■55.大陽動、そして戦争終結への一撃!(後)
日中両政府が戦争終結に向けて動き出すとともに、日本国自衛隊と中国人民解放軍の戦闘はむしろ激化した。当然ながら両者ともに、少しでも休戦協議を有利に進めたいという意図を持っていたからである。
どちらかといえば焦っているのは日本政府の側だ。
「中国共産党の連中は十中八九、現状維持での休戦を提案してくるはずだ。万が一、仲介役の米国がそれに賛同した場合、厄介なことになる……」
JTF-梯梧司令部は犠牲を覚悟の上で、より積極的な攻勢に打って出る。
……打って出ざるをえない。
協議が始まる前に石垣島から与那国島一帯の島嶼を奪回することが出来れば、中国側はぐうの音も出ないだろう。日中の領域は開戦前のそれに戻るはずだ。
逆に攻め切れなければ、中国側は現地住民を保護していることを口実に、現状維持を主張してくるかもしれない。そうなれば南西諸島の一部は、中国側による実効支配の下に収まることになる可能性がある。
「石垣島から与那国島までの島嶼部は、地上部隊を増強して押し切るとして」
さらなる問題は尖閣諸島であった。この尖閣諸島には現在、名実ともに無人島のまま放置されている。
当初、中国側は実効支配のために、駐留人員を配置しようとしていたらしい。
が、10月13日に3000トン級のヘリコプター搭載型海警船が触雷・沈没して以降は、維持や補給が大変な割に、軍事的価値が低いということで半ば忘れられていた。航空優勢・海上優勢を保っていた中国側からすれば、尖閣諸島に地対空・地対艦ミサイルを配置するよりも、石垣島や宮古島のような最前線を強化することが先決であった。
しかしながら、いま休戦協定に向けた協議が始まろうかという段になり、再び尖閣諸島が有する政治的な価値に中国共産党政府は、そして日本政府も注目することになった。
与那国島へ向かっていた中国人民解放軍海軍の機動部隊は、再び命令の変更を受け、現在は尖閣諸島北側の海域を遊弋している。海上自衛隊の潜水艦によって、尖閣諸島周辺海域には機雷が敷設されていることはわかっていたし、いわばここは敵の鼻先だ。いつミサイル攻撃を受けてもおかしくはない。尖閣諸島の周辺海域を航行することは、乗組員からするとかなりのストレスであった。
「戦争は終わる――」
中国人民解放軍第81統合任務戦線も、陸海空自衛隊JTF-梯梧もまたこの尖閣諸島に持てる限りの空海戦力を注ぎこむことを決意していた。尖閣諸島の所有権は、協議の際に航空優勢・海上優勢を握っている側が強く主張できるはずだ。
中国側が前述した機動部隊に殲撃11型B戦闘機をつけ、自衛隊の攻撃に備える一方、JTF-梯梧もまた早期警戒管制機による情報収集から、尖閣諸島周辺海域に敵水上艦艇が展開していることを察知した。これを排除するために、JTF-梯梧は戦爆連合を組織した。F-15J戦闘機から成る護衛機隊と、哨戒機を中心とする攻撃隊。F-35Aには尖閣諸島の北方へ忍びこみ、情報収集と増援の妨害を担当させる。
航空自衛隊・海上自衛隊による第一次攻撃は、さしたる戦果には繋がらなかった。
機動部隊を援護する8機の殲撃11型Bによる迎撃は容易に退けることが出来たが、052D型駆逐艦2隻と複数のミサイルフリゲートの防空網を貫通することは難しい。戦果としては1隻の054A型フリゲートの艦上構造物を大破させ、また迎撃に成功したものの無数の破片をその身へ浴びるに至った956型駆逐艦が1隻出るに留まった。
「旗を立てよ、だと」
一方でこの機動部隊には重要な任務が与えられた。
駆逐艦に搭載されている哨戒ヘリを飛ばして乗組員1名を降ろす、あるいは艦載艇でも何でも使って、釣魚島の砂浜に五星紅旗を立てろというのである。
司令と政治委員以下、乗組員は、国家の名誉と任務遂行の責任感を思うとともに腹を立てた。航空優勢は敵の側にあり、海面・海中には機雷が潜んでいる。無謀な行動だ。
(なんだってこんな小島のために部下を危険に晒さなければならないのだ)
航続距離ギリギリだが、本土から輸送ヘリを飛ばせばいいではないかと一同は思った。
実際のところ彼らには知らされていないだけで、中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部は、2機の輸送ヘリを飛ばしていたが、大陸沿岸と釣魚島の中間地点でミサイル攻撃を受け、撃墜されてしまっていた。
やむなく機動部隊は釣魚島上陸の準備に着手し――第2次攻撃を受けた。
必殺の十字砲火。東側からP-1哨戒機が空対艦誘導弾を発射するとともに、F-2Aが複数方向から攻撃を仕掛けた。海面を翔ける93空対艦誘導弾が、敵機動部隊の北側、南側に回りこむ。
完成する、包囲殲滅陣――。
◇◆◇
前線部隊が戦闘を停止し、休戦協定に向けた協議が始まったとき、両陣営の勢力圏はほぼ開戦前に戻っていた。
石垣島や与那国島では中国人民解放軍のレンジャー隊員らが、森林に潜んで抵抗を続けていたが、大勢としては自衛隊が奪還を成し遂げた形である。中国海軍の機動部隊が壊滅した後、海上自衛隊第1護衛隊群が展開した尖閣諸島に関しては、アメリカ政府の強い主張もあり、日本国の領域であることが再確認された。
「結局、我々が得られたのはわかりきった教訓だったな」
休戦協定締結前後でそう吐き捨てたのは、紺野防衛相であった。
戦争の根絶はまだまだ遠い未来の話――“次なる戦争”は必ず再び来る。
力ある者が弱き者を従えるという人類普遍のルールが未だ残っている以上、日本国民は備え続けなければならない。
護衛艦『いずも』改装、島嶼防衛用高速滑空弾、新型空対艦誘導弾。日本国を護る力はこれからも進歩していく。だがしかし、必ず中国人民解放軍はソフト面では追いついてくる、そしてハード面では自衛隊を引き離すことだろう。
では、隔絶する軍事力を前に何が出来るのか?
それはこの戦争を忘れないことだ、と紺野は思う。
防衛出動準備を発することが出来ていれば、自衛隊はより有利に戦えただろう。民主主義防衛の覚悟、と言えば大袈裟に過ぎるが、これを機に種々様々な議論が国内で起これば、日本政府と自衛隊はより効率的に戦えるようになる。
日本国は民主主義国家である。
日本国民が正義を信じ、正義が損なわれたことに義憤を覚えることが出来るならば、 “次なる戦争”においても日本国は勝利を収めるであろう。
次なる戦争・尖閣侵攻2021――日本国自衛隊vs中国人民解放軍――
(完)




