■53.大陽動、そして戦争終結への一撃!(前)
「消えた?」
中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部の参謀らは顔を見合わせた。
海上自衛隊護衛隊群は宮古島近海にて、石垣島強襲上陸作戦の手筈を整えているはず――。
そう信じてやまない彼らは、「補給のために本土へ戻っただけではないか」と結論づけた。
「護衛隊群が消えたなら、それはそれで好都合じゃないか」
陸海空自衛隊は、宮古島の次に石垣島やその周辺の島嶼の奪還を図るであろう。それは先の波照間島で証明されている。海上自衛隊護衛隊群に向けて振り上げた拳をどうするかという話になるが、これは自衛隊の前線基地となった宮古島にぶつければ間違いないはずだ。
そんな思考の下で、第81統合任務戦線司令部は宮古島に航空攻撃を指向した。
自衛隊機の要撃を躱すことに成功した数機の攻撃機は、宮古空港に駐機していた輸送ヘリ1機を撃破し、滑走路に損傷を与えるなど一定の戦果を挙げた。港湾に対しても同様である。
しかし不動の重要施設に対する攻撃が成功する一方で、地対空・地対艦ミサイルシステムを狩ることは出来なかった。これは自衛隊側が陣地の擬装を徹底した上に、中国側の航空攻撃の規模を見定めて地対空ミサイルシステムを立ち上げずに沈黙したためである。
さて。では、海上自衛隊の護衛隊群はどこに消えたのか。
答え合わせは彼我相撃つ激しい航空戦の最中、中国人民解放軍海軍の哨戒機によって行われた。
「まずい、狙いは与那国島だ!」
宮古島近海に張りついていたはずの海上自衛隊の水上艦艇は、太平洋上へ大きく迂回して与那国島南東の洋上に進出していたのである。
その途端に、中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部の面々は理解した。
石垣島方面の作戦は陽動で本命は与那国島――宮古島の次は石垣島、という“常識”の裏を掻かれた!
彼らは慌てて中国人民解放軍海軍の機動部隊を与那国島へ振り向け、与那国島沖に出現した海上自衛隊護衛隊群を攻撃するべく宮古島から帰還した航空部隊を差し向ける。
が、もう遅い。
自衛隊側の反攻作戦は入念に計画されており、乾坤一擲、戦力を集中させている。他方、守勢に立つ中国人民解放軍は苦しい。慌てて即座に反撃しようとすれば、戦力を逐次投入せざるをえない。
そして航空自衛隊の戦闘機部隊と海上自衛隊第2護衛隊群、第4護衛隊群の援護の下、巨大な鯨が払暁の空に現れた。長大な航続距離を誇る空色の巨体――C-2輸送機の群れ。沖縄本島を発して迂回、南方の空域を経て与那国島へ迫る彼らは、陸上自衛隊の最精鋭、第1空挺団をいま運んでいる。
「来た、空挺強襲だ……」
自衛隊与那国島強襲の可能性大、という通報を受け、叩き起こされた中国人民解放軍占領部隊の将兵らは、橙色の燃え始めた東の空に浮かぶ落下傘を見た。呆けている時間はない。
「いちいちびびるな! パラシュート部隊など、地に足を着ければ軽歩兵にすぎないッ!」
下士官が叱咤を背に、次々と装輪装甲車や徴用した島内の自動車に乗り込んで迎撃に向かう。
自衛隊のパラシュート部隊が精強であることは彼らをよく知っていたが、勝ち目は十分にあると踏んでいた。
この与那国島は、狭い。これが広大な大陸であれば、敵の降着地点へ向かうだけでも時間がかかるだろう。が、南北数km、東西でも10km弱のこの小島であれば、すぐに敵の所在は掴める。機械化・自動車化歩兵ならば、降着した第1空挺団の隊員らが集結する前に攻撃を仕掛けることも可能だ。
実際、そうなった。
陸上自衛隊第1空挺団の隊員らは与那国島中央から東部にかけての畑地や、牧場に着地し、その傍から中国軍兵士との交戦を余儀なくされた。特に町役場の東方に広がる畑地や牧場に降り立った隊員らは、落下傘を切り離すなり敵の銃火に晒された。彼らは無理に反撃を試みることなく、森林地帯へ身を隠した。
一方、与那国島中央部に降着した隊員達は、即座の集結と中国軍自動車化歩兵の撃退に成功している。与那国島中央部の平地は、占領部隊が駐屯している市街地とは森林で切り離されており、自動車が通行可能な道路には限りがあった。故に先頭を往く装輪装甲車猛士は激しい銃撃を受けて擱座の憂き目に遭い、あとは藪や木々の合間で歩兵同士の射撃戦と相成った。
「くそっ――」
緒戦は概ね中国側の優勢。
が、占領部隊司令部のスタッフらは歯噛みした。航空優勢が相手方に握られているため、一方的に艦砲射撃と航空攻撃を浴び、死傷者が続出している。歩兵戦闘車は敵戦闘ヘリコプターに狙い撃ちにされ、東西に伸びる県道216・217号は完全にマークされた。
さらに戦況は自衛隊側に傾いていく。
輸送機で与那国島の中央部・東部に降着した隊員と、中国軍兵士が銃撃戦を続ける中、今度は洋上の護衛艦から出撃した数機の輸送ヘリが、与那国島南部に現れた。キャンプ場・牧場と護衛艦を往還し、有力な増援部隊を送り込む。中国側は中央部・東部に自動車化歩兵を投入していたため、こちらに対する迎撃は後手に回った。
……。
「は?」
さて。
中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部が、海上自衛隊護衛隊群の突然の出現に驚いたように、JTF-梯梧司令部の一同もまた航空自衛隊・海上自衛隊からもたらされた情報に驚愕した。
「ロナルド・レーガンが戻ってきた?」




