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■52.イニシアチブは、誰にありや?

 一昼夜通して行われた陸海空自衛隊の威力偵察を兼ねた攻撃に対して、抵抗を試みた中国人民解放軍の石垣島占領部隊はかなりの損害を出した。

 西表島東部に布陣していた砲兵部隊は壊滅。頼みの綱の地対空ミサイル陣地は、F-2Aから成る攻撃隊を退しりぞけることに成功したものの、電波を逆探知されたことでF-35Aの航空攻撃に晒された。

 補給によって戦闘能力を取り戻した陸上自衛隊石垣警備隊と、水陸機動団の断続的な攻撃にも彼らは手を焼いた。地理に精通している石垣警備隊の伏撃と、障害物の敷設によって主力部隊が駐屯する市街地の石垣島南部と、森林に覆われた石垣島北部を結ぶ交通路が遮断された。中国側はこれを掃討しようと躍起になったが、それを予期して配置された石垣警備隊狙撃班の銃撃によって少なからぬ死傷者が出た。

 その合間にも、石垣島北部の海岸には次々と自衛隊側の増援が送り込まれ、遊撃隊はさらに強化されていく。数機のUH-60JAとCH-47JAに分乗して宮古島から投入されたのは、陸上自衛隊中央即応連隊の一部であった。このレンジャー資格者を中心に組織された数個小隊は、水陸機動団の偵察部隊とともに島内の偵察や、航空支援の誘導、遊撃戦にあたる。


「宮古島・石垣島間の連絡を切断しろ!」


 主に陸海空軍の将官・参謀の間で溝が深まりつつあった中国人民解放軍第81統合任務戦線司令部に対して、中央軍事委員会の政治委員数名は連名で積極的反撃に打って出るようにせっついた。

 宮古島と石垣島は150kmも離れていないため、固定翼機に比較すると鈍足なヘリでも片道1時間とかからない。この空路を脅かしてやらなければ、石垣島内を跳梁する自衛隊の遊撃隊は増強され続ける。否、遊撃戦どころか自衛隊側が大規模なヘリボーンに踏み切り、一気に石垣島をりにくる可能性は十分にあった。

 しかしながら、空海部隊の幹部らは乗り気ではない。

 宮古島にはすでに自衛隊の地対空ミサイルシステムが持ち込まれている。その上、周辺海域には2隻以上のイージス艦が張りついているため、航空部隊をぶつければ甚大な損害を被ることは間違いなかった。


「石垣島・石垣島周辺海域の航空優勢と海上優勢を取り戻し、敵遊撃部隊を掃討――本格的な自衛隊の強襲上陸に備えた方がよい」


 何も宮古島を叩く必要はあるまい、というのが第81統合任務戦線の結論であった。

 石垣島周辺空域の空中哨戒役の戦闘機を増強することで陸自ヘリの飛来を牽制。また海上自衛隊護衛艦隊と同様に、こちらも052D型駆逐艦を石垣島周辺海域に張りつけて、対空防御にあたらせる。こうして敵の航空攻撃を退ければ、石垣島に水上艦艇に守られた輸送船が入港し、重装備を再び揚陸出来るようになる、という寸法だ。

 第81統合任務戦線司令部の指導の下、中国人民解放軍海軍は戦意が旺盛な水上艦艇を掻き集めて新たな機動部隊を組織した。

 特筆すべきは艦隊防空を担う052D型駆逐艦2隻と数隻のフリゲートに、956型駆逐艦2隻を加えたことであろう。ソブレメンヌイ級駆逐艦とも呼ばれるこの駆逐艦は、90年代から00年代にかけてロシアから購入した水上艦艇であり、強力な艦対艦ミサイルを積んでいる。チャンスがあれば、航空部隊と連携して長射程、高火力のミサイルを撃ち込んでやろうという意図がはっきりしていた。

 さらに民間船舶の徴用と、サボタージュの疑いがある乗組員の排除・交代を進めることで、護衛艦艇によって万全に守られた輸送船団も用立てられるようになった。


 ただこうした機動部隊・輸送船団の組織は、1、2日で完了するものではない。第81統合任務戦線司令部では、その前に石垣島への強襲上陸を自衛隊が敢行するのではないか、とやきもきしたし、実際に自衛隊は幾つかの島嶼の奪還を試みた。


 払暁。未だ夜闇のわだかまる海上を渡った数機のUH-60JAが、石垣島の南西に浮かぶ小島、波照間島に向かった。

 完全なる奇襲攻撃である。

 2機のUH-60JAが波照間島空港上空でドアガンを連射して、駐機していた中国人民解放軍海軍の哨戒ヘリを粉砕するとともに、残るUH-60JAは空港の滑走路脇や駐機場に陸上自衛隊中央即応連隊の2個小隊を降ろした。

 中央即応連隊の隊員らは波照間島空港の施設を、30分とかからず制圧した。

 中国側の防備は手薄であった。必要最低限の武警が配置されていただけである。彼らは士気こそ高く、建屋から自動小銃で撃ち返してきたものの、UH-60JAの支援射撃と複数丁のミニミ軽機関銃による十字射撃を浴びて死傷者が続出。対人射撃と小火器の取り回しに長ける中央即応連隊の隊員たちの突入を待たずして、最終的には降伏した。


「怖いくらいうまく行き過ぎているな」

「フラグ立てないでくださいよ」


 波照間島空港を奪回し、後続のCH-47JAを待つ隊員らは、敵占領部隊の反撃があるのではないかと気が気でなかったが、結局すべては杞憂に終わった。人口500名に満たず、数百メートルの滑走路が1本しかないこの波照間島に投入された占領部隊は僅少であり、中央即応連隊の襲撃部隊に反撃する力はない。結果、中央即応連隊は複数個の小隊を島内へ投入することに成功した。

 昼には島中央部の市街地で散発的な銃撃戦が生起。慌てて島北西部にある波照間港近傍に設けられた中国側の前線司令部は、上級部隊へ増援を矢のように催促したため、西表島から急遽きゅうきょ、武警を漁船に分乗させて送りこむことになった。

 が、全てが遅きに失した。

 夕闇が深くなる頃、入港しようと接近してきたくすんだ白色の漁船は、突如として曳光弾を浴びた。


「は?」


 呆けている間にも先頭の漁船には、無数の風穴が空いた。防弾装備もない民間徴用の漁船は、出火しながら岸壁に激突。そのまま転覆してしまった。


「連絡がいってないのか!? こっちは味方だぞ!」


 同時に最後尾の漁船もまた、12.7mm重機関銃と軽機関銃の猛射に晒されていた。1分と経たずに船内は血溜まりに肉片と内臓が浮く地獄と化す。中央を往く漁船に乗る兵士たちは最初こそ味方からの発砲と勘違いしていたが、すぐに自衛隊員からの攻撃を受けていると気づいた。

 しかし、後戻りすることさえ許されない。

 すでに港を押さえていた中央即応連隊の1個小隊は反撃するいとまさえも与えず、漁船に分乗していた増援部隊を海上にて殲滅した。


 さて。このように最前線で苦戦が続く一方、海軍の機動部隊を送り出そうとしていた第81統合任務戦線司令部は騒然となっていた。


「海上自衛隊の護衛隊群が宮古島近海から消えている――?」




◇◆◇


本日、『まもろう、エルフの森!――日本国環境省環境保全隊vs人類至上主義異世界帝国――』が小説家になろう日間総合ランキングに入りました!これはひとえに皆様が応援してくださっているおかげです。ありがとうございます!

本作に関しては年内、あるいは年初に完結予定です。

荒唐無稽なお話ですが、今後ともお付き合いいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします!

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