003 始まり
『そしてお二人の容姿が変わっている件についてですが、端的に言うとお二人は消滅しかけました』
「え...」
「消滅...?」
死んだではなく、消滅。
違いがよく分からないが、ラノベとかでよくある魂ごと消えちゃって転生とか出来なくなるアレかな?
『その通りです』
女神は僕の意見を肯定すると、話を続けた。
曰く、あの自然発生したゲートの中は人間が耐えられる環境では無いという。
入った瞬間に身体が、その1秒後には精神が崩壊し消え去ると。
「あれ、僕はそんなすぐに意識を失わなかった気がするんだけど?」
「私もです」
『それはお二人の魂が異常に強かったのです。貴方は意志の力で魂の崩壊を防ぎました。そして貴女は無意識だと思いますが、ゲートに入ったことで刺激された魔力を使って魂を囲うように防御壁を作った』
女神は面白いようなものを見る目で僕たちを見たあと、『お二人とも本当にすごい事を成し遂げたのですよ』と笑った。
『私がゲートに巻き込まれた異世界の人間が居ることに気付き、助けに入ったのがゲート発生から5秒後でした。正直もうダメかと思っていたのですが、驚くべきことにお二人とも存在していました』
なんだろう、こんな美人な人に褒められた経験がないからむず痒い気持ちでいっぱいになる。
きゃーっって叫びたくなる。
『まずお二人の魂を確保。ですが残念な事に肉体は既に消えていました。ですから、魂に記された身体の情報から新しく肉体を創り出したのです』
ほほう...。
つまり女神様が僕の新しいお母さんってことか!
『それは違います。遺伝子などは元々の御両親のままですよ。ただ、新しい身体を創るにあたってどうしてもお二人の種族を変えなければいけませんでした』
「そうなんですか?」
少女が首を傾げながら女神に問う。
『私はゲートの中のお二人の魂を一時的に確保しましたが、永遠にこのままという訳には行きません。そして、お二人をここから出すと再びゲートの中に戻ってしまうのです』
「なるほど。それで私たちを“耐えられない人間”から“耐えられる人間”にかえたのですね」
『その認識でほぼ間違いないです。あなた達はこの後ゲートの中に戻り、そして流れに身を任せて異世界へと行きます』
おぉー、異世界行けちゃうのか。
魔物とか居るのかな?
てゆか、『ほぼ間違いない』ってことは何かは違うってことだよな?
『はい、お二人は“耐えられる人間”ではなく───』
その後の女神の微笑みは、とてもとても綺麗だった。
拝啓
おじいちゃん、元気ですか?
僕は今日、とんでもない美少女と共に
《人間》から《天使》になりました。
敬具
◇
その後僕達は女神様からスキルを授かった。
異世界では全員がなんらかのスキルを持っているらしい。
僕には地球へと帰れる様に《時空間魔法》。
少女には今後の地球とリトスで生き延びることが出来るように《水魔法》とその上級の《氷魔法》、そして《風魔法》とその上級の《雷魔法》、更に異世界でも持っている人が少ない《聖魔法》という5つの魔法適正だ。
あれ、なんか僕よりすごくない?
『天使には創造神の加護が付きます。様々な効果がありますが、全能力向上、魔法強化、不老の3つを覚えておいてください』
「わぁ...僕人間やめちゃったよ...」
「すごいですね...」
今更ながらファンタジーな現実が実感を与えてきた。
頭の中には時空間魔法の使い方が自然と浮かぶ。
《無限収納》とか《転移》とか、便利すぎる。
『最後にお二人に武器を授けます。これから先、地球とリトスは交わることになるでしょう。どのような未来を辿るにしろ、武力が必要になることは間違いありません。ですので、この二つの武器を授けます』
女神が言い終わると、目の前に二つの武器が現れた。
ひとつは純白の鞘に入ったひと振りの刀。
もうひとつは神々しい木で出来た凄そうな杖。
『貴方...、いえ叢雲 癒良夢様にはこの刀を。そして柊 聖羅様にはこの杖を。刀の銘は“神刀 叢雲”、杖の名は“世界樹の杖”です。』
「“神刀 叢雲”...?」
「“世界樹の杖”...!」
僕の名字と同じ銘を持つ刀。手を伸ばし、握ってみると物凄く懐かしい気持ちと共に、まるで刀が自分の身体の一部のような感覚を得た。
『そろそろゲートに戻る時間です。お二人とも、お元気で。』
「は、はい!ユウェル様、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
僕が感謝の気持ちを伝えると、それに少女も続いた。
徐々に自分たちの身体が透け始める。どうやら本当にここまでのようだ。
視界が白く染まり何も見えなくなった僕達は、再びゲートの中へと戻された。
◇
『叢雲 癒良夢...。まさか、貴方の子孫に出会うことになるとは...』
くすくすと微笑む女神。
その表情は懐かしい記憶に思いを馳せているような、そしてどこか切なそうなもの。
『初代勇者様、貴方は1000年を経てなお、この世界に希望をもたらしてくれるのですね』
嬉しそうにはにかむ女神はそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。
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