウェザーよね? マリーウェザーで間違いないわよね? なんで? なんでなんでなんで? ここに来てあまりにも違う。違い過ぎる……。いや、元からなんかおかしかったけどさ」

「では逆にお聞き致します。どなたがお答えになられても宜しいですよ。彼のどこに私が好む要素がありまして? さあ、お答え下さいな」

「え。割と酷いぞ、この台詞」

「ちょ、待って下さいこっちに振らないで」

「こういうのはこの茶番を仕掛けた人達に聞くものでしょう。マリーウェザー様、壇上の皆様へ向けてどうぞ」

「はい、では側近の皆様方どうぞ!」

「え、あ、いや、そんな事を急に仰られましても……」


 どんどん想定外の展開が怒涛のように押し寄せてきて、何だかもう訳の分からないことになっている。

 どうしてマリーウェザーがアルベルトのどこを好きか当てるゲームなんて始まったのだろう。本人が好きではないと言っているのだからそれで良いではないか。いや、駄目か。それはいけない。

 あれ? さっきから何やら一人ぶつぶつ言っているこの男爵令嬢が全部悪いんじゃないか? なあ、このギリギリ貴族、人間としてはアウトじゃないか?


「頑張れ、頑張れ。諦めんな、頑張れ!」

「考えて! 絞り出すのですよ!」


 外野から変な応援が飛んでくる。なんだこれ。ここは地獄か。


「お前、なんか思い付く?」

「普段ならもう少し何か思い付く筈なんだが、何だかさっきから頭が回らなくて……」

「分かる。なんか凄い疲れた」

「おい、お前達……何も無いのか?」


 プレッシャーをかけてこないで下さい皇太子殿下。


「あー……、あ、あ! そうだ、ご尊顔! 皇太子殿下はとてもモテるんですよ。世論調査で『国民が選ぶお顔が良い王侯貴族』にて、堂々の第一位を三年連続で受賞。殿堂入りしております。外交でお会いする方々も皆が認める整ったお顔立ちです」


 こら、そこ。顔だけ番長って言うな。顔だけって。


「可も無く不可も無く。ちなみに私の好みは第四騎士団長のような方です。証拠は私の部屋の向かって左から二番目の本棚の、上から二段目にある帝国騎士団特集誌と世界俳優名鑑です」

「ちょっと待って今なんて? なんて? それ個人的にどっちも凄い見てみたい。なあマリーウェザー、書名もっかい言って?」

「複数購入しておりますので、後日、冊子を献上致しますわ」

「おー。ありがとう。いやあ、楽しみだなあ。俳優名鑑? って女優も載っているのか?」

「勿論。子役までばっちりです」

「それはいい! 先日観た舞台の『亀の逆切れ』ってあっただろ? あれに出演していた母親役の女優と舞台の隅でただずっと立ってこちらを見ていた子役が気になってな」

「え、何それ気になる」

「なんかもうタイトルからして何もかもが気になる」

「子役に何があったの?」

「え、そういう役なの?」

「ああ。それならあの子役のデビュー作ですからね。その子の巻頭インタビュー付きですよ」

「素晴らしいな。協賛したい」


 何を楽しみにし始めている、この皇太子。と言うか、この二人めちゃくちゃ仲良くないか? 今は婚約破棄するかしないかの瀬戸際だぞ。家族か。お前ら既に家族だろ。

 ずっと頭痛が止まらない側近達に謝ってほしい。


「なあなあ、第四騎士団長って? どんな?」

「んー、見た事無いなあ」

「僕あるよ。目が細くて男らしい感じで……中性的な殿下とはタイプが違うかな」

「ごつごつしたザ・男! って感じまではいかないけど、女性っぽさってか綺麗って感じはまるでないよな」

「そうそう。殿下は女装しても男性にしか見えないのに綺麗だろうし見てみたいけど、第四騎士団長の女装はちょっと本当に本気で勘弁してほしい」

「第四ってあれだろ、生まれ育ち問わない騎士団だよな? そこの騎士団長……確か割と地味な顔立ちだったような」

「そうそう。むっちゃくちゃ強いけど華やかさは無いな」


 思わぬ所で要らないディスりを受けた第四騎士団長に、幾人かは心の中で手を合わせた。御愁傷様です。


「はい、次」

「ほら。俺は言ったぞ」

「うわっ! 困ったな」

「おいこらお前、私の側近だろうが。絶賛しろよ」

「そんな無茶な! えええ……うーん。あ、じゃあ頭脳とか! これでも中々の手腕ですよ。特に外交。今は世界大戦になるかならないかの瀬戸際ですが、うちの皇太子殿下が外交に出始めた途端に和らぎましたからね。何故か人の心を掴むのが上手い」


 思っていたよりもまともな事が言えて側近は安堵した。しかもこれは事実である。

 だが、マリーウェザーは小さく溜め息を零した。


「個人的には、平凡だから微かに得意な事を必死に努力して何とか生きている方が好きです。証拠は例の本棚の上から四段目にある私の愛読書達です。全てのヒーローが基本的にやたらと残念です堪らん。何あれ堪らん。ちなみに初回限定版と通常版、それに重版の度に書籍を購入しておりますので同じ物が何冊もありますが、初回限定版にだけは触れたら許さない。許さない。許さない許さない許さない」

「え、怖い。急にどうした。何かに取り憑かれたのか? 先月観に行ったサーカスの司会みたいだぞ」

「あ、分かります? ちょっと意識しました」

「お。やっぱり。似てた似てた」


 だから仲良しか。こいつら本当に婚約辞める気あるのか?


「凄い分かる。無能過ぎて愛おしいあの瞬間のトキメキ……」

「努力して努力して一瞬で叩き潰されるとか萌えるしかない」

「そこの貴女達、いずれ語らいましょう」

「是非」

「はい、是非」

「そこ。新しい友情は後で育んでくれ」


 しかも好みが偏り過ぎている。

 彼女らは身悶えているが、努力が実らないところが愛おしいとか愛されている側は泣くぞ。泣くくらいで済めば良いけれど。


「はい。では、次。……ああ。せっかくですのでマイル様にお伺いしましょう! 恋人の惚気を是非どうぞ!」

「ええ!? え、ちょ、え……お、お優しいところ」

「婚約してから十年、毎年贈り物は誕生日のみ。皇室御用達店から定型文が印字されたメモ一枚と共に、私の好みどころか似合うかどうかの配慮すらないその年の流行りのドレス一式。毎年サイズ合わせが大変です。優しさとは」

「うわ……」


 皇太子のまさかのプレゼントに会場がドン引きした。これはない。


「だって、一緒に出掛けた先で私が選ぶもの選ぶもの片っ端から否定するじゃないか。プレゼントするのが怖くなる」

「呪われそうなお面やら異臭を放つ干物を選ぶ皇太子をどう褒めろと」

「うわ。何それ酷い。……あ、しまった。違う違う。待ってよ待ってよ、えーと。えーと。えっと……やだ、どうしよう。んんんんん……あ! 声、声はどう!?」

「ああ! 確か『国民が選ぶイイ声選手権』も声変わりされてからどんどん順位を上げ、今や堂々の第一位! 来年には殿堂入りも確実ですね」

「わかる〜〜。私も声は良いと思う。声は」

「わかる。声は」


 マイル男爵令嬢がとてもとても必死に捻り出したアルベルトの良い所だったが、これもまたマリーウェザーは溜め息を零しつつ首を横に振った。


「少々低過ぎます。一部ではバリトンと持て囃されていますけれど、個人的には門番のフィルアス様くらいの低さが好ましいです。たまに掠れるのが良いですよね。証拠は例の本棚の二段目、先程挙げた俳優名鑑等と並べてある『声フェチの為の世界美声持ちコンテスト』です。お気に入りリストも毎年のように作成しておりましてよ」

「…………なあ、マリーウェザー」

「複数購入しておりましてよ」

「貰ってもいいか?」

「先程の冊子とまとめて献上致します」

「やった!」

「やだちょっと何それ私も見たい」

「なんだそのコンテスト初めて聞いた」

「私も持ってるあれは堪らん」

「ヤバいどうしようかつてないほどマリーウェザー様と語らいたい私も私ベストを毎年作ってる」

「そこの貴女達。後日、我が家へ。語らいましょう」

「是非! マイベストを持参してお伺い致しますわ」

「これは……どうしましょうかね、皇太子殿下。マリーウェザー様は冤罪の可能性が出て来ましたよ。ね? ね?」


 だから言っただろこの皇太子。何考えてやがる。


「あんなに意気込んでいらした割にはお粗末な断罪ですね……。結果的に殿下に加担した事になるのかなあ、これ。己を呪殺したい。もう俺は終わりだなんでこの人の側近やってんだろなんで生まれて来たんだろごめんなさい父上母上」

「でも父上母上も悪い俺は相談した、大人が出て来てくれないともうどうしようもない所まで来ているから何とかしてくれってちゃんと言ったし皇帝陛下にも毎日毎日毎日毎日毎日毎日報告書を上げた」

「終わりかなあ」

「終わりかもなあ」


 アルベルトの側近二人は遂に心の声を包み隠さず溢れ出させた。人はこれをヤケクソと言う。


「皇太子殿下、何をうきうきしているのですか。これでマリーウェザー様が貴方を欠片も好きではないとはっきりしましたよ」

「え、何それ凄いショックだ。男として好ましくないとか終わってる」

「それは良いんじゃないですか? とりあえずは安心して婚約を解消してマイル嬢と新たな婚約を」

「良くない! 婚約を破棄しようがマリーウェザーは私のものだ」

「アル様!? 私だけを愛して下さらないの!?」

「いや、男爵令嬢が皇后とか無理だし。皇妃すら無理だし。そしてうちの国の守護神、一夫多妻システムめちゃめちゃ嫌いだから他国みたく側室とか愛妾すら無理だからな」

「なんですかそれ!? それならどこか高位貴族に養子にしてもらうとか色々あるじゃないですか! こんな展開もシステムも、ゲームじゃ一回も無かった!」

「は? ゲーム? お前、皇太子殿下を賭け事の対象にしていたのか!? 不敬どころじゃないぞ!!」

「え、ちょ、ちがっ」

「ええい、引っ立てい! 引っ立てい!! この者を早く会場から連れ出してくれ本当にこいつのせいでもう俺は終わりだ終わりなんだちくしょうてやんでいっ」

「……なんであれが良いと思っていたんだろうな、私は」


 アルベルトは大きく溜め息を吐いた。

 昨日までは確かにアルベルトの好みそのものの令嬢だったのに、今日は人でも違うかのように別人だ。なんだこれは。詐欺だろうか。

 いや、ハニートラップか。引っ掛かってしまった。恥ずかしい。


「どうしますか、皇太子殿下」

「無理だな。婚約は破棄しない。やはりマリーウェザーが皇后だ」

「うえ〜〜」

「めちゃめちゃ嫌がられてる」

「そりゃそうでしょうよ。冤罪被せられそうになった挙げ句に婚約破棄からの撤回。不誠実な婚約中の態度。浮気。元々好意は無かった所にこれだけの暴挙を重ねて、それでもまだ敬愛はしてくださっているだけでも御の字でしょう。女神ですよ」

「と言うか、その心変わりは普通に最低です。クズです。下衆です。軽蔑されますよ。してますよ」

「よくもまあ守護神に叱られなかったものですよ。マリーウェザー様に感謝してください」

「もう少しオブラートに……」

「包みません。反省して下さい」

「はい」


 かつてない程の遠慮の無い物言いをする側近達に気後れして、そして十二分にやらかしている自覚のあるアルベルトは素直に頷いた。

 ちょっと人前でかっこつけてみたかったじゃ済まない、これは。なんでやらかす前に冷静になれなかったんだろう。


「うーん……マリー。私との婚姻は嫌か?」

「嫌かどうかで言えば、この場にある割れ物全てを頭突きで割りたいくらいには嫌ですね」

「うん。まるで訳の分からない例えだが物凄く嫌だと言う事は伝わってきた」

「凄まじく嫌です」

「オブラートが消えた」


 これはいけない。彼女は本気だ。 


「白紙撤回になりませんか? 皇太子殿下との婚約はそもそも無かった事になりませんか?」

「本当に物凄い拒否られている。……うーん、ちょっと、いやかなりショックだからちょっと待って。数日貰ったら今のこの気分も多少は晴れると思うから、そうしたら君の新しい婚約者を見繕おう。婚約の解消も陛下と話し合ってみるよ」

「きた! 婚約! 解消! やった。遂にやりましたわ、マリーウェザーはやり遂げた……」

「凄い喜んでる〜悲しい〜。ちなみに、相手の好みは?」

「好みと言いますか、お慕いしている方がいますので許されるのであればその方が良いです。あ、ちゃんと婚約者や交際相手がいない事は確認済みですよ」

「なんでもう次を見繕ってあるの?」

「何度も浮気をする殿下が遂に婚約破棄をしようとしていると小耳に挟んだのでこれ幸いとはしゃいだ結果です」


 誰だ。アルベルトの計画をマリーウェザーにバラしたのは誰だ。いつだ。いつバレた。

 レインスは……違う。ちゃんと見張っていた。

 そのレインスはいつの間にかアリアドネと手を握り合っている上に見詰め合っている。あれはどさくさに紛れて人々の注意がアルベルト達に集中している間にプロポーズでもした雰囲気だ。

 アルベルトは羨ましくて歯を食いしばった。


「もうダメ泣きそう」

「よしよし。大丈夫、それは只の身内に対する独占欲ですよ。ちゃんと好きな人は他にその内できますし、皇后に相応しい人も見付かりますよ」

「……そうかな」

「そうそう。大丈夫ですよ、大丈夫」


 とても身勝手だが、それでもアルベルトはとても悲しかった。婚約を解消したらもうマリーウェザーにこうして大丈夫だと背を擦ってもらう事も無いだろう。

 この手の温もりにいつもとても安心していた。いつもこうして励ましてくれていた事をようやく思い知った。

 当たり前にそこにあったから自惚れていたのだろうか。

 これからも共に歩むものだと思い込んでいたマリーウェザーとの未来は潰えた。潰したのは他ならぬ自分自身だ。反吐が出る。


 取り戻そうにももう遅いけれど、それでもどこかで少し肩の荷が下りた気がしているのは、彼女の心が自分に無い事を無意識に感じていたからだろうか。

 アルベルトの初恋はマリーウェザーだった。でも、一度としてその想いを受け入れられた事は無かったし、前述の通り他に恋人を作っても見向きもされなかった。

 言えば良かった。

 かっこつけて隠していたがきちんと好きだと言えば良かった。アルベルトはちゃんとマリーウェザーが好きだった。

 ただし、だからと言ってやって良いことと悪いことがあるのは思い知ったばかりだし、嫌というほど脳髄に刻んだ。


「ちなみに、お前の想い人は誰だ?」

「門番のフィルアス様」

「まさかの再登場」

「誰だっけ、誰だっけフィルアス様。誰かわかる?」

「え、分かんない」

「子爵家の次男だぞ!? 正気か?」

「あ、殿下が知ってた。すげ」

「男爵家の庶子に現を抜かしていた殿下にだけは言われたくありませんね」

「それはそうだけど……ほぼ平民になるんだぞ?」

「掃除洗濯等の家事や炊事、市場でのお買い物から井戸端会議まで経験済みです。出来ますよ」

「逞し過ぎる。いやな、でも君には外交を担って貰いたいんだ」

「あはは。無理」

「三度目の無理っ!!」




 後日、門番勤務の王宮一般兵と皇太子殿下の元婚約者のご令嬢のお見合いが、皇帝陛下と皇后陛下と皇太子殿下の尽力で開かれ、とある子爵家の次男は何が起こっているのか理解する前に美しい婚約者を手に入れた。

 訳が分からぬままひたすらに「なんて?」や「待って?」等と繰り返し、マリーウェザーをとことん身悶えさせた。


 娘が平民も同然となる事に猛反発したマリーウェザーの父である公爵が、皇太子の持つ爵位を一つぶん取って娘婿に授けた話は、その場に居た者達だけが知る機密事項である。

 本来ならば有り得ない事だが、公爵令嬢が外交をする上で必要な地位の為でもあったので、結局は無理やりな美談と作り話を皇家がでっち上げて成立した。


 尚、皇太子殿下を惑わせ公爵令嬢を貶めようと画策した男爵令嬢は、家諸共それ相応の処罰が下ったらしい。

 詳しい沙汰には誰も興味を示さなかった。

 誰もが独特過ぎるマリーウェザーの趣味でいっぱいの本棚に興味を惹かれたからだ。彼女の本棚に誰もが興味津々だった。

 忘れ去られるように一つの男爵家が潰えた事だけは確かだが、そう言えばそんな令嬢も居たな程度の認識である。最後まで何か訳の分からぬ事を必死に叫んでいたらしいが、存在を認識すらされないとあらば一人で何を言っても無駄だ。




 以上が皇太子アルベルトの黒歴史である。


 この皇太子殿下の黒歴史は後々まで密やかに貴族間で語り継がれた。婚約者を蔑ろにしたり、婚約者がいる者に近付く輩は得てしてろくでもないと言う教訓だ。

 とりわけ皇族は子々孫々に強く、何度もこの話を聞かせ、己の伴侶とは必ず誠実に向き合えと何度も教育される事となった。


 アルベルト皇太子本人は二度と同じような愚は犯すまいと精進した事だけは明記しておく。

 大丈夫。

 彼だって反省も努力も出来るのだから。たぶん。きっと。そうだと良いよね。




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― 新着の感想 ―
[一言] 公開婚約破棄狙ったら公開処刑されました いやアルベルトはよくこれだけやらかしていながら次見つかったな
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