001 消失
淡い日光が優しく辺りを照らし、少し涼しめの風が肌を撫でる。まだ9月ではあるが、北海道札幌市の気温は徐々に下がってきている。
「眠いなぁ…」
いつものように高校へ行くための道を、重い足を動かしながら進む。
この道を通るのも3年目、今やもう高校三年生だ。
指定校推薦で大学も合格したため、はっきり言ってやることがない。強いて言うなら自動車学校に通って免許を取るくらいだ。
毎日毎日同じような日々が続く。
今は亡き爺ちゃんの影響で幼少の頃から剣術を習っていた。小中高と剣道もやってはいるが剣術と剣道では勝手が違いすぎて正直剣道部つまらない。
部長の僕がそんなこと言ってたら部員に示しがつかないな。
この登校時間は小学生や中学生とも被るため、辺りは僕を含め子供で溢れかえっている。「右見て〜、左見て〜、手を挙げて渡る〜!!」という掛け声と共に、小学校低学年の子達が交差点を渡る様はとても微笑ましい。
「んあ、ゆっくり歩きすぎた」
小学生が渡りきったのを最後に信号が赤に変わる。
取り残されたのは僕ともう1人の少女だけのようだ。
後ろ姿しか見えないが、姿勢が良く、透き通るようにサラサラとした黒い髪がとても綺麗で清楚な印象を受ける。
のろのろと足を動かして前に進み、少女の横に立つ。
信号は未だ赤のままなので、ぼーっとしながら小鳥のさえずりに耳を澄ます。
「ピィピィ...ピィ、ピッ!? 」ジジッ…
ん?ジジッ…?
変な音に驚き、ぼーっとした状態から意識を覚醒させる。
周囲を見渡すが、横から車が突っ込んでくることも無い。もちろん後ろは歩道だし、近くの家で火事のようなものも起きてはいない。
「気のせいか…?」
「…?」
僕が独り言を言ったからか、少女がこちらを見て首を傾げる。
視界の端にその様子を捉えた僕はつい無意識に彼女の方見てしまい、目が合った。
すごい綺麗な子だ。顔立ちも整っているし、醸し出す雰囲気もとても綺麗。モデルや女優と比べても遜色ないどころか、この子の方が個人的に綺麗だと思う。モデルとか会ったことないけど。
「あの…?」
「あ、いや!なんでもないです!」
少女が恐る恐ると言った様子で声をかけてきたので、全力で無害なアピールをする。
ふう、危なかった。変質者だと思われるところだった。
ジジジッ!
「!?」
また聞こえた!
やはり気のせいでは無かった。
どこだ!と音源を探そうとして、ふと、彼女の後ろで何かが揺らめいているのが見えた。
それを見た瞬間、本能がその場から離れろと強く叫んだ。
これが何か分からないが、良いものでは無いのは間違いない。きっとこの世に存在してはいけないものだ。
後ろに飛んで少しでも距離を取ろうとした僕だったが、気が付いた時には何故か少女を抱き寄せて庇っていた。
「え!? なんで!?」
「きゃ、何するんですか!?」
ジジジジッッッ!!!
揺らめきがどんどん大きくなる。どうやら空間自体が揺らめいているような気がする。
音も大きくなってきた。少女も気が付いたようだ。
まだ何も起きていない。少し時間の余裕があるのか?
「逃げよう!」
「は、はいっ!!」
少女を抱き寄せたまま距離を置こうとする。
そんな僕たちを嘲笑うかのように、
────空間の揺らめきは爆発した。
その爆発に巻き込まれた僕と少女、ついでに周囲のコンクリートや信号機やらも一緒に…この世界から消え去った。
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