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■48. 宮古島奪還作戦――“純愛”発動。(後)

 煙幕を展張しながら波を掻き分けながら進んできたAAV7は、さしたる反撃を受けることもなく海岸線に姿を現した。端整な白浜をえぐり、わだちを残しながら彼らはそのまま内陸へ突進する。橋頭堡きょうとうほの確保――この宮古島奪還作戦において、最も苦しい任務が彼ら戦闘上陸大隊に課せられていた。

 AAV7の後部ハッチから次々に水陸機動団の隊員が現れ、全周警戒に入る。

 AAV7は1輌あたり20名以上の兵員を収容出来ることになっているが、実際には重火器をはじめとする武器弾薬を運搬しなければならないため、このときは1輌あたり10名前後しか搭乗していなかった。後部ハッチから姿を現した隊員の中には、複数本の対戦車火器を携行する者も見受けられる。中国人民解放軍が戦車や歩兵戦闘車を以て反撃してくる可能性を、彼らは十分想定していた。AAV7の重機関銃や40mmグレネードでは、99A式戦車に対して歯が立たない。


「姿勢を低くしろ!」


 水陸機動団の隊員らは海岸線沿いに薄く存在する幅100mほどの雑木林を抜けたところで、突如として連続する銃声に迎えられた。

 最先頭のAAV7に付き従っていたひとりの隊員の肩口がはじける。悲鳴。どくどくと血が湧き出す銃創を咄嗟に掌で押さえるが、同時に撃たれたショックと激痛で転倒してしまった。それを他の隊員が引っ張り、林へと後退していく。

 狙撃手だ、と誰かが怒鳴った。その傍からまたひとり、ふたりと被弾していく。宮古島は概して平坦な地形で見通しが利く。故に1000m以上離れた小学校や建物からでも、海岸線近くまでの射線が通ってしまう。

 狙撃手による攻撃で前進が鈍った瞬間、中国人民解放軍側の抵抗が本格化した。

 一輌のAAV7が対戦車ロケット弾の攻撃を受けて被弾炎上したのを皮切りに、水陸機動団の隊員らの背後へ次々と迫撃砲弾が落下し始める。死傷者が続出した。ところがしかし、隊員らはじっと耐える。


(好き勝手やりやがる)


 その隊員らの頭上にひゅうが型護衛艦『いせ』から飛び立ったAH-64D戦闘ヘリコプター2機が現れた。翼下に引っ提げているのは、ヘルファイアミサイル8発と70mmハイドラロケット弾38発。陸自最強のこの戦闘ヘリコプターは、その半分を海岸線沿いに点在する建造物へ投射した。

 3階建ての校舎の窓にロケット弾が吸い込まれ、水陸機動団隊員を照準していた狙撃手が爆散し、民宿の屋根に潜んでいた観測役が30mmチェーンガンの掃射を浴び、砕かれた建物の破片と粉塵の中で、その五体は血煙となって文字通り消滅した。


「――ッ!」


 とはいえAH-64Dといえども、反撃を恐れずに済むわけではない。

 地上から発射された7.62mm機関銃弾が濃緑の機体表面を叩く音を、操縦士らは耳にした。反射的に急旋回し、射線から逃れる。加えて地上から赤外線シーカーを備えた個人携行型の地対空誘導弾がAH-64D目掛けて発射された。

 が、陸自ヘリパイロットと彼らが操る自衛用システムの方が上手である。フレアディスペンサーが作動して空中に複数の火球を燃焼させ、機体後部上面に備えられた七色に輝く赤外線妨害装置が電気的に欺瞞用熱源を生成する。二段構えの目晦めくらましである。敵ミサイルはフレアが生み出す熱源に追随してしまい、虚空で炸裂するに至った。


「やはり東部に点在する小学校やペンションは、の火点となっていたか」


 自衛隊統合任務部隊司令部は、即座にF-2戦闘機による航空攻撃の実施を決定した。事前に地図情報等から座標が取得出来る不動の建造物相手ならば、F-35Aによる隠密偵察と座標作成は必要ない。ただし例年、強烈な台風の直撃を受ける宮古島内の建物は、極めて堅牢な構造をしているため、そこは不安が残るところだった。


「撃ち方はじめ」


 水陸機動団をバックアップするのは空からだけではない。

 護衛艦『しまかぜ』は127mm速射砲2門を海岸線へ巡らせると、対地射撃を開始した。見通しが悪い地上の目標相手では初弾命中は期待出来ないが、しかしながら先に隠密上陸していた火力誘導役の偵察隊員の観測により、速やかに有効弾を得られるようになった。火焔と爆風に押し出された速射砲弾は、海岸線から500mほど内陸にある民宿や民家が固まっているエリアを文字通り薙ぎ倒し始めた。

 背後に敵兵が潜む石垣やコンクリート塀が砲弾の直撃を受けて突き崩され、絶好の狙撃ポイントであった2階建ての民宿のベランダが崩れ落ちる。兵員輸送車が隠されていたガレージに127mm速射砲が突き刺さり、次の瞬間には爆炎が噴き上がった。


「前進――」


 この弾雨の下、AAV7を先頭に据えた水陸機動団の一部は、海岸線近くにあるゴルフ場とその周辺の畑地の制圧に動いていた。広大な駐車場や平坦に均された地形は、後続の輸送ヘリが降着するのに都合がいいため、優先すべき攻略目標であった。沖縄本島のCH-47JAに先んじて、『いせ』から発艦したUH-60JAがゴルフ場に増援を降ろしていく。


 一方、中国側の手落ちはこの東海岸にあるゴルフ場に、ろくな守備部隊をおかなかったことだ。展望台やレストランには機関銃や狙撃銃を有する小隊が配置されていたが、広大なゴルフ場全域を守るにはあまりにも寡兵に過ぎた。それでも彼らは近づく自衛隊員を寄せつけまいと努力した。

 が、一輌のAAV7がガラス張りの玄関を突き破り、ロビーを制圧するとあとは上階へ追い詰められてしまい、最後には降伏せざるをえなかった。

 ゴルフ場が確保されると同時に、CH-47JAが大挙して押し寄せる。完全武装の普通科隊員のみならず、120mm迫撃砲RTや車輛を吊り下げている機体もあった。流石に榴弾砲は空輸出来ないが、狭い島内であれば有効射程数kmの重迫撃砲でも十分にカバー可能である。

 そして全付加装甲を纏った45トンを超える鋼鉄の獣もまた、LCACに搭載された状態で宮古島に足を踏み入れた。

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