004 異世界
「ここが・・・、異世界・・・」
「普通の森、ですよね・・・」
ユウェル様の空間から戻った僕達は、ゲートに吐き出され、気が付いたら森に立っていた。
目の前には黒い髪をした例の少女が。
「あ、髪の毛元に戻ってる!」
「ほんとですね。でもなんでだろう・・・。あ、瞳の色は青のままですね」
「あれかな、魔法を使ったり本気を出したりすると白くなるのかも!」
僕の天才的ひらめきを聞いた彼女は少し引いた様子で、苦笑した。
そういえばまだ自己紹介してなかったな。
「僕は叢雲癒良夢。高3で18歳、昼寝とかダラダラすることが好きかな。多分だけど長い付き合いになるし、お互いタメ口にしよう?」
そう言いながら握手のために手を差し伸べる。
決まった。爽やかさしかない完璧な挨拶だ。
「・・・わかった。私は柊聖羅、同じく高3で最近18歳になったわ。好きなことはカフェとかを巡ることよ」
うん、決まってなかったみたい。
まあいい、気を取り直そう。
「地球への帰還なんだけど、まだ僕の実力が足りなくてすぐには帰還できないみたいなんだ」
「そうなのね・・・」
うーん、と腕を組んで考える聖羅。
話し方はクールなのだが、見た目が小さくて可愛らしいからかそこまで冷たい印象を感じない。
「とりあえず、移動しましょう?」
「そうだね、森の中は危ないって言うし!」
一応周囲を警戒してはいるが、今のところ変な気配はない。
万が一気配があっても、いつでも叢雲を抜けるように準備している。
「・・・こうかしら?」
そう言った瞬間、聖羅を中心とした風が吹いた。
これを聖羅がやったのだとしたら、恐らく魔法だろう。
「あっちの方で森が終わってる。もしかしたら道かもしれないわ」
「・・・ああ、はい。なんだろう、初魔法なのになんの感慨もない・・・」
こいつ、もしや天才なのか。
僕も時空間魔法を使おうと思えば使えるが、どの場面でどのように使えばいいかなどはまだ全く分からない。
聖羅の示す方へ移動しながら、僕がジト目で見ていると少しドヤっとした視線が返ってきた。かわいい。
「今のは風魔法。魔法に技名とかは無くてイメージで自由に風を操れるみたい。ちなみにソナーみたいな感じで索敵をしてみたの」
「お、おう。スゴイデスネ」
技名とか決まった動きをする魔法がないのか。
それだと言うのに、風を索敵に使うとは・・・。
天才っているんだなぁ。
「お、森が終わったな」
徐々に木が少なくなり、空から降り注ぐ陽の量も増えた。
そして、開けた視界の先には道のようなものが存在していた。
コンクリートなどで舗装されている訳では無いが、踏み固められていて、所々に馬の足跡らしきものもある。
移動に馬を用いているとすると、定番通り中世ヨーロッパ辺りの雰囲気なんだろう。
「この足跡の向かった方向に行くのがいいと思うのだけれど、どうかしら」
「良いね。少し先に行ってて! 転移の練習したいから、10mくらい離れたら転移でそっち行く」
「分かったわ」
めちゃくちゃ安全に、そして穏やかに始まった異世界生活。
この先なにが待ち受けているのやら。
◇
しばらく歩いたり転移したりしていると、周囲を石垣で囲まれた村らしきものを発見した。
「お!あれ石垣じゃない!?」
「村、かしら?」
少し小走りになりながら近づいていくと、何やら違和感が。
地面には裸足の子供の様な小さな足跡が異常な程あり、そして所々石垣が壊されている。
なによりも───
「───人がいないわね」
そう、破壊された村の家屋。
たくさんの足跡はあるが、人は居ない。
「でも、人が襲われた形跡は無いね」
「えぇ」
もう1つ、違和感はある。
それは生活感がないこと。
井戸は潰されていて、家屋などには物が少ない。
大型の家具などは残っているが、食べ物などは何も残っていない。
これじゃまるで、村を捨てたような───。
「そうか、逃げたんだ」
「逃げた?」
「うん、村の人達は“何か”から逃げたんだと思う。しかも事前にね。だから食べ物とか井戸とか、そういうのが無いんだと思う」
「なるほど。何から逃げたと言うの?」
「この小さな足跡、最初は子供のものかと思ったけど違う。子供にしては量が多すぎるし、この村の規模でここまでの子供は養えない」
そして、異世界と言えばモンスター。
モンスターと言えば───
「ゴブリンだ」
俺の完璧な推理の前に、聖羅は呆然としていた。
「・・・ゴブリンって、なに?」
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