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■8. 新編、中国人民解放軍“第81統合任務戦線”!

 2021年4月23日。中華人民共和国の国営通信社『前華社通信』は、"南京解放から約70年”と題したコラムを発表した。


 コラムの内容は、4月23日は約70年前の国共内戦(人民解放戦争)において、中国共産党が指導する人民解放軍が、蒋介石らを打ち破り南京の解放に成功した記念日である、という話から始まり、続いて中国共産党の指導力が卓越している旨と、人民解放軍の精強さを一貫して誇り、今日もその伝統は続いているというものである。


 国営通信社である『前華社通信』の主張は、中国共産党の主張と読み替えて差し支えない。


 そのため周辺諸国は、これを台湾に向けた威嚇と捉えた。


 続けて4月24日、中国共産党政府は中央軍事委員会直轄の統合部隊として、“第81統合任務戦線”を新設したと発表。


 81と言えば中国人民解放軍にとっては特別な数字(8月1日が建軍記念日)であるため、この第81統合任務戦線が、中国共産党の威信がかかる何かしらのプロジェクトに関係していることは明らかであった。


 さらに第81統合任務戦線の最初の任務として、台湾本島東方沖の公海上で第81統合任務戦線所属航母戦闘群が、大規模演習を実施すると報じた。


「人の裏庭で、派手にやりやがる」


 中華民国海軍ミサイル駆逐艦『基隆』(キッド型)と、中華民国空軍電子作戦飛行隊のE-2Kホークアイ、同軍対潜作戦飛行隊のP-3Cオライオンが遠方から監視する中、第81統合任務戦線所属航母戦闘群は、予告通りに台湾東方沖公海上に展開した。


 その陣容は、満載排水量約6万7000トンの航空母艦『山東』を筆頭として、VLS艦対空誘導弾112セルを備えた055型ミサイル大型駆逐艦『南昌』、052D型ミサイル駆逐艦2隻、054型ミサイルフリゲート4隻、ほか補助艦艇数隻という壮々たるものであった(海上自衛隊に直せば1個護衛隊群に相当する)。


 この航母戦闘群が米国の空母打撃群を範とするのであれば、遠巻きに監視することしか出来ない中華民国海空軍からは分からなかっただけで、093型(商型)原子力攻撃潜水艦もまた同海域にいたことであろう。


 彼らの演習のメインは、やはり航空母艦『山東』からの発着艦と航空訓練であった。


 2019年12月17日に就役した航空母艦『山東』は、この2021年においても秘密のベールを脱いでいないが、練習空母『遼寧』が殲撃15型24機・回転翼機10~12機搭載可能だということを考えると、殲撃15型を30機以上搭載できることは間違いないとされる。


「こちら戦鷹、所定空域での警戒任務に就く」


『山東』が殲撃15型を発艦させるとともに、中華民国空軍もまた花蓮空軍基地より第17戦闘飛行中隊所属のF-16戦闘機4機を発進させた。


 これは殲撃15型が領空侵犯する可能性があれば、直ちに警告を実施するためである。


 地上の中華民国空軍第5航空団司令部の幕僚らは、口々に「くだらん茶番だ」と言い合いながらも緊張した面持ちで、状況を見守っていた。


 お得意の示威行動であって人民解放軍側が何かを仕掛けてくることはないだろう、という思いもあれば、万が一彼我の間で戦闘が発生すれば、どうなるだろうかという心配もある。


(連中も腕を上げてきている。領空に迷い込んでくるようなことはないはずだ。厄介なのはやはり、故意に領空へ接近してくることだが……)


 中国人民解放軍海軍の艦上機パイロットは、陸上機パイロットよりも厳しい選抜基準を潜り抜けてきた精鋭である。


 具体的には


①総飛行時間1000時間以上(内、殲撃11型等最新鋭機の飛行時間が500時間以上を占めていること)。


②5機種以上の操縦経験を持っていること。


③重大演習に複数回参加した経験があること。


④35歳未満であること。


 が、条件だと言われており、2018年の時点ではこの選抜基準が厳しすぎたためか合格したパイロットの数は50名ほどしかおらず、年間でも5名から15名ほどしか合格出来ていないという。


 故に事故で領空に入りこんでくるようなことは考えづらかったが、さりとて故意に何かを仕掛けてくるようなことがあれば、厄介な相手になりそうであった。


 実際、そうなった。


 発艦した複数機の殲撃15型は航法等の訓練も兼ねてか、台湾本島東部の領空を掠めるように飛行、これに対抗して中華民国空軍側では同数以上の戦闘機を出して追跡を行った。


「中国人民解放軍の連中は、台湾問題を一気に片づけるつもりかな」


 4月26日月曜日の古川内閣・閣僚会議、その前後で閣僚たちは左右でそんな噂話を交わしていた。


 日本国内の主要な大手新聞社は、4月23日から24日にかけての中国共産党と中国人民解放軍の動きを一斉に報じていたし、中国共産党に“極右”と称されたこともある『扶桑ふそう新聞』に至っては、中華人民共和国と中華民国の激突は不可避であり、日本政府は中華民国を支援するための策を打ち出すべきである、というコラムをぶち上げていた。


「紺野くんはどう思う」


「え、俺ですか」


 閣僚のひとりに話を振られたのは、紺野九郎こんのくろう防衛大臣であった。


 黒縁メガネがトレードマークのこの男は、台湾を巡る今回の出来事に特別な了見を持ち合わせてはおらず、またやってるよ、くらいにしか考えていなかった。


 加えて彼は情報の出所、つまりソースがない話はあまり好きではない。


 で、あるから、


「まだ防衛省うちや外務省の方々から説明は受けていませんから、なんとも……だいたいニュースで説明されていること以上のことはわかりませんよ」


 と言うのがせいぜいであった。


「俺はやっぱり、アメリカがいないしね。いま動くんじゃねえかなあと思ってるよ」


 口を挟んだのは内閣総理大臣を務めた経験もある、赤河あこう副首相・兼財務相だ。


 その横では、00年代の大泉総一郎内閣で外務副大臣や沖縄及び北方対策大臣を務めて以降、自由民権党の重鎮として活躍してきた大ベテラン、佐々木外相もうなずいている。


 先日、彼は外務省担当者から台湾政府が戦時準備を進めている旨、レクチャーを受けたばかりであったし、台湾海峡および周辺海域での中国人民解放軍の動きが活発化している以上、そうみるべきだろうと考えていた。


「戦争するってことは、戦うってことですから……どうなんでしょうかね」


 一方で大泉健二郎環境相のように、この台湾海峡危機が武力衝突にまで達するのか、疑問視する者も少なからずいた。


 いずれにしてもこの時、彼らは中国共産党の術中に嵌まっていたことになる。

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